今回は、製造業の中でも、さまざまな食品の取り扱いを行う食品工場における温度や湿度管理の重要性について考えてみたいと思います。
近年では、製造業界における自動化・ロボット化が急速に進んでいます。しかし、食品製造業界は、他の工場などと比較すれば、まだまだ人手に頼っている工程が非常に多いのが現状です。食品製造業界は、納品先の都合を優先した製造品種・量の切り替えに対応しなければなりませんが、工場の規模によっては多額のコストをかけて自動化を進めることが難しい…などという現実があります。
そのうえ慢性的な人手不足に悩まされている…という企業も少なくありません。そもそも、食品製造の現場は、「食品を取り扱う」という特性上、人にとってはどうしても暑かったり寒かったり、高湿といった過酷な労働環境になってしまいがちです。さらに、重量物を取り扱う機会も珍しくないなど、ネガティブなイメージを持たれている労働者も多いと言われています。
そこでこの記事では、食品工場などの製造現場が注意しておきたい、労働者に配慮した温度や湿度管理についてご紹介します。
Contents
労働者の安全衛生を守るための義務
それではまず、食品の製造現場で働く労働者の安全衛生を守るためには?という視点から、温度や湿度管理を考えてみましょう。冒頭でご紹介したように、さまざまな食品を取り扱う食品製造の現場では、食品の特性に合わせなければならないため、暑熱、寒冷、多湿といった過酷な作業環境になりがちで、その状況で長時間働く労働者の健康にさまざまなリスクを生じさせてしまいます。
例えば、高温多湿な作業環境になってしまうと、室内の作業でも熱中症の危険が考えられます。それでは、こういった労働環境は「仕方ない…」ものなのでしょうか?
当然そのようなことはなく、労働者が安心して働ける安全衛生の基準を設けた省令『労働安全衛生規則』で、作業環境の温・湿度管理について定められており、それらに対応するための工夫をしている企業がほとんどです。
(温湿度調節)
第六百六条 事業者は、暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場で、有害のおそれがあるものについては、冷房、暖房、通風等適当な温湿度調節の措置を講じなければならない。
(気温、湿度等の測定)
第六百七条 事業者は、第五百八十七条に規定する暑熱、寒冷又は多湿の屋内作業場について、半月以内ごとに一回、定期に、当該屋内作業場における気温、湿度及びふく射熱(ふく射熱については、同条第一号から第八号までの屋内作業場に限る。)を測定しなければならない。
引用:e-Govより
このように『労働安全衛生規則』では、労働者の安全と健康を守るため、「温湿度調節」と「湿度等の測定」を使用者に義務付けています。
食品工場などにおける温・湿度管理のポイント
それでは、食品工場における温・湿度管理のポイントについても簡単に解説していきます。上述したように、過酷な労働環境になりがちな食品の製造現場では、労働者の安全・健康を守るためには?という視点が非常に重要になります。ただし、生鮮食品や精密機械を取り扱う現場では、それだけではなく、食品の品質管理や機械の故障防止・安定稼働のために必要な温・湿度管理も重要になります。
ここでは、さまざまな点に注意しなければならない食品工場での温・湿度管理のポイントをいくつかご紹介しておきます。
労働者が快適に作業できる環境を作るための工夫
まずは、過酷な労働環境になりがちな食品製造現場において、労働者の安全と健康を守るための工夫についてご紹介しておきます。
食品製造現場では、何より取り扱う食品の品質を維持することが重要です。しかし、そればかりに注目していたのでは、過酷な労働環境となってしまい、労働災害のリスクが生じてしまいます。こういった事態を避けるためには、以下のような労働環境改善対策を検討してみましょう。
- 冷蔵工場での労働環境改善対策
冷蔵温度帯の工場では、低温下での作業が必須となります。労働者が「寒さ」を感じたとしても、品質管理上の問題から室温を上げるようなことはできません。このような場合には、『労働者のみを温める』ことができるような工夫が必要です。例えば、作業場所の足元にスポットヒーターなどを導入すれば、食品の品質を保ったまま労働者の健康を守ることができるでしょう。他にも、防寒着やカイロを支給するなどの対策も有効です。 - 熱気や湯気の対策
作業内容によっては、作業中に体の周りを湯気がまとわりつく…といったことも考えられます。こういった状況は、視界が悪くなりますし、熱気で体調不良を起こしてしまうなどのリスクがあります。こういった問題を解消するためには、局所排気装置を導入することが考えられます。熱や湯気が発生する場所は分かっているのですから、効率よく換気することができるようにすることで、過度な暑さにさらされることも少なくなります。他にも、製品の品質を守ることができるという前提であれば、スポットクラーなどを配置して、労働者の暑さを解消するのも良いでしょう。
食品工場の労働環境は、上記のように少しの工夫でも大幅に状況を改善することが可能です。他にも、少し大きな規模になりますが、作業現場からアクセスの良い場所に快適な休憩室を設け、労働者が適度に休憩がとれるような体制を作るなどという方法もあります。
もちろん、製造現場ごとにさまざまな事情があるかと思いますが、労働者にとって「より働きやすい環境を整備する」ということは、モチベーションを向上させることにつながり、生産性向上も期待できるのではないでしょうか。
クリーンルームにおける温・湿度管理
『クリーンルーム』といえば、ホコリなどが不良品や欠損品の発生原因となる半導体やデジタル家電の製造現場で利用される工業用クリーンルームをイメージする方が多いかもしれません。しかし、食品製造現場でもクリーンルームの需要が非常に高いです。食品製造業におけるクリーンルームは、空気中の浮遊微生物や細菌、虫などの異物の混入を防止する目的で採用されており『バイオクリーンルーム』とも呼ばれます。
このようなクリーンルームでは、労働者の健康管理のため、より慎重な温・湿度管理が求められます。というのも、クリーンルームは、室内の空気を綺麗に保つことが目的ですので、外気を遮断する構造をしています。そのため、室内は空気の流れがほとんどなく、温度や湿度が上がりやすいという特徴があるためです。一般的に、クリーンルームは「室温23℃前後、湿度55%前後」に保つのが理想的と言われていますので、クリーンルーム専用の空調などを導入し慎重な温・湿度管理を行いましょう。
食中毒リスクを考慮した温・湿度管理
ここまでは、「労働者が安全で健康に働くため」という視点から、食品工場での温・湿度管理のポイントをご紹介しました。さまざまな食品を取り扱う工場では、さらに『食の安全』のことも考えなければいけません。
食品工場の中でも、生鮮食品を取り扱う工場では、特に温・湿度管理が重要になります。高温・多湿な環境下では、「O-157・サルモネラ菌・黄色ブドウ球菌・カンピロバクター」など、食中毒事故を引き起こす細菌が増殖してしまいます。一般的に、食品の品質を保つため、冷蔵庫や冷凍庫以外の作業場所でも、室温を5℃前後に設定するケースが多いです。
なお、取り扱う食品によって保存に適した温度が異なるため、製造する食品に合わせた温度管理にも注意しておきましょう。以下に厚生労働省が公表している「原材料、製品等の保存温度」をご紹介しておきます。
まとめ
今回は、食品工場などにおける、温・湿度管理の基礎知識についてご紹介してきました。最近では、食品の製造現場でも自動化やロボット化が注目されるようになってきましたが、他の製造業と比較すればまだまだ人手に頼る工程も多く、施設内では多くの人間が作業することになります。
こういった状況の中、少子高齢化による人手不足の影響も受けていると言われており、食品製造業界での労働環境改善は急務だと言えるでしょう。特に、施設内で取り扱う食品の特性によっては、労働者にとって非常に過酷な環境になってしまうことも珍しくなく、そういった状況がさらに人手不足を加速させる…という悪循環を生んでいると考えられます。
まずは、工場内の労働環境をできるだけ改善するための温・湿度管理に注目してみてはいかがでしょうか。