産業用ロボットによる事故に注意!その危険性と安全対策を知っておきましょう。

近年、私たちの生活を支える製造現場では、ITの活用やロボットの導入による自動化が進んでおり、『産業用ロボット』という言葉を目にする機会も増加しています。産業用ロボットは、精密な動作を高速で繰り返すことができることや、人間では持ち上げることができないような物でも簡単に荷運びできるようになるなど、人間による作業の負担や足りない部分を補うなど、多くの強みを持っています。
特に、少子高齢化が社会問題となっている日本国内では、今後、製造現場での人材確保はさらに困難になって行くのではないかと予想されます。その他にも、生産性の向上やランニングコストの削減など、製造現場が抱える課題は様々なものがあることでしょう。産業用ロボットは、こういった製造現場が抱える課題を解決するために開発され、人材不足や生産性向上、さらにはコストダウンといった多くの課題を解決できるロボットなのです。
しかし、適切な利用法で運用すれば多くの課題を解決できる産業用ロボットですが、取り扱いを間違ってしまうと人命に係る深刻な事故を発生させてしまいます。実際に、動作中のロボットに人が接触したり、巻き込まれたりという事故はかなりの件数が報告されています。こうした事故を防ぐには、従業員が安全にロボットを運用するための安全対策や教育が必要不可欠になってくると言えるでしょう。
そこで今回は、産業用ロボットによって引き起こされた事故の事例や、そういった事故を未然に防ぐための安全対策について考えていきたいと思います。

製造業における労働災害件数とその事例

それではまず、製造現場における労働災害件数について少し触れておきましょう。厚生労働省が公表した『平成29年の労働災害発生状況』によると、製造業における死傷災害発生数は、前年より0.8%増加の26,674 人となっています。もちろん、これらの事故の増加が産業用ロボットを導入したことが原因とは言えませんが、事故の型別で見てみると、機械等による「はさまれ・巻き込まれ」事故が最も多い7,159人となっています。
近年の製造現場では、人の体よりも大きく重量のある機械を使って、製品の加工や運搬作業が行われます。こういった産業用ロボットは、人と協働することが前提で作られているものですので、万一、人と接触した場合にはセンサーによって動作を停止したり、緩衝材を組み込んでおくなど大事故につながらないような対策がとられている物も多いです。しかし、上述した事故件数が表すように、製造現場での死傷災害を完全になくすことができていないのが現状です。
製造現場では、作業員一人一人に十分な危機管理意識を持たせ、安全に作業を進めさせることが非常に重要になっています。以下に、産業用ロボットによって引き起こされた事故事例をいくつかご紹介しておきますので、自社の安全管理体制や危機管理体制をもう一度見直してみてはいかがでしょうか。

参考資料:厚生労働省「平成 29 年労働災害発生状況の分析等」

【事例1】CNC施盤に巻き込まれて死亡

軍手をしてサンドペーパーで研磨作業を行っていたところ、軍手が機械部品に引っかかり、巻き込まれたものであった。
この会社では、受注した加工物に対応した作業に使用する機械、作業方法、作業に関する禁止事項等について、会社として検討し作業手順書を作成することなく、作業者の判断に任せて作業を行わせていた。さらに、この会社では、作業者に対する基本的な安全衛生教育、経営者による職場の巡視等の安全衛生管理を実施していなかった。
引用:職場の安全サイト

この事故は、手に着用していた軍手が機械に引っかかり巻き込まれた事故です。この事故の原因は、危機管理の基本である、作業員に対する基本的な安全衛生教育の不足が大きいと言えるでしょう。また、作業を進めるうえでの禁止事項など、詳細な作業手順書を作ることもせず、全て作業員の判断に任せ作業を進めさせるという方法では、従業員同士で作業の危険ポイントを共有することもできず、今回のように危険な作業を進めてしまうことも防げません。
対策としては、小規模な事業場であったとしても的確な安全衛生管理を行うことでしょう。また、作業を始める前に、使用する機械、冶具、必要な安全装置などをしっかりと会社として検討し、作業手順書を作る必要があるでしょう。

【事例2】鋼板を移動させる作業中、突然天井クレーンが走行し、鋼板と架台の間に挟まれ

鋼板の片側に玉掛けし、次にもう片側に玉掛けしようとしていたところ、天井クレーンが走行し、鋼板が天井クレーンに引きずられ、玉掛け作業を行っていた被災者が移動してきた鋼板とNC架台の間に挟まれた。平鋼架台に積み上げた鋼板12枚を玉掛けし、天井クレーンを操作して仮置場に移す作業を行っていたものであるが、災害発生時にどのような運転操作を行っていたかについては、被災者は単独作業を行っていたため不明である。
クレーンに関して、フックの外れ止め装置、巻過防止装置に異常は認められなかった。
引用:職場の安全サイト

この事故は、単独作業であったため、災害の原因は不明です。しかし、被災者を挟んだ鋼板は、発見時も玉掛けされた状態から崩れることなく、鋼板とNC架台の間に挟まれ、仰向けに倒れた状態で被災者が発見されたことから、コントローラーの誤操作等によりクレーンが走行を開始し、被災者を挟んでしまった事故だと推定されています。
対策としては、『長尺、重量物に係るクレーン作業、または、共づりを伴うクレーン作業』を行う場合には、複数名で作業を進めることでしょう。基本的に玉掛け作業者とクレーン運転士は別に配置し、合図者を指名したうえで作業を進めるなど、作業手順の見直しが必要です。

上記のような、様々な作業現場における事故事例は職場の安全サイトにて確認することができます。自社の作業における危険性や、考えられる事故事例など、安全管理体制の見直しを行う場合には非常に有用ですので、一度ご確認ください。

厚生労働省:職場の安全サイト事故事例集

産業用ロボットの安全対策について

産業用ロボットは、製造現場の様々な課題を解決してくれる非常に便利な物です。しかし、運用方法を間違ってしまうと、上記のような深刻な人災が発生してしまうものなのです。そのため、産業用ロボットを安全に取り扱うための法律が定められています。

労働安全衛生規則 第百五十条の四
事業者は、産業用ロボツトを運転する場合(教示等のために産業用ロボツトを運転する場合及び産業用ロボツトの運転中に次条に規定する作業を行わなければならない場合において産業用ロボツトを運転するときを除く。)において、当該産業用ロボツトに接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、さく又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない。
引用:e-Gov

なお、上記の条文は、産業用ロボットと人との協働作業が可能か否か明確でなかったことから、平成25年12月に「労働安全衛生規則第150条の4」が、一部以下の様に改正されました。

(1)労働安全衛生法第28条の2による危険性等の調査に基づく措置を実施し、産業用ロボットに接触することにより労働者に危険の生ずるおそれが無くなったと評価できるときは、本条の「労働者に危険が生ずるおそれのあるとき」に該当しない
(2)「さく又は囲いを設ける等」の「等」には、次の措置が含まれること
・・・・・産業用ロボットの規格(ISO10218-1:2011及びISO10218-2:2011)によりそれぞれ設計、製造および設置された産業用ロボットを、その使用条件に基づき適切に使用すること(一部省略)
引用:安全衛生情報センター資料より

上記2点の改正により、法律で定められた安全基準を満たし、労働者の危険を排除することができていれば、産業用ロボットと人の協働作業が認められるようになりました。
ただし、産業用ロボットを運用するときには、常に危険が伴うという意識を持ち、労働安全衛生規則を遵守しなければいけません。したがって、ロボットを導入して生産性の向上や作業効率の向上を目指す場合には、ロボットを安全に運用するための作業員への教育を施すなど、徹底した安全への取り組みが必要になるのです。

まとめ

今回は、多くの製造現場で取り入れられている産業用ロボットについて、その危険性や実際の事故事例などをご紹介してきました。産業用ロボットは、人間では不可能である、高速で正確な作業を長時間行うことや、重量物の荷運びなど、製造現場では非常に重宝される存在です。しかし、いくら便利な機械だとは言え、その運用方法を間違ってしまうと、人命にかかわる深刻な事故を引き起こしてしまう原因となってしまいます。
ロボットは、その大きさや、重さ、力など、人間とは比較にはならない危険を持っているということを再認識し、徹底した安全管理対策を進めることをオススメします。