年々勢いを増すEC市場では、さまざまなECサイトやそれを取り巻く多様なサービスが誕生しています。EC事業では、消費者が直接商品を手に取って購入するのではなく、インターネット上で購入手続きを行うことで、消費者のもとに商品が『お届けされる』仕組みになっています。したがって、EC市場の拡大は、物流業界全体に大きな影響を与えることになります。
消費者側からすれば、「EC市場が拡大している」と言われても、あまり実感が無いという方が多いと思います。しかし、BtoCにおけるEC市場では、平成30年の市場規模が約18兆円に上り、これは前年の16.5兆円から約9%の拡大となっています。また、BtoBの市場規模に関しても、平成30年が344.2兆円となっており前年の318.2兆円から約8%の拡大となっています。これは、スマホやタブレットなどの普及もあり、どこにいても自分に必要なものをネットで検索し即座に購入できるような時代になり、EC市場へ参入する企業が増えたことがなどが大きな理由になっているのでしょう。
このように、現在でも毎年10%程度の拡大を続けるEC市場ですが、配送需要が高まる一方で、物流業界の人手不足や業務の激化が深刻化していると言われています。そこで物流業界では、人手不足の解消のため、最新テクノロジーの導入による省人化・省力化が急務となっているのです。
この記事では、物流業界が取り組む省人化・省力化対策の中でも『ドローン』を用いた配送の現状や今後の課題についてご紹介します。
参照データ:経済産業省「電子商取引に関する市場調査の結果を取りまとめました」
『ドローン配送』の現状
それではまず、近年注目されているドローンによる配送の現状をご紹介していきましょう。『ドローン』と言えば、テレビなどの映像分野で活用されているというイメージが強いのですが、最近ではさまざまな分野において試験的、または本格的な導入・運用が始まっています。例えば、建設業界などでは、ドローンを用いた測量が導入されるようになっていますし、一般住宅のリフォーム業界でも屋根などの劣化状況を調査するためにドローンが積極的に利用されるようになっています。
それでは、物流業界におけるドローンの活用はどのような状況になっているのでしょうか?実は既にドローンを活用した物流の実証実験が世界中で行われるようになっています。
『ドローン配送』の実証実験について
ドローンを活用した配送は、amazonが有名です。日本国内では、ごく最近になって物流業界でのドローンの活用が注目されてきたように思えますが、アメリカに本拠地がある世界最大級のECサイト『amazon』では、かなり早い段階からドローンによる配達の実用化に乗り出しています。ちなみに、2013年12月には、アメリカのニュース番組内でドローン配送を「5年以内に実用化させる」と宣言したことも一時期大きな話題となりました。
しかし、残念ながらamazonによるドローン配送に関しても、5年以上経過した現在でも本格的な実用化に至っていないのが実情です。ただし、これはドローン技術の問題というよりも、法規制の問題のようです。ちなみに、amazonでは「Amazon Prime Air」というサービスを開発しており、2016年にイギリスで行った実証実験では、顧客が注文してからわずか15分で商品が手元に届いたという結果が出ています。
その他にも、世界各地でドローン配送の実証実験が行われていますので、以下でいくつかの実証実験事例をご紹介しておきます
参考:エベレストでの実証事件の動画はコチラ
ちなみに、2019年7月より、日本で初めてドローンを使った一般利用者への有料サービスをスタートさせています。
参考①:楽天プレスリリースより
参考②:楽天プレスリリースより
『ドローン配送』の課題とは
ここまでの説明で分かるように、ドローンによる配送は世界各国で実証実験が進められており、物流業界での実用化が期待されています。しかし、本格的なドローン配送を実用化するためには、まだまだ解決しなければならない課題も多いと言われています。例えば、映像業界で活躍するドローンは、そもそも物流を目的につくられていないため、出力が弱く、操縦のための電波が届く範囲も広いもので数百メートル程度と、物流業界では不十分だと言われています。しかし、これらの弱点を解消するため、出力の高いドローンを運用しようと思えば、電波法により無線免許や基地局の開設が必要になるなど、さまざまな障壁が存在しているのです。
上記以外にも、以下のような課題が残っていると言われています。
- 強風などの悪天候時であっても安定的な飛行を維持しなければならない
- 電波干渉を回避しなければならない
- 長時間運行を実現する必要がある
- 万一、ドローンから荷物が落下した場合の安全性の確保
- 配送中に荷物が破損した場合の補償はどうするのか
ドローン配送を実現するためには、上記のような課題が存在します。
またこれ以外にも、「自立飛行が可能なのか?」と言う点も非常に大きな課題となります。テレビなどで見かけるドローンは、1体のドローンにつき一人の操縦者がいるという形になっているのですが、物流業界で活用することを考えれば、同じような運用方法では人件費の問題も生じてしまいます。配送のためにドローン操縦者を大量に雇わなければならないとなると本末転倒です。
したがって、本格的にドローン配送を実用化するためには、指定箇所まで自立飛行できるシステムや、人が介在しなくても受け渡しができるシステムなどの開発も必要になると考えられます。ドローン配送は、物流業界の省人化・省力化を実現するための手段として非常に期待されていますが、技術的、法的な課題もまだまだ多いのが現状と言えるのではないでしょうか。
まとめ
今回は、物流業界で期待されているドローン配送について、世界各地で進められている実証実験や本格的な実用化をするための課題をご紹介しました。この記事でご紹介したように、スマホやタブレットが普及した現在では、どこにいても買い物ができるようになっており、EC市場の拡大は今後さらに進むと予測されています。
しかし、現在の物流業界では、人材不足が深刻化しており、配送需要がこれ以上増加したとしても、それをさばけるだけの人員がいない…となってしまう可能性もあると言われています。そのため、物流業界では、最新テクノロジーを用いた省人化・省力化が期待されています。ドローンによる配送は、まだまだ解決しなければならない課題も多いですが、できるだけ早く実現してほしいものですね。