近年、さまざまな課題を抱える物流業界では『スマートロジスティクス』という言葉が注目されています。物流関係の仕事に就いている方であれば、『スマートロジスティクス』という言葉自体は耳にしたことがあると思うのですが、この言葉が具体的に何を指しているのか正確に理解できていない…という方も多いと思います。
そこでこの記事では、物流業界のさまざまな課題解決のキーワードといわれている『スマートロジスティクス』について、その意味や導入による効果などを簡単に解説していきたいと思います。
物流業界が抱える課題とは?
それではまず、現状の物流業界が抱えているさまざまな課題についてご紹介していきたいと思います。スマートロジスティクスが注目されている背景には、私たちの日常生活を下支えする『物流』において、そこに存在するさまざまな課題を解決するという目的があります。したがって、スマートロジスティクスを正しく理解するためには、「そもそも物流業界の課題とは?」を理解しておく必要があるでしょう。
ここでは、物流業界の現状と代表的な課題を簡単にご紹介しておきます。
- 慢性的な人手不足
少子高齢化による労働力不足が深刻化している日本では、さまざまな業界で人手不足が深刻化しています。その中でも物流業界は、慢性的な人手不足に陥っていると言われています。具体的な数字で見ても、国土交通省が公表したデータによると、日本の物流を支えているトラックドライバーは、有効求人倍率が2.79倍と非常に高い数字になっています。全業種の有効求人倍率は1.44倍ですので、他の業種と比較してもトラックドライバーの求人倍率が飛びぬけて高いことが分かります。 - 小口発送増加による積載率減少
スマートフォンの普及や外出自粛などの様々な要因もあり、EC市場規模はさらに拡大しています。最近では、単純なBtoCのネットショッピングだけでなく、ユーザー個人同士が行うCtoC(フリマアプリなど)での売買も増加している中、新型コロナウイルスの影響で、利用者数がさらに増加していくと予想されています。これによって物流業界で起きているのが、少量・小額の小口配送の急増です。小口配送の増加は、配送需要が高くなって良いと思われがちですが、実は、1台のトラックに載せられる荷物の重量は減少して、トラックの最大積載量に対する積載率は減少してしまっています。積載率は、高ければ高いほど、効率よく荷物が運べていることを表しています。そして、小口配送の増加によって、積載率が減少しているなど、輸送効率が落ちている※1ことが課題となっているのです。
国土交通省が公表したデータによると、2000年の積載率が1.73トン/件だったのに対し、2015年には0.98トン/件と小口化しているとされています。また、「営業用トラックの積載効率は直近では約40%まで低下している。」という点も課題となっています。
参考データ:国土交通省「物流を取り巻く動向について」
参考データ:国土交通省「トラック業界の課題と今後の対策について」
スマートロジスティクスとは?導入によって何が解決できる?
インターネットを利用すれば、クリック一つで何でも手に入る便利な時代になっていますが、購入した商品が手元に届くのは、物流業界の頑張りがあるからです。しかし、ECの市場規模が年々拡大し、物流が盛んになった現在では、上述のようなさまざまな課題に頭を悩まされる物流企業が増えています。
このようにさまざまな課題を抱える物流で、業務を効率化して配送の効率を高めるための手段として『スマートロジスティクス』が注目されるようになっているのです。スマートロジスティクスは、IoT(Internet of things)やAIなどの最新テクノロジーを用いて、物流管理の効率化を目指すものとされています。
それでは、スマートロジスティクスの導入は、物流業界が抱える課題をどのようにして解決していくのかも簡単にご紹介します。
配送効率の向上
スマートロジスティクスは、配送の効率化に非常に役立ちます。例えば、以下のような場面で効率化が期待できます。
- 在庫管理の効率化
倉庫管理システムを導入することによって、在庫管理の自動化や不良在庫の減少などが期待できます。また、今まで在庫管理にかけていた人員を他の業務につかせることも可能です。 - 適正な配送・運行計画の作成
配送管理システムなどを利用すれば、最適な配車・運行計画を自動で作成することができます。これによって、ドライバーの負担軽減や積載率の向上が目指せます。 - 配送ルートの適正化
トラックにIoTデバイスを搭載し、積載した荷物情報や配送場所、時間指定などを管理させることができます。これにより、リアルタイムの交通状況などと連携し、最適な配送ルートを提示してくれるなど、ドライバーの負担を大幅に軽減します。また、経験の少ないドライバーでも、配送指定時刻に遅れてしまうといったミスを防ぐ助けになります。
倉庫作業の効率化
物流は「荷物を運ぶ」だけでなく、倉庫内で行われるピッキングなどの業務も含まれています。そして、スマートロジスティクスは、こういった倉庫内作業の効率化も実現することができます。例えば、ピッキングをロボットに任せるなど、業務の一部を自動化するという技術から、最近ではほぼすべての工程をAIやロボットを駆使して自動化している倉庫なども登場しています。
倉庫内の効率化を目指した技術は、別の記事で具体例をご紹介していますので、以下の記事をご参照ください。
まとめ
今回は、物流業界において、年々その注目度が高くなっている『スマートロジスティクス』の基礎知識についてご紹介してきました。
この記事でご紹介したように、EC市場の拡大の裏側では、物流企業がさまざまな課題に頭を悩ませるようになっており、業界自体の急速な進化が求められています。そしてスマートロジスティクスは、現在の物流業界が抱える課題の多くを、まとめて解消できる可能性を持っています。