今回は、物流業界の人手不足や地球温暖化問題の対策になりうると、再び注目され始めた『モーダルシフト』についてご紹介したいと思います。現在、物流業界で働いている方でも、「モーダルシフト?なんだっけ?」という方や、「今さらモーダルシフトが注目されるのはなぜ?」などと疑問に思っている方も少なくないのではないでしょうか?
『モーダルシフト』を簡単にご紹介すると、大型トラックを中心とした自動車による貨物輸送を、鉄道や船舶による大量輸送に転換するというもので、最近では大手企業がテスト的に貨物専用列車の運行を行ったことがニュースにもなりました。このモーダルシフトが再注目されるようになったきっかけは、東日本大震災だと言われています。「未曾有の大震災」と呼ばれた東日本大震災では、物資を輸送しようにも、地震によってトラック輸送網が麻痺してしまっていたのです。トラック輸送網では満足に支援物資を輸送することもできない中、貨物列車が多くの物資を被災地に輸送し、被災者たちを救ったと言われています。
さらに、少子高齢化が叫ばれる昨今、物流を担うトラックドライバーの人的不足や、過労運転などが社会問題となっており、これらの解決策として時流を踏まえたモーダルシフトの構築が急がれているのです。そこで本稿では、そもそも『モーダルシフトとは何か?』という基本知識や、モーダルシフトによって得られるメリットをご紹介します。
そもそもモーダルシフトって何?
それではまず、「モーダルシフトとはどのようなものなのか?」という基本知識を簡単にご紹介しましょう。冒頭でもご紹介しましたが、モーダルシフトとは、大型トラックなどの自動車による貨物輸送を、鉄道や船舶による大量輸送に転換するというものです。
実は、このモーダルシフトの考え方自体は、30年以上前の1980年代から存在しており、1991年から運輸省(現在の国土交通省)がその取り組みに着手しています。当時は、モーダルシフトの『環境負荷軽減』が大きなメリットととらえられており、1997年の『地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議』では、「2010年までにモーダルシフト化率を現行の40%から50%に引き上げる」などといった方針も決定されています。しかし、実際には、1998年度の「モーダルシフト化率:42.9%」をピークに徐々に低下していき、2000年代後半からは数値の公表すらなくなっています。
このような中、近年では労働人口の減少に伴い、トラックドライバーの不足や、過労運転などが社会問題ともなっており、これらの解決のためにも、モーダルシフトに取り組む企業が増加しているのです。
参考資料:国土交通省『物流をめぐる状況について』
モーダルシフトのメリット
モーダルシフトの基本知識がわかったところで、そのメリットをご紹介しましょう。モーダルシフトのメリットをおさえておけば、なぜ今再注目されているのか?という疑問も解決できるでしょう。
モーダルシフトを進めることは、上記のような『環境負荷の軽減』や『輸送の効率化』などのメリットがあります。しかし、物流企業にとって最も大きなメリットと言えば『人材不足の救世主になれる!?』という点でしょう。
モーダルシフトは人材不足の救世主!?
物流業界を支えるトラックドライバーは、企業規模などに関係なく、拘束時間が長時間化しやすいという特性があります。そのため、少子高齢化が進む現在では、若い世代でドライバーという職種を敬遠する傾向にあり、長距離トラックドライバーを中心に人材不足がますます深刻になっていると言われています。
しかし、日本国内におけるトラック輸送の分担率は非常に高く、総貨物輸送量の9割以上を担っているとも言われています。そのため、物流業界ではドライバー不足に起因する「荷物の過積載」や「過労運転」が社会問題ともなっており、今後さらにドライバー不足に拍車がかかるのでは?といった悪循環につながっています。
そのような中、最近では、トラックドライバーの労働環境改善のため、モーダルシフトが注目されているのです。本来、トラック輸送と鉄道輸送などは、ライバル関係となるのですが、最近では自社で処理しきれない荷物を日本貨物鉄道(JR貨物)に移送依頼するトラック運送業者も増加していると言われており、実際に平成29年3月期決算では、鉄道ロジスティクス事業が民営化後初の黒字となったことがニュースにもなりました。
モーダルシフトには、上記のようなメリットがある一方で、いくつかのデメリットがあることも忘れてはいけません。以下でモーダルシフトの主なデメリットをいくつかご紹介しておきます。
- 輸送のリードタイムがトラックよりも長くなるケースが多い
- 長距離輸送(500㎞~600㎞以上)には適しているが、近距離・中距離ではコストが割高になる
- 天候や事故によって鉄道・船舶のダイヤが乱れることもあり、ジャストタイムに対応できないケースがトラックより多い
- 運送時間や頻度に融通を効かすことができない
- コンテナサイズを超えるものは対応できない。荷造りはコンテナサイズに合わせる必要がある
まとめ
今回は、「物流業界の人材不足の救世主になる!?」と、近年再注目されているモーダルシフトについてご紹介してきました。モーダルシフトは、もともとCO2排出量削減など、環境負荷軽減のための物流方式として昔から推進されていたものです。しかし、近年、深刻な少子高齢化を迎えた日本では、さまざまな業界で人材不足を不安視する声が広がり、既に人材不足が深刻化しているトラック運送業界で再注目され始めたという経緯があるのです。
実際に、大手企業の中では、テスト的にモーダルシフトへの施策を進めている所も多くあるそうです。今後、将来にむけて『働く人口』が減少していくことは確実だと言われています。現在の物流を支えているトラック輸送と、モーダルシフトによる鉄道・船舶輸送が、お互いの欠点を補いながら支えあうことが重要になるでしょう。
モーダルシフトの事例は、以下の参考資料などをご参照ください。
参考資料①:国土交通省「平成28年度モーダルシフト等推進事業 採択案件事例」
参考資料②:日本通運株式会社公式サイト「自動車メーカー様の部品調達における改善事例概要」