天井クレーンの点検は行っていますか?法定検査を無視すると送検される恐れも…

今回は、工場や倉庫で忘れられがちな「天井クレーンの法定検査」についてご紹介します。天井クレーンのメンテナンスについては、クレーンが装備された倉庫・工場物件もそれほど多くないこともあり、法定検査の重要性自体が認知されていないのが実情だと言われています。さらに、工場や倉庫にクレーンが装備されていたとしても、2.8t以下のものが多く、「2.8t以下の小さなクレーンに関しては検査の必要がない」と間違った認識まで広まっていると言われています。
しかし、吊り上げ荷重0.5t以上の全てのクレーンは、労働安全衛生法やクレーン等安全規則で定期自主検査の対象と定められているのです。

事業者は、ボイラーその他の機械等で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、定期に自主検査を行ない、及びその結果を記録しておかなければならない。
引用:労働安全衛生法 第45条

第三十四条 事業者は、クレーンを設置した後、一年以内ごとに一回、定期に、当該クレーンについて自主検査を行なわなければならない。ただし、一年をこえる期間使用しないクレーンの当該使用しない期間においては、この限りでない。
第三十五条 事業者は、クレーンについて、一月以内ごとに一回、定期に、次の事項について自主検査を行なわなければならない。ただし、一月をこえる期間使用しないクレーンの当該使用しない期間においては、この限りでない。
引用:クレーン等安全規則

今回は、工場や倉庫に装備されている天井クレーンの定期自主検査についてご紹介します。

参考:クレーンの関係法令一覧はコチラ

天井クレーンに必要な自主検査とは?

それでは、工場や倉庫に装備されている天井クレーンに必要な自主検査が、どのようなものなのかをご紹介します。天井クレーンは、作業現場において人間の力では持ち運びができないような重量物を運搬するために使用されます。そして、毎日のように数トンに上る重量物の運搬を行うため、使用状況によっては激しく消耗してしまうのも避けることができません。
天井クレーンは、モーターや制動を行うブレーキなど、さまざまな金属部品によって構成されているのですが、日々の使用によって劣化・消耗してしまい、故障や不具合を招いてしまうことがあります。そうなってしまうと、作業効率が低下してしまうのはもちろん、従業員の命に関わる重大事故につながってしまう恐れもあるのです。
こういった設備の不具合は、いつ起こるか分からないものですので、事故リスクを限りなく小さくするためにも定期的な検査・メンテナンスが求めらています。

法律で定められた自主検査について

冒頭でご紹介したように、天井クレーンを装備した工場や倉庫では、法律で「一年以内ごとに一回および一月以内ごとに一回」の自主検査が義務付けられています。自主検査が義務付けられているクレーンは、以下のようなものとなります。

  • 吊り上げ荷重0.5t以上のクレーン(移動式を含む)
  • クレーン等安全規則が適用されるデリック、エレベーター、建設用リフト又は簡易リフト

上記のようなクレーンは、所定の検査項目について点検を行う必要があり、さらに検査結果を3年間保管しなければいけません。

天井クレーンの検査項目について
天井クレーンの検査項目や検査方法、判定基準については「定期自主検査指針」(厚生労働省告示)で公表されています。検査すべき箇所は、「ランウェイ部分」「鋼構造部分」「走行機械装置」「横行機械装置」「潤滑装置」「電気関係」「安全装置」「荷重試験」となっており、それぞれの検査方法や判定基準も細かく定められています。もちろん、検査した結果、これに適合しないのであれば部品交換や修理など、大幅なメンテナンスを入れる必要があります。
検査方法や判定基準についてはコチラをご参照ください。

具体的な検査内容について

それでは最後に、工場や倉庫に天井クレーンなどが装備されている場合、具体的にどのような検査が必要になるのかを簡単にご紹介しておきます。上述しているように、クレーンなどの検査は「一年以内ごとに一回」、「一月以内ごとに一回」と異なるタイミングで行う必要があります。それぞれに必要になる検査は、クレーン等安全規則で定められていますので以下でご紹介します。

クレーンの年次定期自主検査

吊り荷重500 ㎏以上のクレーンは、「クレーンを設置した後、一年以内ごとに一回、定期に、当該クレーンについて自主検査を行なわなければならない。」と定められています。年次定期自主検査では、以下の箇所を検査する必要があります。

  • 構造部分、機械部分、電気部分の異常の有無
  • ワイヤロープまたはつりチェーンの異常の有無
  • つり具の異常の有無
  • 基礎の異常の有無
  • 荷重試験

上記のような検査を行い、異常を認めたときは、直ちに補修しなければないと定められています。

クレーンの月次定期自主検査

吊り荷重500 ㎏以上のクレーンは、「一月以内ごとに一回、定期に、次の事項について自主検査を行なわなければならない。」と定められています。月次定期自主検査では、以下の箇所を検査する必要があります。

  • 過巻防止装置や過負荷警報装置などの安全・警報装置と、ブレーキおよびクラッチの異常の有無
  • ワイヤーロープおよびチェーンの損傷の有無
  • フックやクラブバケットなど、つり具の損傷の有無
  • 配線、集電装置、配電盤、開閉器・コントローラの異常の有無
  • ケーブルクレーンにあっては、メインロープやレールロープ、ガイロープを緊結している部分の異常の有無。ならびにウインチの据付けの状態

毎月一回、上記の箇所を検査する必要があります。

作業開始前点検

上記のような自主検査で何の異常がない場合でも、クレーンを用いて作業を行う時には、作業開始前に天井クレーンに異常がないか点検を実施することが義務付けられています。作業開始前点検では、以下の項目について点検を行います。

  • 巻過防止装置、ブレーキ、クラッチおよびコントローラの機能の点検
  • ランウエイの上およびトロリが横行するレールの状態の点検
  • ワイヤロープが通っている箇所の状態を点検

上記のような箇所を点検し、クレーンが正常に作動するか厳格なチェックを行う必要があります。

自主検査の記録と保存期間

クレーン等安全規則第38条では、「事業者は、自主検査及び点検(作業開始前の点検を除く。)の結果を記録し、これを3年間保存しなければならない。」と定められています。検査記録の保存期間は以下の表をご参照ください。

項目 年次定期自主検査 月次定期自主検査 作業開始前の点検
点検時期 1年以内毎に1回 1月以内毎に1回 作業開始前
実施者 事業者の指名した者 事業者の指名した者 担当運転士
記録 年次自主検査表 月例自主検査表 始業点検簿
保存 3年間保存 3年間保存 法的にはない

まとめ

今回は、工場や倉庫において、天井クレーンを装備する場合に必要になる法定検査についてご紹介しました。工場や倉庫で使用するクレーンは、数百kg以上の荷物を運搬させますので、考えている以上に劣化・消耗が激しいものです。そのため、きちんと決められた検査を行っていなければ、従業員を傷つけてしまうような事故が起こる可能性もあります。平成26年には、福岡の工場でクレーンによる重大事故が発生し、安全衛生法第45 条(定期自主点検)違反の疑いがあるとして書類送検された例もあります。法律で定められた自主検査は必ず実施するようにしましょう。
なお、自主検査の実施には、法定の資格などは必要とされませんが、「定期自主検査者安全教育要領」(厚生労働省通達)に基づいた教育(定期自主検査者安全教育)を検査者に実施するよう勧奨されています。