従業員の手の傷が食中毒の原因に?身近に潜む食品事故リスクについて

今回は、さまざまな食品を取り扱う食品工場や飲食店などが注意しておきたい身近に潜む食中毒の原因についてご紹介していきたいと思います。

食品工場や飲食店などでは、食中毒や異物混入などの食品事故を絶対に起こすわけにはいきませんし、日々の業務を行う上で厳格な衛生管理体制を整えていると思います。しかし、いくら清掃がしやすい施設をつくり、安全・安心な食品を提供できるような設備を整えていたとしても、従業員の衛生管理に対する理解度が低ければ、食品事故リスクを無くすことはできないのです。
実は、食品工場や飲食店などの食品関連施設では、従業員に対する衛生教育をしっかりと行っているつもりでも、業務に追われることで食品事故を見逃してしまっている場合があるのです。例えば、調理のために使用する包丁で指を切ってしまった…、火傷や洗剤の使用で手荒れが起こってしまっているといった場合でも、しっかりとした対処を行わないまま調理を続行している場面はよく見かけます。

しかし、こういった手に傷がある状態の従業員が食材に触れると、食品の安全を脅かしてしまい、食品事故につながってしまう恐れがあるのです。この記事では、実際にあった手の傷による食品事故事例やその対策についてご紹介します。

実際にあった手の傷による食品事故とは?

それでは、実際にあった「手の傷」による食品事故事例をいくつかご紹介します。一般家庭などでも、包丁でちょっと指を切った程度であれば、何も考えずにそのまま調理を続行するという場面は普通にある事だと思います。しかし実は、当たり前のように行われているこういった行為が食品事故の引き金となる場合があるのです。
以下に実際にあった食品事故と、その状況も併せてご紹介します。

姫路市:持ち帰り弁当による食中毒事故
これは平成12年10月に発生した食中毒事故です。姫路市内の店舗で持ち帰り弁当を購入し食べた後、嘔吐、下痢などの食中毒症状を呈した旨の連絡が姫路市保健所に入ったことで調査が行われました。その結果、同店舗で持ち帰り弁当を購入した12グループ 130名中19名が同様の症状を呈していたとされています。
保健所が店舗を調査したところ、手荒れや絆創膏をした従業員がいたこと、および手指のふきとり検査の結果から、汚染要因は従業員によるものと推測されました。
参考:感染情報センターサイトより
ラーメン店での食中毒事故
ラーメン店での食中毒事例では、包丁で指を切ったのにもかかわらず、切り傷がある状態でチャーシューの処理を行ったというものもあります。この事例では、従業員が手に傷がある状態でチャーシューを切り、それを長時間放置し、その後、客のラーメンへチャーシューをのせて提供。それを食べた客に食中毒症状が出てしまったというものです。

こういった「手の傷」による食中毒事故は、一般家庭でも発生しています。不特定多数の人に食品を提供する食品関連施設では、なぜこのような食品事故が起こるのか?ということをしっかりと学び、対策を行わなければならないのです。

手の傷による食品事故の原因は?

それでは、上記のような「手の傷」によって引き起こされる食中毒事故は何が原因となっているのでしょうか?皆さんも、ちょっと指に傷がある程度であれば、何も考えずに作業をそのまま続行しているのではないでしょうか?

答えから言うと、手の傷や火傷、手荒れなどによって引き起こされる食中毒の原因は『黄色ブドウ球菌』です。黄色ブドウ球菌は、人や動物の皮膚、消化管などに存在する常在菌です。この菌は、人や動物の傷口にも生息しており、特に化膿している場合などであれば、通常よりも多い黄色ブドウ球菌が存在している可能性があると言われています。

「常在菌であれば問題ないのでは?」と考えてしまうかもしれませんが、実は手の傷などから食品へ黄色ブドウ球菌が移動した場合、その菌が食品中で増殖することになるのです。そしてその際に『エンテロトキシン』という強い毒素を作り出します。この『エンテロトキシン』という毒素は、熱・乾燥・胃酸・消化酵素に強く加熱による無毒化もできないと言われています。
つまり、手の傷から食品が汚染されしばらく放置して、エンテロトキシンが生成された食品を体内に取り込むことによって食中毒が発生してしまうということです。黄色ブドウ球菌による食中毒は、食後30分から6時間程度で発症すると言われており、激しい吐き気やおう吐、下痢、腹痛を引き起こします。

手の傷による食品事故を起こさないためには?

それでは、食品工場や飲食店など、食品関連施設において、手の傷からの食中毒事故を防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか?手の傷や手荒れが原因となる食中毒は、傷がある状態で食材に触れることで食品が汚染されて発生したり、保存環境が悪いことで発生したりと、さまざまな要因が考えられます。こういった食品事故を防ぐためには、以下のような対策が考えられます。

  • 手洗いの徹底と、調理器具の洗浄・消毒の徹底をする
  • 食材を取り扱う際は、直接素手で触れないようにする
  • 食中毒菌の発育至適温度帯(約20℃~50℃)を避けるため、よく放冷して、低温下で保管する

食品を取り扱う施設では、手洗い、調理器具の洗浄・消毒を徹底していることだと思います。しかし、この記事でご紹介したような食中毒事故を防ぐためには、その他にも注意しておかなければいけないことがあるのです。特に、手に傷がある状態の従業員については、傷から食品の汚染が発生してしまう危険があり、基本的には調理に従事させないという対応が良いでしょう。やむをえず、食品に直接触れる作業が発生する場合には、適切な手袋をした状態で作業をするなどの対策が必要になるでしょう。

まとめ

今回は、食品工場や飲食店など、さまざまな食品を取り扱う施設に潜む身近な食中毒事故の原因をご紹介してきました。食品工場や飲食店では、食中毒や異物混入などの食品事故が命取りになってしまうため、普段から細心の注意を払い衛生管理を行っていることでしょう。例えば、調理器具の洗浄や消毒、使用する設備の選定など、できる限り食品事故の可能性を『0』にするため、さまざまな対策を行っていると思います。

しかし、いくら万全に思える食中毒対策を行っていたとしても、施設内で働く従業員が食中毒に関する正しい知識を持っていなければそのリスクを無くすことはできないのです。特に、手にできた小さな傷などは、食中毒には関係が無いと考えてしまう人も多いかもしれません。
まずは従業員に対して正確な衛生管理の教育を行い、身近な部分から食中毒を防ぐためのルール作りを進めてみると良いのではないでしょうか。