今回は、2020年に制度化が決定しているHACCPに関して、食品工場の建設計画が立ち上がった時、設計段階から注意しておきたいポイントをご紹介したいと思います。
2018年6月に可決された改正食品衛生法案では、2020年6月まで(猶予は1年)に『原則全ての食品等事業者はHACCPに沿った衛生管理に取組むこと』と決められ、HACCP基準の衛生管理が制度化されることが決定しています。日本国内では、平成7年の食品衛生法改正の際、HACCPの考えに基づいた「総合衛生管理製造過程」と呼ばれる承認制度がスタートしていたのですが、近年世界中でHACCP基準の衛生管理が義務化の流れとなっており、日本もその流れに従った形となるのです。
このような状況の中、新規で食品工場の建設計画が立ち上がった際には、設計段階からHACCPのことを念頭にいれ、建設を進めるという事業主が増加していると言われています。
なぜ、設計段階から「HACCPを意識する…」のかというと、これにより、建設後の設備投資を最低限に抑えることが可能だと言われているからです。そもそも、HACCPの基本となる考え方は、『食品製造における危害防止のための重要管理点(CCP)をリアルタイムで監視し、記録することにより、すべての製品の安全性を確保する。またPDCAサイクルによって、常に検証と改善を繰り返し、衛生管理レベルを高める。』というものです。つまり、設計段階からソフト面も慎重に考えておくことで、衛生管理に必要なものが建設時に備わっているので、その後、余計な設備投資にかける費用を抑えることができるようになると考えられているからです。
それでは、HACCP対応の食品工場を設計する場合には、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか?今回は、食品工場建設の際に注意しておきたいポイントをいくつかピックアップしてご紹介します。
Contents
HACCPを念頭に置いた工場建設の注意点
それでは、新規で食品工場を建設する際、HACCPを念頭において注意しておきたいポイントをご紹介していきましょう。
ポイント① 施設の立地や周辺環境について
HACCPを意識した食品工場の場合、工場の建設予定地の周辺環境や立地に注意しなければいけないでしょう。例えば、周辺に飲食店が多く点在するような立地となると、ネズミや害虫が繁殖している可能性が高くなってしまいます。したがって、このような場所に食品工場を建設する場合であれば、施設内にネズミや害虫が侵入しないような構造に工夫する必要がありますし、排水口などへの対策も重点的に行わなければいけなくなります。
また、土地の高低差や周辺の風向きなどにも注意をはらう必要があります。常に工場に向いて風が吹いているような立地となると、大量の塵埃が工場の敷地内に飛来することになりますので、何らかの対策をしておく必要があります。土地の高低差についても、排水がしにくい環境となってしまう可能性もありますので、十分に注意しましょう。
施設の立地や周辺環境のチェックポイントを、以下まとめておきます。
- 周辺に煙や塵埃を発生させる施設はないか?
- ネズミや害虫の発生源はないか?
- 昆虫が繁殖しやすい樹木が周辺にないか?
- 周辺環境の衛生状態は良好なのか?
- 排水や廃棄に不便な立地ではないか?
ポイント② 施設の構造や設備配置について
次は、「工場にどのような設備を導入するのか?」、また「導入する設備はどう配置するのか?」ということです。これは、施設内で働く従業員の1日のフローなども考えて、「どこにどういった設備を配置するのか?」ということを設計段階から考えておくべきということです。
例えば、従業員が業務を開始する際、『出勤して更衣室で着替える⇒エアシャワーでホコリなどを落とす⇒作業に従事する』のような業務フローをイメージすると、更衣室の後にエアシャワーを設置して作業場に入れるような構造を予め考えておけば、衛生面の強化も期待できます。つまり、設計段階からその施設での業務フローをイメージして、衛生管理計画を立てることで不要な設備も増やさなくて済むというメリットもあるのです。
HACCPを意識した施設の構造や設備配置については以下のような点に注意しましょう。
- 従業員の作業動線を意識した構造を考える。
- 害虫や塵埃の飛来など、外部環境のハザードの対応も考える。
- 床の材質や排水のための勾配など、日々の清掃が容易になるような構造を考える。
- 将来的なレイアウト変更に対応できるような構造も考える。
- 防鼠対策も行う。
ポイント③ 空調・換気設備について
食品工場では、空調・換気設備も非常に重要なポイントとなります。いくら排水口や出入り口に害虫やゴミの侵入対策を施していたとしても、空調や換気設備に不備があった場合、製品に異物が混入してしまう原因となります。特に注意が必要なのは、施設に設置するエアコンです。エアコンは古くなってしまうと、吹き出し口からホコリなどが飛び出してしまうことがあり、エアコンの近くに作業場があった場合には、製品に異物が混入してしまう可能性が高くなってしまうのです。
また、換気設備に関しては、昆虫などの侵入経路となることがありますので、周辺環境に注意して設置すべきです。例えば、周辺にゴミ置き場が存在する場合、そこにハエがたかってしまい、外気を取り入れるための換気扇から害虫が侵入してしまう…なんてことはよくある話なのです。
こういった空調・換気設備については、以下の点に注意しておきましょう。
- 外気を取り入れる場合、フィルターなどを活用する。
- 清掃区域へは、汚染区域から空気が流入しないように室の圧力管理をする。
- 施設内の温度管理をできるようにする。
- 周辺環境を考慮して換気設備の位置を決める。
ポイント④ その他の注意点について
HACCPを意識して食品工場を建設する場合には、上述した以外にもさまざまな注意点が存在しています。例えば、衛生管理を強化するためには、従業員が毎日利用するトイレや蛇口など、一般設備にも注意をはらわなければならないでしょう。
以下に、チェックポイントをまとめておきましょう。
- トイレは、作業場から直接出入りできない構造にする。
- 手洗い設備は、自動水栓や足踏み式のものを採用し、直接手で触れなくて良い構造にする。
- 作業場に入る時には、長靴の殺菌槽を必ず通過する配置にする。
- 作業場に入るドアなどは、ドアノブを直接触れなくて良いよう、自動ドアを採用する。
- 壁や天井も洗浄しやすい構造にする。
- 塗装に使うペンキは、剥がれにくいものを利用する。
- 照明は、埋め込み式など、ホコリがたまりにくい構造にする。 etc
まとめ
今回は、制度化が決まったHACCPに向けて、HACCPを念頭に置いて食品工場を建設する場合の注意点についてご紹介しました。衛生管理が行き届いた施設を建設するためには、設計段階からさまざまな点に注意してハード面を整えていく必要があるでしょう。上述したように、HACCPによる衛生管理を徹底するためには、ハード面だけでなくモニタリングの方法や記録の実施、検査計画などのソフト面も非常に重要になるのですが、そもそもの構造や設備が整っていなければ、いくら従業員に衛生管理教育を施したとしても、その通りに作業を進めるのは難しくなってしまいます。
もちろん、設備面ばかりに気を取られ、衛生管理教育が疎かになってしまえば、せっかくの設備も無駄になってしまいますが、設計段階からHACCPを意識しておけば、従業員に対してどのような衛生管理教育を行えば良いのか、自ずと分かると思います。