近年では、一般住宅に向けた家庭用蓄電池の需要が急激に高くなっています。蓄電池とは、その名称からも分かるように「電気を蓄えておくことができる設備」です。蓄電池を設置することで自然災害などで大規模停電が発生した際にも、最低限生活に必要になる電気を確保しておくことができます。さらに昨年から、住宅用太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)が期間満了で終了してしまうご家庭が登場し始めたことも家庭用蓄電池の需要に関係しています。住宅用太陽光発電は、家庭で消費する電気を自家発電することで電気代削減を目指せるだけでなく、高額な売電価格が保証されていることから売電収入も期待できるとの期待で普及が広がった設備です。しかし、FITが終了してしまうと、売電価格が急激に下落してしまうため、今までのような運用をしていたのでは太陽光発電のメリットを得られなくなってしまうのです。
上記のような理由で一般家庭にも急激に普及が広がっている蓄電池ですが、もともとは産業用の非常用電源として使われていた設備となります。これが東日本大震災を契機に、一般家庭での非常用電源確保の必要性が認識され、普及が始まったのです。しかし、一般家庭とは比較にならないほどの電力を必要とする工場や倉庫などで考えても、全ての施設に『産業用蓄電池』が導入されているわけではありません。なぜかと言うと、産業用蓄電池の場合、事業規模などによっては必要な蓄電容量が大きくなりすぎてしまい、導入に多額なコストがかかってしまうことがネックになっているからです。
それでは、工場や倉庫で、コストをかけてまで産業用蓄電池を導入するメリットはどのようなことが考えられるのでしょうか?この記事では、産業用蓄電池の基礎知識や、そのメリット・デメリットをご紹介していきます。
産業用蓄電池とは?
それではまず、産業用蓄電池が「どういった設備なのか?」という基礎知識からご紹介していきましょう。家庭用蓄電池が、一般住宅に導入される蓄電池なのに対し、産業用蓄電池はそれ以外のオフィスビルや事務所、ショッピングモールなどの商業施設や工場・倉庫などに設置される蓄電システムのことを指しています。
上述したように、蓄電システム自体は、もともと産業用として使われていた設備なのですが、家庭用蓄電池同様に東日本大震災をきっかけとして、今まで蓄電池の必要性を感じていなかった中小の施設でも導入され始めています。つまり、産業用蓄電池を導入する主目的は、万一の自然災害で広域停電が発生した場合のバックアップ電源と考えられているのです。ただし、蓄電システムの導入は平常時においても、太陽光発電との連携で電気代の削減などを目指すことが可能です。太陽光発電設備は、太陽光エネルギーを電力に変換する設備ですので、日射のない夜間や悪天候時は発電することができません。しかし蓄電池と連携させておけば、昼間に発電した電気のうち余剰分を蓄電池に充電して、それを太陽光発電が発電できない時に利用できるようになるなど、効率的にエネルギー消費をコントロールすることができるようになるのです。
産業用蓄電池は、このような『自然災害対策』や『省エネ効果』が認められ、工場や倉庫などでもその必要性が認められています。
産業用蓄電池のメリットとデメリット
それでは、工場や倉庫などの施設が産業用蓄電池を導入することにどのようなメリットがあるのでしょうか?ここでは、産業用蓄電池導入によるデメリット面も併せてご紹介しておきましょう。
産業用蓄電池のメリット
稼働のために大量のエネルギーを必要とする工場や倉庫は、産業用蓄電池の導入によって万一の災害時でも電源を確保できることや平常時の省エネ効果などがメリットとして捉えられています。以下で、産業用蓄電池のメリットについて、もう少し詳細にご紹介しておきましょう。
- 災害時の非常用電源を確保できる
産業用蓄電池を導入した場合、災害時でも1週間程度の非常用電源を確保することができる(蓄電容量によって変わります。)と言われており、これは工場や倉庫にとって最も大きなメリットになると思います。特に近年では、台風の大型化や南海トラフ地震など超巨大地震の発生が近づいていると言われていますので、『災害時の備え』は従業員の安全のためにも必要不可欠になると思います。 - 災害時の避難拠点として活用できる
施設規模や用途などで異なりますが、『太陽光発電+蓄電池』という体制で電力の自給自足が実現できている大規模施設では、災害時の地域の避難拠点としても活用することができます。公共施設ではありませんが、広大な敷地を持つ工場などは、今後そのような活用も期待されています。 - デマンドレスポンスによって電力のピークカットができる
産業用蓄電池の導入により、家庭用蓄電池同様、電力のピークカットが可能になり、電気料金の削減が期待できます。 - 電力の自給自足を目指せる
施設規模によりますが、再エネ設備と連携させることで、施設の稼働に必要な電力全てを自給自足で賄うことも期待できます。
産業用蓄電池のデメリット
産業用蓄電池の導入は、上記のようにさまざまなメリットが存在しています。しかし、いくつかのデメリットも指摘されていますので、ご紹介しておきましょう。
- 導入するためにそれなりのコストがかかる
産業用蓄電池最大のデメリットは、導入のために多額のコストがかかるという点です。近年では、産業用蓄電池は大いに投資効果があると認識され始めていますが、導入のためには多額のコスト負担を覚悟しなければいけません。 - 補助金が使いにくい
産業用蓄電池は、普及推進を目的として『ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)』の補助金を活用することができます。しかしこの補助金は、蓄電池単体の補助金ではなく、「年間の一次エネルギー消費量がネットでゼロとなる建築物」を目指す場合に使える補助金制度になっているのです。そのため、補助金を使いたくても使うことができない事業者も多く、現状では産業用蓄電池の普及を促進する段階になっているとは言えないのが大きなデメリットでしょう。
まとめ
今回は、工場や倉庫など、大量のエネルギーを必要とする施設で注目されている産業用蓄電池についてご紹介してきました。日本は『災害大国』などと呼ばれることがあるように、昔から大規模な自然災害が多い国として有名です。さらにここにきて、地球温暖化の影響による台風の大型化や夏場の豪雨被害など、もともと災害が少ないと言われていたような地域でも、我々が考えられないような自然災害が頻発しています。
特に大規模災害が発生した場合には、我々の生活に必要不可欠な電力供給がストップしてしまうことも珍しくありません。昨年を考えても、9月に関東地方を襲った大型台風では、千葉県全域に停電被害が発生しており、地域によっては2週間以上も電気のない生活を余儀なくされていたという話は、皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか?こういった自然災害による停電被害の際には、家庭用蓄電池や産業用蓄電池が非常に心強い設備となってくれるのは間違いありません。今後の日本では、台風の大型化がさらに進行すると言われていますし、巨大地震の発生確率が高まっていることもあり、「災害時の電源確保をどうするのか?」ということは、企業にとって非常に重要な課題になるのではないでしょうか。