さまざまなHACCP認定と種類。なぜ統一でなく複数あるのか?

今回は、日本国内で2020年より制度化される事が決定した『HACCP(ハサップ)』について、そのHACCP認定を行う様々な機関を簡単にご紹介していきたいと思います。近年世界中で義務化の流れになってきているHACCPが、いよいよ日本国内でも制度化されることが決まったため、急いでどのようなものか調べているという食品関連会社の方は少なくないのではないでしょうか?
HACCPは、元々アメリカのNASAにおいて宇宙食の安全性を確保するために考案された管理手法ですが、世界中で食品流通が盛んになった現在では、食品の安全性を確保するために国際的な衛生管理手法として、各国で採用されるようになったものです。日本国内では、平成7年の食品衛生法改正の際、HACCPの考えに基づいた「総合衛生管理製造過程」と呼ばれる承認制度がスタートしているのですが、2020年の東京オリンピック開催に向け、より安全な管理体制の強化として制度化が決まったのです。
制度化が決まったからと、HACCPについて調べてみた方は、あることに疑問を感じると思います。それはHACCPの認定を行う機関が複数存在しており、それぞれの違いは何なのか?という事です。そこで今回は、複数あるHACCP認定のそれぞれの特徴についてご紹介していきたいと思います。

HACCP制度化が可決したけど…結局、今後はどうすればいいの?

HACCP認定の種類について

それでは、様々あるHACCP認定・認証についてご紹介していきましょう。冒頭でもご紹介したように、HACCP認定には各業界団体、地方自治体、民間認証機関など、認証を行う審査機関が複数存在しています。HACCP認定は、自社の衛生管理に関する取り組みを顧客に示すことが出来る一つの指標となるものですが、認定機関が複数存在するため、どの審査機関で認定を得ればいいのか迷ってしまうことも少なくないでしょう。
一般的には、経営の規模や流通の範囲、取り扱う食品の種類などで、どのHACCP認定が良いのか選定すべきものとなりますので、それぞれの認定の特徴はつかんでおいた方が良いでしょう。ここでは、それぞれのHACCP認定の特徴を簡単にご紹介しておきます。

地方自治体によるHACCP認定

地方自治体によるHACCP認定は『地域HACCP』とも呼ばれ、当たり前ですが各自治体が独自で定めた審査基準によって審査を行います。地域HACCPの特徴は、対象製品や適用範囲が定められているものの、各自治体の独自基準に則った審査となるため、近隣地域からの信頼は得やすいと言える点です。現在は、全国に40以上の地方自治体によるHACCP認定があり、中小企業でも取得しやすいのが大きなメリットとなります。

認証・認証団体について
  • 東京都食品衛生自主管理認証制度
  • 北海道HACCP自主衛生管理認証
  • 大阪版食の安全安心認証制度
  • 青森県食品衛生自主衛生管理認証制度
  • 広島県食品自主衛生管理認証制度
  • 金沢市食品衛生自主管理認証制度 等

自治体HACCP等認証制度を探す

業界団体認証によるHACCP認定

業界団体によるHACCP認定は、それぞれの業界・業種の特徴に合わせて認定が出るものです。当たり前ですが、適用範囲はその業界・業種に限られるという事が特徴となります。例えば、『(公社)日本缶詰びん詰レトルト食品協会』では、「低温殺菌される容器詰加熱殺菌食品HACCPマニュアル」等が作られているように、その業界・業種に合わせて「導入しやすくなるような手引書」が構築されています。したがって、自社の業種に合わせた認定機関に相談しながら進められるという部分が大きなメリットになります。

認証・認証団体について
  • (一社)日本食肉加工協会
  • (公社)日本缶詰びん詰レトルト食品協会
  • (公財)日本乳業技術協会
  • 全国醤油工業協同組合連合会
  • (公社)日本給食サービス協会
  • (一財)全国調味料・野菜飲料検査協会 等

指定認定機関一覧はこちら

総合衛生管理製造過程(通称:マル総)

厚生労働省のHACCP認証制度と言われる事が多いですが、明確には厚生労働省におけるHACCP認定・認証というものは存在しません。厚生労働省が行っている認証には、『総合衛生管理製造過程(通称:マル総)』が存在していますが、これは容器包装詰加圧加熱殺菌食品(缶詰、レトルト食品など)、魚肉練り製品、乳・乳製品、清涼飲料水、食肉製品の6種類に対象製品が限られています。
なお、平成30年6月公布の改正食品衛生法で全ての食品事業者を対象に、HACCPの導入を義務づける方針が決定した事により、現行の総合衛生管理製造過程承認制度は廃止されることが決定しています。

認証・認証団体について
  • 厚生労働省

民間団体によるHACCP認定

民間団体によるHACCP認定・認証は数多く存在します。ただし、『民間団体によるHACCP認定』は、単純にHACCPの認証を行うというより、HACCPがその一部として組み込まれているというイメージが近いものです。
民間団体によるHACCPの特徴としてよく言われるのは、取得のために人材教育や外部コンサルタント費用として多額なコストがかかることや、審査員の力量によって審査レベルが左右されてしまうといった事があります。また、事例や手引書がない業種や製品も多いため、取扱製品などによっては導入の難易度が高くなってしまうこともあると言われています。
しかし、民間団体による認証は行政によるそれと比較しても、その認証件数は大きく上回る結果となっています。これは、上述した厚生労働省による認証の『マル総』が非常に厳格な衛生基準を設定していたこともあり、企業にとってとても導入しづらい物だったことが大きな理由でしょう。したがって、民間認証が『マル総』の代替えとして多くの企業に取り入れられたのだと考えられます。

認証・認証団体について
  • ISO220000
  • SGSHACCP
  • SQF2000/HACCP
  • ISO9001/2008
  • FSSC22000
  • IQFSI認証 等

HACCP認定が複数存在するのはなぜ?

HACCPとは、「Hazard Analysis Critical Control Point」の頭文字をとったものであり、直訳すると「危害分析重要管理点」となります。つまり、食品の製造工程のポイントごとに危険要因を予測・分析し、それをコントロールすることによって安全な『食』を守るという考え方のことです。
この考えのもと、上述したように様々なHACCP認定機関が作られ、それぞれの団体独自にHACCP認定・認証を行うようになった結果、現在のようにHACCPの認定・認証マークが複数存在するようになったのです。それでは、食品業界にこれほどまでに細分化した衛生管理が求められるのはなぜなのでしょう?
この背景には、一つの食品事故が発生しただけでも、企業の存続を揺るがす大問題につながるからという理由があるのでしょう。そもそも食品の製造工程に関して考えてみると、その工程の中には様々な危険ポイントが存在します。さらに、製造する製品が異なる場合、注意しなければならないポイントも変わります。例えば、乳製品の製造を行う場合と食肉加工を行う場合では、製造工程で現れる危険ポイントは異なると言えばわかりやすいでしょうか。
つまり、製造される食品の安全性を向上させ豊かな国民生活を守るためには、HACCPのような細分化された衛生管理手法の導入が必要不可欠ですが、経営の規模、流通の範囲、食品の種類などによって危険要因が異なる為、複数のHACCP認定・認証が必要なのだと筆者は考えています。

まとめ

今回は、2020年に日本国内でも制度化が決まったHACCPについて、その認定・認証はどのようなものがあるのかについてご紹介しました。本稿でもご紹介しているように、日本国内でHACCP認定・認証を行っている機関はかなりの数があるため、どこに相談すればいいのか迷ってしまうというケースは少なくないでしょう。
現在HACCPは、日本でも多くの食品関連会社が導入又は導入を進めているといった状況ですが、まだまだその割合は低い水準にとどまっていると言われています。しかし、世界中を見渡してみると、米国、カナダ、EU等の海外では、すでに衛生管理手法として導入が義務化され、国際基準ともなっています。さらに日本国内でも2020年に制度化が決まっていますので、ギリギリになって焦るのではなく、今から徐々に国際基準に適用できるよう準備を進めるべきだと考えます。