労災隠しは犯罪です!労災認定の基準と補償をご紹介します。

『労災(労働災害)』は、仕事が原因となっておきた怪我や病気などの災害のことで、労災が原因となり働けなくなった場合には、医療補助などの名目で、厚生労働省から保険料の給付を受けられることになっています。しかし、労災と認められるにはさまざまな手続きが必要になり、一定の基準を満たさなければ認定を受けることができません。さらに、場合によっては、基準を満たしているにもかかわらず、企業側がこれを認めない『労災隠し』などがあることも社会問題となっています。
労災隠しとは、その言葉からも分かるように、労災が発生した事を、労働基準監督署へ報告しない。もしくは、虚偽の報告をしてしまうことをいいます。本来、労災の報告は企業の義務とされていますが、「手続きが面倒…」、「企業イメージが低下してしまう…」「報告の義務を知らなかった…」などと言った理由で労災隠しが起きていると言われています。
そこで今回は、労災に関する基礎知識をご紹介していきます。

労災の種類について

『労災(労働災害)』という言葉に関しては、ほとんどの方が一度は耳にしたことがあると思います。しかし、実際に労災かどうかを判断するための目安に関してはご存知でしょうか?一般的に労災を判断するときの大きな目安は以下のふたつです。

  • 業務遂行性・・・仕事中に発生した怪我・病気であるかどうか
  • 業務起因性・・・怪我や病気の原因に仕事内容が関係あるか
「工場内での作業中に、機械で怪我をした…」という場合には非常にわかりやすいのですが、労災は分かりやすいケースばかりではありません。以下で、ケース別に労災と判断される状況についてご紹介します。

仕事中に発生した労災

これは、労災として最も判断がしやすい種類です。例えば、「作業中に機械に巻き込まれて怪我をした」「作業中に転倒して骨折した」などで、労災と聞けばほとんどの方がこういったケースをイメージすると思います。他にも、営業で外に出た際に、「営業先に向かっている際、事故に巻き込まれた…」などと言ったケースは、会社の管理下にはないものの、仕事中に発生した事故であれば労災に認定される可能性があります。
ただし、いくら施設内で起こった怪我や病気でも、「昼休憩中に野球をしていたら怪我をした」などといったケースは、私的な行為にあたるため、労災とは認められません。

通勤中に発生した労災

意外と知らない人が多いのですが、通勤途中(出社・帰宅時)に発生した負傷なども労災と認定されます。ただし、この場合は、合理的な経路と方法を使って通勤している場合に限られます。
「合理的な経路と方法」でないと判断されるのは、電車通勤と会社に報告し、定期代などの通勤手当をもらっているのにかかわらず、隠れて自転車で通勤している場合などです。他にも、退社後に同僚と飲みに行き、そこで転んで怪我をしてしまった…などと言うケースは、私的な行為にあたるため、労災とは認められません。

被害の原因が仕事内容に関係する労災

これは、労災の判断が難しいタイプで、怪我や病気などの被害が業務と因果関係にあるもので、上述した「業務起因性」が認められるものです。代表的な例をあげると、少し前に問題となったアスベスト問題や過労死、パワハラによる精神疾患などがあります。これらは、怪我や病気などの被害が「仕事中に起こる可能性があると予想できるか」ということが重要で、近年パワハラやセクハラなどの「●●ハラスメント」は社会問題になっていますね。
しかし、仕事がきっかけで同僚と口論になり、それがエスカレートして殴られて怪我をした…などと言ったケースは、被害と仕事内容の関係を立証することが難しいため、労災と認定される可能性は低くなります。

労災で受けられる補償の種類

それでは、怪我や病気が労災と認定された場合には、どのような補償を受けることができるのでしょうか?労災で受けられる補償は、さまざまなものがありますので、知識として持っておきましょう。

療養補償 無料で治療や薬剤の支給などを受けることができる。
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休業補償 4日目以降は給与の8割(休業(補償)給付:6割+休業特別支給金2割がもらえる。※ボーナスなどの特別給与は除く。
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障害補償 障害が残った場合は、年金か一時金が支給される。
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介護補償 介護を受けている場合、その費用が支給される。
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遺族補償 遺族に年金または一時金が支給される。
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参考資料:厚生労働省「労災保険制度の概要、給付の請求手続等」より

労災隠しが起こる理由

それでは最後に、労災隠しが起こってしまう理由について少し触れておきましょう。上述したように、労災が発生した場合には、労基署に法定の報告を行わなければならないのですが、虚偽の報告を行ったり、報告自体を行わない『労災隠し』をする企業もあります。もちろん、こういった労災隠しはれっきとした犯罪で、厳重な刑罰(労働安全衛生法違反:50万円以下の罰金)も用意されています。
それでは、罰則まで用意されている『労災隠し』が起こってしまう理由はどのようなものがあるのでしょうか?一般的に労災隠しが行われる理由は以下のようなことが考えられます。

保険料が上がってしまう…

労災隠しが起こってしまう大きな理由の一つで「労災保険を利用すると保険料が上がってしまう…」というものがあります。これは、労災保険に『メリット制』と呼ばれる制度があるのが大きな原因のひとつになっています。
簡単に言うと、労災が発生しなければ企業が支払う保険料が安くなり、労災報告が多ければ保険料も高くなるという仕組みです。つまり、労災を報告してしまうと、それだけで企業にとってデメリットになるわけです。このメリット制は、従業員100人以上の企業であれば自動的に適用され、また危険な作業を伴う事業者も同様です。ただし、建設業以外の従業員20人未満の企業であれば適用されません。

参考資料:メリット制の詳細

企業イメージの低下

労災の発覚は、同業者から敬遠されたり、場合によっては行政から営業停止処分などをうけ、その後の事業に大きな悪影響を及ぼす可能性があります。また、有名企業での労働災害は、大々的に報道されてしまうこともあり、企業イメージを大きく悪化させ、時には取引先に契約を切られてしまうこともあるでしょう。したがって、これらを恐れ、労災隠しを行う企業があるのです。
しかし、イメージ低下を防ぐために行った労災隠しが発覚した場合、書類送検されることがほとんどですので、さらなる企業イメージの低下を招いてしまう危険があります。

手続きが面倒…またはやり方が分からない

労災隠しは、労災の手続きが面倒…そもそも方法がよく分からない…といった理由で発生することもあります。工場や建設業など、労災の発生を想定している企業では、労災時の対処法がマニュアル化されていることが多いですが、デスクワークが主な企業では、労災が発生することが想定されていない場合もあるのです。そのような場合、いざ労災が起きてしまっても、担当者が労災申請のやり方がよく分からないため、放置されてしまうケースがあるのです。

まとめ

今回は、仕事が原因となっておきる怪我や病気など、労働災害に関する基礎知識についてご紹介しました。工場や倉庫で働くことを考えた場合、周囲にはさまざまな機械が使用されていますので、少しの油断が事故につながってしまいます。企業側からすれば「従業員の油断が原因だし、労災なんて…」と、会社と被災者従業員間で完結させようと考えるかもしれませんが、労災隠しは立派な犯罪となります。
したがって、自社で労災が発生した場合には、きちんと決められた対処をするようにしましょう。