物流業界で働くトラックドライバーの方にとって、毎日の業務として重要になるのがトラックの日常点検です。日常点検を怠ってしまい、トラックに何らかの不備がある状態で運転してしまうと、大事故につながってしまうリスクがあり、会社からも日常点検の重要性は入社時に説明されることだと思います。
一般貨物自動車運送事業者において、運転中に重大事故を起こしてしまった場合、国が監査を行うことになるのですが、その時に日常点検を怠っていたということが判明すれば、非常に厳しい行政処分を下されることになります。皆さんも理解していると思いますが、自動車事故というものは人の命を簡単に奪ってしまう非常に恐ろしいものです。自動車の不備はその自動車事故の可能性を著しく高めてしまうため、自動車の点検に対する行政の目は非常に厳しいものとなるのです。
それでは、トラックドライバーの方が毎日行わなければならない日常点検とは、どのようなものとなるのでしょうか?今回は、物流業界で働く方が、改めて確認しておきたいトラックの日常点検の基礎知識をご紹介します。
トラックの日常点検とは?
それではまず、日常点検がどういったものなのかという基本的な概要からご紹介していきましょう。そもそも自動車の日常点検整備というものは、道路運送車両法第47条の2を根拠とする、法律上の規定となります。
第四十七条の二
自動車の使用者は、自動車の走行距離、運行時の状態等から判断した適切な時期に、国土交通省令で定める技術上の基準により、灯火装置の点灯、制動装置の作動その他の日常的に点検すべき事項について、目視等により自動車を点検しなければならない。
2 次条第一項第一号及び第二号に掲げる自動車の使用者又はこれらの自動車を運行する者は、前項の規定にかかわらず、一日一回、その運行の開始前において、同項の規定による点検をしなければならない。
3 自動車の使用者は、前二項の規定による点検の結果、当該自動車が保安基準に適合しなくなるおそれがある状態又は適合しない状態にあるときは、保安基準に適合しなくなるおそれをなくするため、又は保安基準に適合させるために当該自動車について必要な整備をしなければならない。
引用:e-Gov
日常点検の目安
日常点検は、その日の運転開始前に1回は必ずしなければならないことになっています。「運行する前に1回」と聞くと、トラックの日常点検は1日に1度だけ行えばいいと理解してしまう人がいるのですが、複数回しなければならない場面も考えられます。
例えば、A号車の運転を終え、B号車へ乗り換えるなどと言ったケースがあった場合、B号車はその日誰も運転していなくて、初めて運行するというのであれば、改めて運行前に日常点検をする必要があるのです。こういった、トラックの乗り換えが発生する場合には、日常点検を怠ってしまう…というケースが多いと言われているので注意しましょう。
その他にも、日常点検を怠ってしまうケースとして、長距離を運行する運送会社などで「1運行に1回の日常点検をすれば良い」と考えている場合があります。遠隔地に運行する長距離トラックなどであれば、途中で睡眠をとり再度運行を開始するというパターンもあると思うのですが、日をまたぐような運行の場合は「1日1回の日常点検」が必要になると覚えておきましょう。
上で紹介した条文でも「一日一回、その運行の開始前において、同項の規定による点検をしなければならない。」という文言があるように、『1日1回の日常点検』が法律上の基準となります。
日常点検で異常が見つかった場合は?
日常点検は、運行前に自動車に故障や劣化が無いかチェックするためのものです。点検が終了し、その点検結果を整備管理者(もしくは補助者)に伝えて、「運行の可否」決定を貰わなければならないのです。それでは、日常点検で何らかの異常を発見した場合はどうすれば良いのでしょうか?
当然、異常個所が見つかったにもかかわらず、そのまま運転するわけにはいけません。何らかの異常を発見した場合には、直ちに整備の指示を行うようにと定められています。なお、運行に支障がない程度の不具合であれば、業務の状況を考慮しながら制限を設け運行することは可能です。
日常点検は何をすれば良い?
トラックの日常点検と言われても、「何を点検すれば良いのか分からない…」という方もいるかもしれませんね。上図は、全日本トラック協会が出している事業用トラックの点検整備ハンドブックから引用したものなのですが、この資料内でトラックの日常点検の詳細について説明されています。
具体的な点検箇所の例を以下にご紹介しておきましょう。
- 前日までの異状箇所をチェック
- タイヤの空気圧をチェック
- タイヤの亀裂・損傷・異状摩耗をチェック
- タイヤの溝の深さをチェック
- ディスク・ホイールの取付状態をチェック
- 冷却水量をチェック
- ブレーキ液量をチェック
- エア・タンクの凝水をチェック
- エンジン・オイル量をチェック
- バッテリ液量をチェック
- ファン・ベルトの張り・損傷をチェック
- パーキング・ブレーキ・レバーの引きしろをチェック
- ウインド・ウォッシャの液量・噴射状態をチェック
- ワイパーの拭き取り状態をチェック
- エンジンのかかり具合・異音をチェック
- エンジンの低速・加速の状態をチェック
- 空気圧の上昇具合をチェック
- ランプ類の点灯・点滅状態をチェック
- ブレーキ・ペダルの踏みしろ・効き具合をチェック
- ブレーキ・チャンバのロッドのストロークをチェック
- ブレーキ・ドラムとライニングとのすき間をチェック
- ブレーキ・バルブからの異音をチェック
※上記点検箇所は、「毎日点検が必要な項目」と「適切な時期に点検する項目」が存在します。
具体的な点検箇所については上記の通りとなります。それぞれの点検方法の詳細などは、点検整備ハンドブック内でかなり詳しく説明されていますので、そちらをご確認ください。
なお、このようなトラックの日常点検は、点検した記録を自動車の登録番号ごとに1台1台保管し、1年間の保管が義務付けられています。記録する日常点検票には特に決まったフォーマットなどないことから、インターネットなどで配布されている点検シートをダウンロードして使用するのもよいでしょう。
まとめ
今回は、物流業界で働いている方がおさえておきたいトラックの日常点検の基礎知識についてご紹介しました。この記事でご紹介したように、トラックの日常点検は道路車両運送法に規定された義務であり、車両の不備や故障による事故を未然に防ぐためにも欠かせない大切な作業です。これを怠ってしまうと、法令違反となり、行政処分を受けることになるのですが、何より整備不良による事故は運転者だけでなく、全く関係のない第三者の命まで危険にさらしてしまう非常に恐ろしいことだということを認識しなければいけないでしょう。
物流業界に勤めるプロのドライバーであれば、定められた点検箇所をしっかりと覚え、正しい方法でトラックを管理していくよう心がけてください。