【2022年最新版】物流業界BCP対策の策定方法と事例紹介

BCPとは「事業存続計画」のことで、有事の際に事業資産の損害などを最小限に留めつつ、各企業の中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするため、「平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段」などを取り決めておく計画のことです。

日本では、豪雨、台風、豪雪、地震などの自然災害が毎年のように発生しますが、これらの災害はサプライチェーンを分断し、人々の暮らしや企業活動に非常に大きな影響を与えています。実際に、過去に発生した災害では、長期間にわたり事業を休止せざるを得ない状況に追い込まれたり、場合によっては廃業に追い込まれてしまう企業もあるなど、企業にとって災害へのリスク対策は急務となっています。このような状況の中、日本では東日本大震災を契機にBCPの策定を行う企業が増加していると言われています。物流業界に関しては、各業界団体が、以下のようなBCPの策定ガイドラインを公表していますので、これを参考にBCPを策定した物流企業は多い事でしょう。

このように、人々の社会生活を下支えする物流業界では、BCPの策定を終わらせている企業が増加しているのですが、ここにきて新たな問題に直面しています。と言うのも、従来のBCPは、地震や台風、豪雨など、近年激甚化していると言われる自然災害時に企業活動を止めないための対策と言う視点で考えられていました。それが、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを経験した今、感染症対策と言う部分を見直しする必要があると認識されるようになっています。
そこでこの記事では、コロナ禍を経験した今、物流業界に求められるBCPがどのように変わってきているのかを解説します。

BCP対策策定状況について

引用:内閣府「令和元年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査

それではまず、国内企業のBCP策定状況に関するデータをご紹介しておきます。上のグラフは、内閣府が公表したデータで、これによると、令和元年度で、大企業の68%が既にBCPの策定が完了していると答えています。さらに「策定中」も含めると、83%もの割合になります。中小企業においては、策定中も含めて53%(策定済み:34%)にとどまっていますが、BCPの策定に取り組む企業が確実に増えているのがよくわかります。

ただ、コロナ禍を経験したことにより、既に策定済みのBCP対策が、新型コロナウイルスのような感染症問題に対しては完全に想定外になっていたという企業が多かったというデータもあります。例えば、みずほ情報総研株式会社が行った「新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査」では、「BCPが効果的に機能した」と評価した企業が僅か17%しかなかったというデータがあります。他にも、日本物流団体連合会が行った調査でも、コロナ問題を経験した今、今後の対策としてBCPの見直しを上げている企業が多くあったとされています。

今後必要と考える対策について
■ 新型の感染症に対応したBCPの整備
〇上述の初期対応に関して、既存の自然災害 BCP・新型インフルエンザ対応マニュアル等の内容では不足しており、新たに総務部や対策本部等で検討し、すでに策定/改定済みの事業者もみられる。
〇今回の感染拡大をふまえ、多くの事業者が今後の感染症拡大、未知のパンデミック発生も視野にいれた BCP の早急な策定の必要性を感じている。

このように、既にBCP対策を策定している企業でも、感染症対策に関しては検討が不十分で、現状のBCPでは効果的ではないと判断している企業が多いようです。

参照:新型コロナウイルス感染症流行を踏まえたBCPに関する調査
参照:物流企業における新型コロナウイルス感染症への対応動向調査

BCP対策の策定方法について

それでは、BCP対策の策定方法についても簡単に解説しておきます。帝国データバンクが毎年行っている「BCPに対する意識調査」によると、各企業が「事業の継続が困難になると想定しているリスク」は、5年連続で『自然災害』がトップとなっています。ただし、2019年度の調査では約25%と10位であった『感染症』が、2020年(69.2%)、2021年(60.4%)では連続して2位に位置付けられています。

それでは、こういった災害リスクに備えるためには、どういった手順でBCPの策定を行えば良いのでしょうか?ここでは、簡潔にポイントのみをご紹介しておきます。

参照:帝国データバンク「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2021年)

BCP対策の手順

それでは、BCP策定の手順を簡潔にご紹介していきます。

  1. 自社における中核事業の特定
    BCPは、有事の際に中核事業に絞って事業を行うことで、収益の安定化・復旧の効率化を目指すものです。したがって、まずは支障をきたすと企業の存続が危ぶまれるような損害が生じる中核事業を特定しましょう。
  2. 必要な資源の洗い出し
    企業は「人材・原料・資金・データ・施設・設備」など、さまざまな資源を所有しています。そして、BCPを策定する上では、有事の際に復旧が難しいもの(ボトルネック)の選別が必要です。例えば、設備の優先順位が高い場合、耐震化を進める、人材の確保が重要な場合、万一の際に配送に協力してもらえる企業を確保するなど、優先度の高い部分から対策を優先的に施します。
  3. リスクや被害の想定
    BCPを策定する上では、起こりうるリスクとその被害を想定することが重要です。今までは自然災害リスクが重視されていましたが、感染症やサイバー攻撃などのリスクが増大しています。リスクを想定したうえで、中核事業にどれぐらいの被害が生じるのかを想定します。コロナ問題などに関しては、従業員全員が感染したらどうするのか、出勤制限によって業務にどの程度の支障が出るのかを想定する必要があります。さらに、そういった被害に耐えられない場合、復旧に要する時間や代替手段も想定しておきます。
  4. 復旧時間の目標設定
    最後に、目標復旧時間を設定します。復旧の遅れや取引の中止は、ビジネスの存続に直結する問題ですので、BCPの中でも最も重要視される部分でもあります。なお、目標時間の設定に関しては、自社内だけの問題ではなく、取引先が「許容できる時間」のことも考慮する必要があります。したがって、中核事業における取引先とは、普段からコミュニケーションをとり、有事の際の対応などをお互いに確認しておく必要があります。さらに、有事の際に事業がストップしてしまった時には、災害による損失の補填や、取引先への違約金など、多くの資金が必要になるので、事業が停滞したまま耐えられる期間がどの程度なのか、財政状況などから復旧時間の目標を設定する必要もあります。

BCPの策定においては、基本的に上記のようなポイントを押さえておく必要があります。なお、各業界団体が、BCP策定のためのガイドラインを公表していますので、それらを参考にするのも良いでしょう。

注意が必要なのは、従来のBCPでは感染症やサイバー攻撃の対策が不十分な点です。例えば、有事の際のリスクに関しても、「道路やインフラが被災したことを想定して代替えルートを考えておく」「ある拠点が被災した際、別拠点からの配送に切り替える」などと言った自然災害対策がメインになっています。しかし、コロナ禍のように、「全社員が出勤できない」「テレワークを導入する部署の線引き」などのリスクが想定されていないケースが多いので、感染症対策の面はしっかりと考慮するようにしましょう。

新たに取り組まれ始めた感染症BCPについて

それでは最後に、コロナ禍を経験した現在、新たに取り組まれ始めた感染症問題も考慮したBCP対策についても、いくつかの事例をご紹介しておきます。

  • 体制の検討
    BCPの観点から、感染拡大を防止しつつ業務がおこなえるよう、2チーム制での運用を導入する企業が増えています。コロナ禍では『密の防止』という言葉をよく聞きましたが、多くの人員が一か所に集まることを防止し、感染防止をしながら通常業務を進める対策として有効です。
  • 働き方の検討
    新型コロナウイルス感染症問題以降、日本国内でもテレワークなど、新しい働き方が急速に拡大しています。
  • 自動化
    有事があった時も、業務をストップすることなく、従業員の安全を守れる対策として自動化がさらに拡大しています。なお、コロナ問題以降、業務部分の自動化だけでなく、入退室やトイレ、水道などの自動化を進め、極力非接触ですむような対策をおこなうケースも多くなっています。

感染症BCPとして、上記のような対策に取り組む企業が増加しています。なお、大分県が、感染症BCPも含めた業種別BCP事例集を公開していますので、以下のページもぜひご参照ください。

参考:感染症対応BCP策定の手引き及び業種別BCP事例集を作成しました。

まとめ

今回は、多くの企業が取り組み始めているBCPの策定についてご紹介してきました。この記事でご紹介したように、BCPの策定率は、大企業も中小企業も年々右肩上がりで増加傾向を見せています。ただし、新型コロナウイルス問題以前のことを考えると、感染症についての対策などは全く考慮されていないというケースが非常に多いようです。

実際に、みずほ情報総研株式会社が行った調査では、BCPを策定している企業でも、コロナ禍で「BCPが効果的に機能した」と評価したのは僅か17%しかいなかったという事態になっています。日本国内でのBCPは、台風や集中豪雨、豪雪や地震など、自然災害に着目しているケースが多いのですが、感染症問題が発生した時のBCP策定が急務だと考えましょう。