製造業界においては次世代を担う人材の育成が、企業にとって最も重要な経営課題の一つ言われています。かつては『ものづくり大国』や『技術大国』と称賛されていた日本ですが、今や日本が最先端を走っていた『ものづくり』の分野の多くが、他国に奪われてしまっていると言われています。特に近年では、世界に名だたる大企業でも、無資格者による完成検査が常態化していたと言ったニュースも頻繁にあり、「品質が高く、信頼が置ける製品が日本製」という信用まで揺らいでいるのではないかと筆者は考えています。
もちろん、製造業界でも、次世代を担う人材育成には力を入れているのでしょうが、様々な産業の中でも「技術」や「効率」に最もシビアな産業の一つである製造業界では、技術伝承のための『これっ!』と言った解決の決め手となる手法が確立されているとは言えません。さらに、近年では様々なビジネスシーンにおいて、ITの活用や人工知能の普及など急速な変化の時を迎えています。これは製造現場でも例外ではなく、代々受け継がれてきた技術伝承はもちろん、新たな技術の活用など、大きな変革期を迎えているのです。そのため、人材育成の必要性は感じているけれど、どのように進めていけば良いのか分からない、という企業も多いのではないでしょうか。
そこで本稿では、製造業における技術伝承の現状と、次世代を担う人材育成のために利用できる政府系資料をまとめてご紹介していきたいと思います。
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技術伝承の必要性は感じるがうまくいかない…
引用:中小製造業における「技能伝承(継承)」の実態調査と提言 p.2~p.3
それでは、製造業界の企業における人材育成の必要性と現状について少しご紹介しましょう。上の画像は、一般社団法人大阪中小企業診断士会が『中小製造業における「技能伝承(継承)」の実態調査と提言 』の中で行ったアンケート調査の結果です。上図の通り、製造業界における企業のうち、80%以上の企業は技術伝承の必要性を感じているのです。しかし、残念なことに、技術伝承の必要性を感じている企業であっても、自社における人材育成で技術伝承が上手くいっていると考えている企業は30%しかいないのです。その他の多くの企業(70%)においては、技術伝承の必要性を感じているにもかかわらず、何らかの理由で進んでいません。
もちろん、このような人材育成に関しては、製造業に関わらずどのような業界においても「ノウハウの共有がカンペキにできている!」という企業の方が少ないのかもしれません。そのため、多くの企業で対策として取られている仕組みは『雇用の延長』であり、高い技術や技能を持った人の雇用形態を『嘱託』などに変えながら、企業にとどめておくという手法が多くみられています。しかし、この手法では根本的な解決策にはならず、『技術伝承』のための猶予期間を延長しただけにすぎません。
それでは、技術伝承のための具体的な解決策はどのようにして見つければ良いのでしょうか?一つの方法として、政府系機関が発表している「人材育成や技術の導入に関する、実際の成功事例」を参考にするという方法があるでしょう。以下に、政府系が発信している人材育成関連の資料をまとめてご紹介します。
人材育成に関する政府系資料
それでは、人材育成に関んして日本政府が発行している様々な資料をご紹介していきましょう。政府が発表する資料を定期的にチェックしておくことで、様々な業界における人材育成の成功事例を知ることができる以外にも、政府が推奨する最先端の技術や事業に関する情報をいち早く手に入れることが可能になります。
もちろん、日常の業務の中で膨大な情報が公表される政府系サイトを全てチェックするという方法は現実的ではありません。しかし、自社の課題を明確にすることで、参照すべき情報をある程度絞り込めむことができるでしょう。
ものづくり人材の確保と育成
これは、経済産業省が公表している資料です。この資料の中では、人材育成のために必要な取り組みや課題に関して、様々なデータがまとめられています。さらに、資料の中には、実際の製造業界における人材育成の成功事例などがいくつか提示されています。
自社の人材育成方針がなかなか決まらないといった企業であれば、同業他社ではどのようなことを進めているのか、またそれによってどのような成果が出たのかを知っておくことは非常に重要なのではないでしょうか。
ものづくり中核人材の育成を中心とした製造基盤の強化
こちらも経済産業省が公表している資料となります。本資料は、ものづくり産業の国内外での生産活動の現状や、ものづくり企業が中核人材をいかにして確保するのか、育成しようとしているか、またそこにはどのような課題があるのかということを、様々なデータを元にまとめているものです。なお、『中核人材』の定義については資料内で説明されています。
この資料を確認しておけば、製造業界の各企業がどのような取り組みを進めているのかということがわかります。
ものづくり企業の経営戦略と人材育成に関する調査
これは、独立行政法人労働政策研究・研修機構が行った調査結果をまとめたものです。この調査は、以下のような目的で行われました。
本調査は、中小企業を中心にものづくり企業が採用・人材育成面等で抱える課題を明らかにするとともに、ものづくりの競争力となる高付加価値を生み出す経営戦略と、その高付加価値の源泉たる熟練技能者の確保・育成の実態の把握を目的としている。
引用:独立行政法人労働政策研究・研修機構公式サイト
資料内では、製造業における企業の多くがどのような人材を求めているのかや、また人材を育てていくために行っている取り組みなどがデータ化されているので、自社の人材育成方針を決定する際に、ぜひ参考にしたい資料です。また、労働政策研究・研修機構のサイトでは、他にも様々な調査結果が公表されていますので、定期的にチェックしてみてはいかがでしょうか。
ねじ製造業のための人材育成のために
本資料は、厚生労働省が公開しているねじ製造業のための人材育成マニュアルを詳細に紹介したものです。資料内では、職業能力評価シートや職業能力評価基準の書き方から詳細に説明してくれています。また、実際の企業における取り組み事例なども掲載されていますので、ねじ製造業において人材育成に課題があると感じている場合、ぜひ参考にしたい資料です。
まとめ
今回は、製造業などにおける人材育成の必要性や、人材育成に課題を感じている場合に参考にしたい政府系資料をご紹介してきました。本稿でもご紹介したように、繊細な技術と技能が必要となる製造業では、次世代を担う人材の育成が急務と言われているものの、思うように進んでいないと感じている企業の方が多いというのが現状です。さらに、少子高齢化が社会問題となっている日本国内では、そもそも次世代を担う優秀な人材をどのように確保していくのかということも製造業における重要な課題となるのかもしれません。
『ものづくり大国』『技術大国』と言われた、世界に誇る日本の製造技術を後世に伝えていくためには、企業ごとにおける人材育成手法の確立がとても重要になっていくと筆者は考えています。