今回は、倉庫・物流業界において、その注目度が年々高くなっているIoT技術について簡単にご紹介したいと思います。
日本国内では、少子高齢化などの影響により労働人口の減少が深刻な社会問題となっています。さまざまな業界が、新たな若手人材の確保に苦戦していると言われていますが、物流業界では人手不足を理由に、倒産する運送会社も出ているなど、倉庫・物流業界での労働力不足は深刻化の一途を辿っているのです。
こういった状況の中、物流業界でも作業の省人化や自動化を実現するIoT技術への注目度が高くなっています。実際に、大手物流企業ではさまざま最新技術の導入が行われるようになっており、倉庫内作業員やドライバーの負担軽減に一役買っています。
そこでこの記事では、そもそも「物流業界が抱える課題がどのようなものなのか?」ということや、その課題を解決するために導入された最新技術がどういったものなのかをご紹介します。
Contents
物流業界が抱える課題
それではまず、現在物流業界が抱えていると言われるいくつかの課題をご紹介しておきましょう。IoTの導入は、以下のような課題を解決する、画期的なソリューションだと考えられています。
労働力不足の解消
少子高齢化などの影響で、日本の労働人口は年々減少していると言われており、さまざまな業界で労働力不足が問題となっています。その中でも特に深刻な労働力不足に陥っていると言われているのが物流業界です。
厚生労働省が公表した2019年1月時点での有効求人倍率の推移を見てみると、全職種の平均が「1.52」なのに対し、なんと運送業界では「2.76」となっており、平均値の2倍近くの数字を記録しています。
また、EC市場は年々拡大を続けていますので、配送需要そのものはあるものの、ドライバーを調達できないが故に受注ができない…という悪循環に陥っている運送会社も多いと言われています。
参考:厚生労働省「トラック運送業の現況について」
参考:帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2019年度) 」
サービスの高度化による業務の激化
EC市場の影響もあり、近年では個人向けの低価格輸送のニーズが高まっています。個人向けの低価格輸送は、多頻度小口の物流となるため、配送員の負担が大きくなるわりに収益の増加はそこまで見込めません。さらに、配送時に不在だった場合の再配達も激増しているなど、物流会社の負担が年々大きくなっているのです。
他にも、ECサイト側の都合などもあり、当日配送など、配送サービス自体の高度化など、サービスに競争力が求められるようになっています。しかし、配送サービスの高度化で物流企業に求められる仕事量は増加しているものの、人手は充足されないという悪循環があり、物流業界で働く人員の業務の激化が進んでいるのです。
こういった『物流=激務』というイメージは、業界自体にネガティブなイメージをあたえますので、労働力不足問題をさらに促進してしまうなど、八方塞がりのような状況になってきているわけです。
物流業界で実際に導入されているIoT技術とは?
それでは、大手物流企業などが実際に導入を始めたIoT技術の事例をご紹介しておきましょう。さまざまな課題を解決するため、物流業界では多くの企業がIoT技術に注目していることでしょう。しかし、実際にどのような技術があり、どういった課題を解決できるのか分からない…と導入を迷っている事業者様も少なく無いと思います。
ヤマトオートワークス株式会社が開発した『スマート点呼』
ヤマトホールディングス傘下のヤマトオートワークス株式会社では、人と車両の健康状態を、IoTを活用してチェック、数値化・デジタル化し、データによる管理を行うことで「事故のない社会」を実現する『スマート点呼』を開発しています。この技術を開発した背景は、以下のように説明されています。
安全で事故のない運行が責務である運送事業会社にとって、運行前後におこなう車両の日常点検とドライバーの点呼は、安全・安心に高品質な輸送サービスを提供する上で重要な業務です。現状、一定の基準はあるものの目視や口頭による確認が一般的で、運行管理者の経験に左右されることから、その精度が課題となっています。
引用:ヤマトホールディングスプレスリリース
スマート点呼は、運行前後に各種IoT機器で車両とドライバーの健康状態を計測し、そのデータを運行管理者のスマートデバイスに自動送信するシステムになっています。これによって、より正確でスピーディーに車両とドライバーの確認を進めることができます。
スマート点呼の導入は、以下のような効果を期待できると紹介されています。
- ドライバーの健康起因による交通事故、日常点検不備による車両故障や事故の軽減
- 人、車両の健康状態を確認する時間の短縮
- 点呼時の運行管理者とドライバーとの会話時間の創出
- 日常点検起因の車両整備費用の削減
完全自動倉庫の実現を目指すファーストリテイリング
物流業界でのIoT技術の導入に関しては、ファーストリテイリングが有名です。RFIDタグを利用したセルフレジの導入などが注目されるファーストリテイリングですが、2019年11月には、完全自動倉庫の実現を目指すと発表しており、物流の面でもIoT化を進めています。
参考:公式サイトプレスリリース
日本通運 5Gを活用したスマート物流の実現に向けた実証実験を実施
物流業界の大きな課題であるトラックドライバーの不足や働き方改革などに対応するため、効率的な集荷システムの構築が望まれています。また、MaaS(Mobility as a Service)の発展とともに、貨客混載や共同輸送などさまざまな輸送方法が提案されており、積載データの可視化のニーズが増えてきています。
引用:日本通運プレスリリース
日本通運では、上記のような課題やニーズを解決するため、物流の効率化によるスマート物流の実現に向けた実証実験を行いました。実証実験の具体例を以下でご紹介しておきます。
例5GやMECサーバーを活用したトラックの積載状況の可視化および荷室への積み込み判定
引用:日本通運プレスリリース
この実証実験では、トラックの荷室の空き状況を可視化することができます。仕組みとしては5Gの大容量通信とMECサーバーを活用することで、荷室の状況をリアルタイムに伝送・解析することができるようになり、管理者側で各トラックの積載状況を可視化することができるようになるのです。
日本通運では、このシステムにより『今後、積載率の低いトラックを可視化して空いているスペースの有効活用の検討が可能になることや、ドライバーによる積載状況の確認作業を省力化することが期待されます。』と紹介しています。
参考:日本通運プレスリリース
まとめ
今回は、年々その注目度が高くなっているIoT技術について、大手物流企業が導入し始めた事例をご紹介してきました。物流業界では、少子高齢化などの影響による労働力不足が深刻化していると言われています。さらにそれに加えて、EC市場の拡大により、小口配送の激増やサービスの高度化などが求められるようになり、現場で働く人員の負担が非常に大きくなっているのです。
IoTの導入による省人化や自動化というものは、物流業界の人材不足や業務の激化を解決できると期待されているのですが、実際に導入を検討したとしても、自社にどのような物を導入すれば良いのかが分からない…という声も少なくありません。まずは、現在運用されている技術にどのような物があるのかを調べてみることからスタートしてみてはいかがでしょうか。