食品工場のアレルゲン管理ガイドラインと違反事例を紹介

今回は、食品関連事業者が避けて通ることができない食物アレルギー対応について簡単に解説していきたいと思います。

さまざまな食品を製造する食品工場などでは、異物混入や食中毒対策に細心の注意を払っていることでしょう。特に、2020年からは、日本国内でもHACCPによる衛生管理が制度化されたことで、食品の製造現場における衛生管理体制への注目度が高くなっています。
しかし、食品を取り扱う現場で注意すべきポイントとなるのは、異物混入や食中毒対策だけではありません。実際に、コーデックス委員会※1が2020年11月の総会で採択したHACCPガイドラインの改訂版の中には、新しいガイドラインとして「食品事業者のための食品アレルゲン管理に関する規範」も採択されています。

そこでこの記事では、食物アレルギーの基礎知識や食品工場でのアレルゲン管理方法などをご紹介するとともに、最近の違反事例をいくつかご紹介しておきます。

※1 コーデックス委員会は、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保等を目的として、1963年にFAO及びWHOにより設置された国際的な政府間機関であり、国際食品規格の策定等を行っています。我が国は1966年より加盟しています。
引用:農林水産省サイトより

食物アレルギーの基礎知識

食物アレルギーに関しては、改めて解説しなくてもご存知の方が多いと思います。これは、食物によって引き起こされる免疫反応を介して、生体にとって不利益な症状が誘発される現象のことを指しています。

そのため、食中毒、食物不耐症などは食物アレルギーに含まれることはありません。なお、食物アレルギーを引き起こす原因は、食物タンパク質であり、それ以外の脂質や糖質などの成分では食物アレルギー反応は起きないとされています。

食物アレルギーの表示について

食物アレルギーは、摂取した食物が原因となり免疫学的機序(体を守る働きを免疫と言います)を介して、じん麻疹・湿疹・下痢・咳・ゼーゼーなどの症状を引き起こします。そして、時には『アナフィラキシーショック』を引き起こし、死亡事故に発展してしまうほど恐ろしいものです。

そのため、日本国内では、2002年4月より、加工食品のアレルギー表示制度がスタートしており、アレルギー症状を引き起こしやすい食品として、「乳・卵・小麦・そば・落花生」を原材料として含む旨の表示が義務付けられています。さらにその後、2008年6月には、従来の5品目に加えて「えび・かに」を追加する省令が公布され、2011年6月からは表示が義務付けられています。
なお、「食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、症例数や重篤な症状を呈する者の数が継続して相当数みられるが、特定原材料に比べると少ないものとして可能な限り表示することが推奨されたもの。」として『アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン』の21品目が「特定原材料に準ずるもの」とされています。

参考:東京都福祉保健局サイトより
参照:厚生労働省「食物アレルギーとは」より

食物回収の多くはアレルゲンが原因

「食品事故情報告知ネット」が公表した「2020年(1月〜12月)の事故情報についての整理・分析」によると、食品関連の事故(回収事例)の総件数は717件となっています。そして、この食品関連の事故のうち、過半数となる419件が表示関連のミスによるものであり、その内訳をみると「不適切な表示/アレルゲン」が234件と、全体の1/3を占めているという結果になっています。ちなみに、「異物混入:46件」「品質不良:42件」「微生物及び化学物質の混入:108件」などと比較しても、アレルゲンに関する不適切な表示が突出して多いのがよくわかります。

なお、こういった食品事故に関しては、「食品事故情報告知ネット」内で随時公開されています。以下で、最新の報告辞令の中で、アレルゲンに関する事故をいくつかピックアップしておきます。

その他の事例については、「食品事故情報告知ネット」で確認してみてください。

アレルゲン管理のポイントについて

それでは最後に、上記のような食品事故を引き起こさないため、食品の製造現場ではどのようなアレルゲン管理が必要なのかについても簡単にご紹介しておきます。ここでは、東京都福祉保健局が公表している「食品の製造工程における食物アレルギー対策ガイドブック」を参考にアレルゲン管理のポイントをご紹介します。

食品の製造現場などでアレルゲン管理を行う場合、まず大前提として「食物アレルギーについて知っておきたい基本的な知識を収集しておくことが大切とされています。なお、食物アレルギーの知識に関しては、食品製造施設の品質管理担当者だけでなく、直接食品を取り扱う従業員にも、アレルギーの原因となる食品や表示制度などの知識・情報を提供することも大切です。

その上で、以下のようなアレルギー対策が食品の製造工程において必要とされています。

  1. 仕入れた食材に含まれるアレルギー物質を、食品表示などにより確認
    食品の製造現場では、原材料の管理が非常に重要です。仕入れた食品に関しては、その表示を確認し、表示がないものに関しては、仕入れ先やメーカーなどに問い合わせを行い、食材に含まれているアレルギー物質の把握を必ず行ってください。製造工程でいくら注意したとしても、原材料にアレルギー物質が含まれていれば、意味がありません。
  2. 一般的な製造工程管理を行うこと
    ① 混入してはいけない食物アレルギー物質を取扱う作業エリアを区別する
    ② 原材料を区別して保管する
    ③ 食物アレルギー物質を含まない製品を先に製造する、など
  3. 食物アレルギー物質のふき取り検査による検証
    ・アレルギー物質は目視では確認することができないので、ふき取り検査によりアレルギー物質汚染を確認し、上記の一般的な製造工程などの管理がうまく機能していることを検証します。市販の現場簡易検査キットを用いることで、約 10 から 20 分程度で検査結果が判明し、改善に向けた対策を迅速に行うことができます。
    ・食品の製造工程における食物アレルギー物質の意図せぬ混入防止対策を行うため、「アレルゲン管理サイクル※2」の考え方を導入する
※2アレルゲン管理サイクル
  1. ふき取り検査により、アレルギー物質を検出した箇所を製造所の平面図に記入します。
  2. アレルギー物質を検出した箇所をアレルゲンポイントと呼び、施設平面図にその分布を示したものをアレルゲンマップと呼びます。
  3. これで、目に見えないアレルギー物質を「見える化」できます。
  4. 「見える化」により、アレルギー物質の汚染情報を共有し、改善に向けた責任の明確化を図ります。
  5. 改善に向けた対策を行った後に、再度 ふき取り検査を実施し、最終的にアレルゲンポイントが除去できるまで繰り返すことで、製造工程におけるアレルギー物質の管理を行います。

参照資料:東京都福祉保健局「食品の製造工程における食物アレルギー対策ガイドブック

食品製造現場でのアレルゲン管理では、「アレルゲンを含む食品」から「アレルゲンを含まない食品」への意図しない移行が起こらないよう適切に管理することが非常に重要です。例えば、人やモノなどを介してアレルゲンが移行しないように、空間的・時間的に作業エリアを区分するという予防法や、洗浄不足によるアレルゲンの残留を予防するため、「洗浄の徹底」を指示するなどが有効とされています。しかし、アレルギー物質は目視では確認することができないことから、「適切に洗浄できたかどうか?」を見える化することが非常に重要になります。そして、この見える化を実現するための手法がアレルゲン管理サイクルでアレルゲンマップを活用したアレルゲンのコントロールが近年注目されています。

まとめ

今回は、食品製造現場でのアレルゲン管理について解説してきました。食品を取り扱う現場では、異物混入や食中毒事故を引き起こさないことが大切と考えられていますが、近年では、アレルゲンの管理が非常に重要視されるようになっています。実際に、2020年11月に開催されたコーデックス委員会の総会では、17年ぶりとなるHACCPガイドラインの大規模な改定が行われ、その中でアレルゲンマネジメント(アレルゲン管理)がより強調されるようになっています。

また、食物アレルギーは人を死に至らしめることもあるということが広く知られている現在でも、食品回収の多くはアレルゲンの表示ミスという現実もあります。もちろん、食品製造業界が、アレルゲン管理を軽視しているとまでは言いませんが、これほどまでアレルギー表示による回収事例が発生しているとなると、いま一度アレルゲン管理に関しての見直しが必要なのかもしれません。