従業員が危惧する『企業の災害対策』。不安に思うのはココ!

地震や台風、集中豪雨による洪水など、突発的に発生し、甚大な被害をもたらすのが自然災害です。昔から地震や台風が多い地域として知られていた日本ですが、最近では毎年のように豪雨による大規模な災害が発生しており、現代の日本社会に生きている誰もが、いつ自分の身に災いが襲いかかるか分からない状態と言えます。
こういった状況下にある日本では、1日の大半の時間を過ごすこととなる勤務先が「どのような災害対策を講じているのか?」ということは、従業員にとっても非常に関心が高い事柄だと思います。見方を変えれば、企業の災害対策担当者は、従業員全ての命や安全を守るため、非常に重要な責任を担っている立場となります。しかし実際には、従業員たちが自社の災害対策について、どのような不安を持っているのかなどは、推測することもなかなか難しいのではないでしょうか?

そこで今回は、企業が行う災害対策について、従業員が不安に感じることが多い点についてご紹介していきます。

企業の災害対策で従業員が不安を感じる点について

引用:3.11 大震災以降の職場と個人の実情に関するアンケート

まずは、東日本大震災をうけて、財団法人労務行政研究所が2012年に行ったアンケート調査をもとに、従業員が企業の災害対策についてどのような点を不安・不十分だと感じているのかご紹介しましょう。この調査は、「岩手、宮城、福島の 3 県を除く全国の 20~59歳のビジネスパーソン 485 人」に行ったもので、なんと自分が勤務する企業の災害対策が「十分だ」と答えた人は全体の4.1%しかないという結果となっています。「ほぼ十分である」を合わせたとしても全体の4割で、過半数のビジネスパーソンは自社の災害対策は「不十分である」と評価しているのです。
それでは、このアンケートに答えた方が、自社の災害対策が不十分と感じる理由をいくつかあげておきましょう。上に紹介した表の「実施していない」「分からない・知らされていない」と回答した割合が多いものは以下の項目となります。

  • 災害で出社困難な場合の対応ルールの周知:61.5%
  • オフィス家具・備品の固定など防震・転倒対策を実施:59.3%
  • 災害時の行動マニュアルの整備:55.7%
  • 飲料水・非常食などの備蓄:53.2%
  • 非常時の社内対応体制(災害対策本部の設置など)の整備・ルール化:53%

上記の中でも、そもそも災害時の行動マニュアルや出社困難時のルールは整備しておきたいものですね。以下でもう少し詳しくみていきましょう。

参考資料:3.11 大震災以降の職場と個人の実情に関するアンケート

企業の災害対策のポイント

それではここからは、上述した「企業の災害対策が不十分」だと判断されたいくつかの項目について、その原因や改善するための対策についてご紹介します。

「災害で出社困難な場合の対応ルールの周知」について

上述したアンケートにおいても、最も不十分と評価されたのがこの部分です。実際に、何らかの災害が発生した時、テレビなどでも出勤のため駅で行列を作って、「出勤しなければいけないのか判断できないからとりあえず会社に行く…」などとインタビューを受けている映像が放送されることが多いです。こういった状況が発生する主な理由は、「そもそも災害時に従業員がどのように行動するのか?」というルールが作られていない…ということや、ルール自体はあるが「全ての従業員に周知できていない…」という2点が考えられます。
原因がわかれば改善策は簡単です。

対応ルールがつくられていない場合
大規模地震や広範囲な水害など、想定を超えるような事態が発生した場合、多くの従業員が出勤と欠勤の狭間で迷いを覚えることとなります。こういった場合、従業員が会社に求めているのは、「出勤・欠勤を判断するための明確な基準」となります。従業員は「迷ったら出社する」と判断しがちですので、非常時に取るべき行動の明確な基準を策定することが求められます。
この点に関して、東京海上日動リスクコンサルティング株式会社が、災害時の『出社に関する基本事項』を紹介していますので、それを参考にしてみましょう。

  • 安全に出社可能な交通手段、徒歩経路がある
  • 職務可能な健康状態である
  • 家族の安全等に関し、重大な懸念事項がない

参考資料:首都直下地震における帰宅困難者対策(その2) P.2

従業員に周知ができていない場合
従業員のために災害時の行動指針などを策定していたとしても、きちんとそれが周知されていなければ意味がありません。したがって、以下の方法などで、普段から社員に周知しておくようにしましょう。

  • 対応ルールや行動マニュアルを一体化して従業員に配布する
  • 対応ルールを常時所持できるように携帯カードなどとする。そうすることによって周知だけでなく従業員の不安払しょくにも役立ちます。

上記のように、従業員に配布する対応ルールには、会社への連絡方法などを記載しておくと、混乱が少なくなるはずです。

災害時の行動マニュアルの整備

次は「災害時の行動マニュアルの整備」についてです。上述した「出勤困難時の対応ルール」も少し関係していますが、従業員からすれば災害時にどういった行動をすれば良いのか?ということが分からないのは、やはり不安で仕方ないこととなります。それではこの部分にはどのような問題があり、さらに改善するための対策は何をすればよいのでしょうか?

行動マニュアルの内容が理解されない
まず、企業が策定した行動マニュアルを従業員が理解しきれていない…という問題点があります。当然、マニュアル作成に当たっては、社員がその骨子を理解できることが最も重要となります。災害時の行動マニュアルの作成方法などは、各地方自治体のサイト内でも詳細な説明がありますので、簡潔明瞭な行動マニュアルを作成するための参考としてみてはいかがでしょうか?
参考:宮城県『災害時初動活動マニュアルの作成例について
参考:京都市消防局『防災行動マニュアル策定のためのガイドライン
行動マニュアルの形状について
こういった行動マニュアルについては、普段から携帯できるように考えられた形状になっていることが少ないです。そのため、従業員は通常時に行動マニュアルを手に取るようなことが無くなってしまいますし、これが行動マニュアルを理解していない…知らない…という問題につながるのです。日本経済団体連合会の「企業の地震対策の手引き」によると、こういったマニュアルは使用する段階に合わせて、それぞれ使いやすい形式にしているのが望ましいとされます。この手引書によると、企業の行動全般を記述したものの他に、下記のようなマニュアルを作成するのが大切とされています。

  • 危機管理キーパーソン用マニュアル(対策本部長の意思決定の判断要領などを記載したもの)
  • 一般社員用マニュアル(就業時間外についての規定も含めた 24 時間の行動指針)
  • ポケットマニュアル(初動期に実施すべき項目を抜粋。カード型など携帯可能なもの)

なお、こういったマニュアルは、電子媒体だけでなく紙ベースのマニュアルで保管することも大切とされます。
参考資料:日本経済団体連合会「企業の地震対策の手引き

まとめ

今回は、企業が作成する災害対策について、実際に従業員はどのように感じているのかについてご紹介しました。本稿でご紹介したアンケート調査を見ても、多くの従業員は自社の災害対策について「不十分」と感じており、さまざまな面に不安を感じているということがわかります。これは、そもそも災害対策マニュアルなどが策定されていないということも理由のひとつなのですが、作成されていたとしても、それが十分従業員に周知されていないという側面もあるそうです。

こういった災害対策や、行動マニュアル、企業的なルールは、いくらわかりやすく良いものを作ったとしても、それを参考にする従業員に周知されていないのであれば全く意味がありません。近年では、地震や台風だけでなく、豪雨災害などの水害も頻繁に発生していますので、大切な従業員の安全を守るため、もう一度企業としての災害対策を見直してみて、従業員への周知徹底を心がけましょう。