産業用ロボットと協働ロボットの違いとは?

今回は、倉庫や工場などに導入が進んでいる『ロボット技術』の基礎知識についてご紹介します。製造業界や物流業界では、従業員の高齢化や人手不足の深刻化など、さまざまな課題を抱えていると言われています。そこでこういった業界の課題を解決するために注目されたのが、産業用ロボットの導入です。産業用ロボットは、人間が行っていた作業をかわりに行うことができるだけでなく、過酷な作業現場であっても作業効率を落とすことが無いことや、機械的に行う作業となるため、人為的ミスなどの心配も必要ないという点が、非常に大きなメリットと言われています。近年では、産業用ロボットの開発に参入する企業が増えたことから低価格化も進み、各種補助金制度の整備によって導入のハードルも大きく下がったため、中小企業などで普及し始めていると言われています。

しかし、一般的な産業用ロボットには、まだまだ多くの課題が残っています。それは、ロボットを導入するためには、事故を防ぐために安全柵の設置が必要になるため、ロボットが作業するための生産ラインを構築しなければならず、中小企業が手軽に取り入れるのはなかなか困難だ…という点です。このような、産業用ロボットに存在する課題を解決するため、近年登場したのが『協働ロボット』です。この記事では産業用ロボットと協働ロボットの違いについてご紹介します。

産業用ロボットの課題と協働ロボットが注目されている理由

それではまず、近年の製造業界などで協働ロボットが注目されている背景からご紹介しておきましょう。冒頭でもご紹介しましたが、『ものづくり大国』などと言われる日本国内でも、製造業界では深刻な労働人口の不足が社会問題ともなっています。さらにこの労働人口の不足は、今だけの話ではなく、今後さらに深刻化すると予測されています。例えば、2016年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した『日本の将来推計人口』では、14歳以下の人口が1,595万人(2015年国勢調査)という実績が算出されています。この人口については、2021年には1400万人台にまで減少し、2056年には1000万人を割り込むと予想されており、今後若者の人口はどんどん減少していくと推測されているのです。

この数値は、製造業界を支える中小企業では、企業の存続自体に影響を及ぼす衝撃のデータと言えるでしょう。どのような業界でも同じなのでしょうが、次世代を担う人材の確保は企業を存続していくためには必要なことであり、それができなくなってしまえば、現状を維持することも難しくなってしまうことでしょう。

このような状況で注目されたのが『産業用ロボット』です。ロボット技術を導入すれば、今まで人間が担っていた作業をロボットに任せることができるようになり、さらに正確さや効率の面では、疲れなどの問題がないロボットの方が優秀とも言えるのです。しかし、産業用ロボットの導入には、人とロボットの作業範囲を完全に分けて、安全を確保しなければならないという問題がありました。当然、ロボットの周りを安全のために柵で囲う必要があれば、作業のために広大なスペースが必要になりますし、手狭な工場などでは導入することもなかなか難しいという課題があるわけです。そのため、繰り返しの単純作業が必要になる自動車や機械製造など、比較的大きな製造ラインでは非常に有効でしたが、状況に応じて柔軟な対応が必要になる食品製造工場などの現場では不向きとされていたのです。しかし、近年では、技術革新とともにロボットの小型化が図られ、また法律の規制緩和も行われたため、いくつかの条件を満たしたロボットであれば、安全柵などなしに人と協働作業を行うことが認められたのです。

こういったロボットが『協働ロボット』と呼ばれており、各種補助金の充実など、導入費用的なハードルも下がってきたことから中小企業などでも導入が進んでいるのです。

参考:国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口(平成 29 年推計)

産業用ロボットと異なる協働ロボットの定義は?

産業用ロボットを導入する場合には、従来「労働安全衛生規則第150条の4」で以下のように規制が設けられていました。

「産業用ロボット(定格出力が80Wを超えるもの)」に接触することにより危険が生ずるおそれがあるときは、さく又は囲い等を設けること

この法律によって産業用ロボットを用いる場合には、安全を考えて柵または囲いによって人とロボットを分離する必要があったのです。しかし、この規則に関しては、「平成25年12月24日付基発1224第2号通達」により、以下のように改訂が行われました。

1 リスクアセスメントにより危険のおそれが無くなったと評価できるときは、協働作業が可能です。(2号通達)
2 ISO規格に定める措置を実施した場合も、協働作業が可能です。(2号通達)
引用:厚生労働省資料より

この改正により、「産業用ロボットとの接触による危険がない」などと言った条件を満たしている場合、人との協働作業が認められることとなったのです。つまり、この基準を満たしていることが協働ロボットの定義となります。

協働ロボットのメリット
  • 生産性の向上が期待できる
    ロボットは、疲れによる労働効率の低下もありませんし、一定かつ高速での作業を持続することが可能です。したがって、協働ロボットの導入は生産性の向上を期待できるでしょう。さらに、作業員ごとに品質が異なる…などといった事がないのも大きなメリットとなります。
  • 労働力の確保ができる
    ロボットは、どのような過酷な環境でも、労働効率を落とすことがありません。製造業は、昔から「汚い、危険、きつい」と言った悪いイメージもあり、労働人口が減少した現在では人材確保が難しいと言われています。協働ロボットの導入は、こういった労働力不足を解消できることが大きなメリットになります。
  • コスト削減ができる
    ロボットの導入は多額なコストがかかることがデメリットと捉えられがちです。しかし、中長期的に見れば、省人化によるコスト削減効果を永続的に期待できることになるわけですので、コストパフォーマンスが良い点は本来メリットになるのです。さらに、ロボットであれば、人間よりもはるかに長時間の稼働ができるので、人件費を抑えたうえで生産性の向上まで目指すことができるのです。

まとめ

今回は、工場や倉庫などで注目されているロボット技術の基礎知識についてご紹介しました。産業用ロボットは、自動車製造工場など、大規模な製造工場では積極的に導入されており、その高い生産性や高速で精度の高い作業が可能になる点が大きなメリットと捉えられています。しかし、本稿でご紹介したように、大掛かりな製造ラインの構築が必要になる産業用ロボットは、中小の製造現場ではなかなか導入が難しいという問題があったのです。

それが近年では、技術革新でロボットの小型化や低コスト化が進んだことや、法律の改正などで導入のためのハードルが一気に下がってきたと言えるでしょう。ただし、そうは言っても決して安いコストで導入できる物ではありませんので、「コストに見合った効果を得ることができるのか?」などは慎重に判断する必要があるでしょう。日本国内は、今後も労働力不足がどんどん深刻化すると予想されていますので、こういった最新技術の導入は全ての企業で考えておかなければならない課題となるのではないでしょうか。