近年では、真夏の豪雨災害や台風の大型化などで、河川の氾濫による水害が増加しています。日本は、諸外国と比較して地震による被害が多い国として有名ですので、「地震への備え」に関しては多くの人がその必要性を認識していると思います。しかし、集中豪雨や台風による水害については「所詮雨が強いだけだし大した被害なんて出ないのでは…」と、軽く考えている人も少なくないのではないでしょうか?
特に台風や集中豪雨などは、「雨が多い地域」「台風の通り道になりやすい地域」などが昔からの経験則によってある程度認識されているため、「自分が住んでいる地域は水害の心配がない…」などと考えてしまっている人も多いのです。しかし、異常気象などが叫ばれている近年では、台風の進路や大雨が降る地域が変わってきており、突然の水害で予想もしていなかった大きな被害が出てしまう…なんてことも多くみられます。例えば、平成30年7月に発生した『西日本豪雨』では、ハザードマップで示された想定浸水区域に避難勧告が出ているのにもかかわらず、自主判断で避難せずに被災してしまった…という事例が非常に多かったと言われています。
毎年のように台風や豪雨による水害が発生している日本では、地震に備えるだけではなく水害への対策も必要不可欠となるでしょう。特に、お客様の大切な製品を製造・保管する工場や倉庫が水害による被害を受けてしまえば、お客様の大切な商品がダメになってしまったり、製造を行うためのさまざまな設備が故障してしまったりと、企業の運営すら危ぶまれる甚大なダメージを受ける可能性があるのです。
そこで今回は、工場や倉庫などで水害による浸水対策を行おうと考えた場合、ぜひ参考にしたい企業の取り組み事例をご紹介します。
浸水被害防止に向けた企業の取組事例
それでは、工場や倉庫などで進められている実際の取り組み事例についてご紹介していきましょう。ここでご紹介する取り組み事例は、国土交通省が公表している『企業及びライフライン・インフラ事業者等における先行的な取組事例』からの抜粋となります。
(株)アシックス[製造業]
アシックスは、皆さんもご存知の通りスポーツ用品メーカー国内最大手の企業です。アシックスは、本社が神戸市のポートアイランドにあり、阪神・淡路大震災があった際に埋め立て地であることから交通が寸断されたという過去があります。その経験からさまざまな災害対策を行うようになっています。水害対策においては、「電力等ライフラインの停止に対する備え」と「企業活動の中枢であるサーバー等の電子機器に対する浸水対策」をメインとして行っているそうです。
- 洪水ハザードマップなどを根拠とした BCP 発動基準を設定しています。
- 予防対策・復旧対策の導入により、水害被害の軽減を目指している
- 万が一本社が被災した場合には、本社機能を神戸市内の同社「スポーツ工学研究所」に一時移転することで、本社機能を代替可能としています。
(株)アトック[製造業]
(株)アトックは、平成27年9月に発生した関東・東北豪雨により本社事務所が60cm以上浸水してしまった経験があります。そのため、過去の水害の経験を活かし、現在では「企業活動の中枢であるサーバー等の電子機器に対する浸水対策」を行うようになっています。
- サーバーや重要書類などを机の上など可能な限り高い場所に移し、被害を最小限にする。
- 従業員が利用しているPCを机の上に上げ、浸水を免れるようにする。
(株)大塚製薬工場[製造業]
大塚製薬工場は、国内輸液市場の約50%を生産している、基礎的医薬品メーカーです。万一の水害に備えて「電力等ライフラインの停止に対する備え」と「企業活動の中枢であるサーバー等の電子機器に対する浸水対策」などの水害対策を行っているそうです。
- 浸水対策として、工場周囲全周に防潮堤を整備しています。
- 万一の浸水に備えて、物流拠点を分散化しています。
- 重要データやシステムの相互バックアップ体制の構築等を含むBCMを策定しています。
(株)コロナ[製造業]
コロナは、近年人気の給湯器であるエコキュートを開発した企業として有名で、さまざまな水害対策を行っています。というのもコロナは、2004年7月に発生した大雨で、近隣を流れる五十嵐川の堤防が決壊したことにより本社1階部分がほぼ水没してしまい、社内の停電被害が発生したという経験があるのです。さらにこの時の水害では工場の1階部分にも浸水を許してしまい、生産設備が水没してしまうなど、非常に大きな被害を受けてしまいました。
このような経験から、近年では「電力等ライフラインの停止に対する備え」と「企業活動の中枢であるサーバー等の電子機器に対する浸水対策」などの水害対策を進めています。
- 基幹システムをアウトソーシングすることで、システム面の被害を回避するようにしている。(2001年から行っています。)
- 従業員が使用するPCについて、持ち出しやすいノートパソコンへの切り替えを行いました。
- 社内LANの無線化を行い、無停電電源装置を2階へ導入しました。
- 災害時の行動手順、緊急時対応ハンドブックを作成・携帯すると共に、三条市水害対応防災訓練に積極参加しています。
ここまでで、さまざまな企業が行っている実際の水害に対する取組事例をご紹介してきました。国土交通省が公表しているガイドブックには他にもさまざまな事例が掲載されていますので、ぜひ一度ご確認ください。
参考資料:企業及びライフライン・インフラ事業者等における先行的な取組事例
まとめ
今回は、近年増加している集中豪雨や大型台風に備えるため、さまざまな企業が実際に行っている水害対策の取組事例をご紹介してきました。冒頭でもご紹介しましたが、地震による被害が多い国として有名な日本では、普段から地震に備えるためにはどうすれば良いのか?ということは多くの方が考えていることだと思います。しかし、台風や大雨に関しては、日常生活上で何らかの対策が必要だと意識するような方は少ないのではないかと思います。
しかし、ここ数年の状況を見てみると、地球温暖化の影響なのか、夏場の集中豪雨や、大型台風が日本に上陸することも非常に多くなっているように思えます。従業員の安全やお客様の商品を守るためには何らかの対策が必要不可欠になっていると思います。特に注意が必要なのは、台風の進路なども変わってきているように思えますので、今までは水害による被害などが少なかった地域でも決して安心はできないと思います。したがって、全ての企業に万一水害が発生してしまった時には「どういった行動をとればいいのか?」ということを考えておく必要があると言うことです。