『冷凍』と聞けば皆さんは何をイメージするでしょうか?ほとんどの方は、自宅にある冷凍庫で食品を冷凍保存をすることをイメージすることでしょう。もちろん、家庭用冷蔵庫に備え付けられている冷凍室も凍結技術の一つですが、近年、業務用の凍結技術の進歩が著しいと言われています。
実際に、冷凍食品の市場規模は、年々増加しており、この20年で倍になりつつあると言われています。皆さんも、日々のお弁当や、忙しい日など料理を作る時間を取れない時には、積極的に冷凍食品を活用しているのではないでしょうか。こういった冷凍食品に関しては、どんどん味がよくなっているとも言われており、この冷凍食品の進化に最も貢献していると言われているのが凍結技術の進歩です。
そこで今回は、私たちの食卓を陰で支えてくれる凍結技術にスポットを当てながら、最新の急速凍結技術『プロトン凍結』についてもご紹介していきます。
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凍結技術の種類とは?
それではまず、凍結技術の種類をいくつかご紹介しておきましょう。そもそも『冷凍』とは、-18℃以下に保つことを言うのですが、家庭の多くに普及している冷蔵庫の冷凍室は『エアーブラスト方式』と言われる技術が採用されています。実は、さまざまな技術が発展していると言われる日本は、世界で最も凍結技術の歴史が古く、発展していると言われているのです。その中でも、昨今の食を支える凍結技術として『急速凍結』と呼ばれる技術が欠かせないと言われています。これは、その名称通り、「急速に凍結させる」技術となります。
食品を冷凍した場合、その味が落ちてしまう原因は「氷結晶が細胞膜を破る」ことだと言われています。通常の凍結技術の場合、最大氷結晶生成温度帯と呼ばれる『-1℃~-5℃』の温度帯をゆっくりと通過するため、氷結晶が大きくなってしまい、細胞膜を破ってしまうのです。しかし、急速凍結の場合は、この温度帯を速やかに通過させることができるため、食品の味を保ったまま保存することができるようになるのです。
以下で、一般的な凍結技術をいくつかご紹介しておきます。
- エアーブラスト方式(空気凍結)
家庭用冷蔵庫の冷凍室など、最も普及しているタイプ凍結技術です。名称から分かるように、冷やした空気を吹き込むことで、冷凍室内の温度を下げ、冷凍します。 - リキッド方式(液体凍結)
−10℃~-35℃に冷やした液体に、食品を付けることによって冷凍する技術です。お祭りなどでよく見る「氷水の中に飲み物を入れて冷やす」というのと考え方は一緒で、液体凍結の場合は「0℃」でも凍らない液体を媒体として凍結させます。 - コンタクト方式(接触式凍結)
低温の冷凍板に食品を接触させ、凍結させる凍結技術です。冷やした板は、空気などと比較して、対象物に伝わる熱量が大きいことを利用した技術となります。冷凍効率をより高くするため、冷凍板で食品を挟み、圧力をかける設備などが多いです。 - 液化ガス方式
−196℃の液体窒素や−79℃の液化炭酸ガスを食品に直接吹き付けて凍結させる凍結技術です。圧倒的に低温な媒体を利用して、食品を急速に凍結させることができます。
最新の急速凍結技術『プロトン凍結』とは?
それではここからは、最新の急速凍結技術と言われる『プロトン凍結』についてご紹介しましょう。近年、冷凍食品の品質向上は著しく、高級食材や珍味などは、むしろ冷凍で長期保存できる形態のものが多くなっている傾向にあるほどです。このような状況になってきたのは、やはり凍結技術の進歩が大きな要因であり、その中でも急速凍結技術のひとつであるプロトン凍結が大注目を浴びているのです。
急速凍結は、上述した『最大氷結晶生成温度帯』を30分以内に通過するような凍結技術で、これにより、食品の組織破壊を最小限におさえ、品質が変わってしまうことを防いでいるのです。それでは、プロトン凍結とはどのような手法で冷凍しているのか以下で見ていきましょう。
プロトン凍結の仕組みと特徴
『プロトン凍結』は、その名称だけではイマイチどのような凍結技術かイメージできませんが、これは「磁石と電磁波に冷風を融合」させた急速凍結技術となります。
冷風による素早い冷却に加えて、磁石と電磁波が氷の結晶それぞれに働きかけ、氷の結晶が大きくならないようにサイズをコントロールするのです。氷のサイズをコントロールすることで、食品の細胞破壊を防ぐことができ、食品へのダメージを最小限におさえることができる急速凍結技術になっているのです。
このプロトン凍結では、通常の凍結技術で冷凍した場合、食品ダメージから解凍時にドリップという液体が発生しやすいイワシやマグロ、イセエビなどの繊細な魚介類も冷凍保存することが可能です。さらに、これらの魚介類を、解凍後も刺身として食べられるほどの鮮度を保ったまま保存することが可能だと言われているのです。他にも、従来の凍結技術では難しいとされていた食品の冷凍保存が可能です。
- 白米や酢飯は、冷凍によるダメージで「白蝋(はくろう)化」してしまいます。しかしプロトン凍結であれば、握りずしの状態でも美しく冷凍保存が可能です。
- 粉モノや、煮込み料理、ケーキや和菓子なども、そのままの美味しさを保ったまま保存することが可能です。
プロトン凍結を利用するメリットは?
それでは最後に、プロトン凍結を利用した急速凍結技術の具体的なメリットをご紹介しておきましょう。プロトン凍結は、食品の鮮度を保って保存できるだけでなく、調理後のメニューまでそのまま冷凍保存できますので、「美味しさを長持ちさせる」という表面的なメリットだけでなく、食品ロス削減にも一役買えるというメリットがあると言われています。
鮮度維持によるメリット
本来、鮮度が命と言われる魚介類などの食品は、その味を楽しみたいと考えた場合、現地まで足を運ぶ必要があります。しかし、プロトン凍結を活用すれば、鮮度を保ったまま食品を保存することができるようになるため、全国展開をすることも可能となるのです。
凍結したとしても、品質低下の心配が無いため、高級食材や現地でしか味わうことができないような珍味が全国どこでも食べることができるようになるのです。これは、地方都市にとって、地元の食材をアピールするチャンスとなります。
食品ロスの削減が期待できる
プロトン凍結を活用することで、材料や食品の賞味期限による廃棄を極限まで抑えることも可能です。現在は、小売り面においてプロトン凍結の活用が広がってきていますが、これが飲食店などでも普及してくれば、あらかじめら作り置きした料理を、お客様に提供する前に解凍して使うなど、食品ロスを大幅に減らすことができるでしょう。さらに、まとめて調理することも可能になりますので、人件費の削減や食材の仕入れコスト削減なども可能になるのではないでしょうか?
実際に現在では、プロトン凍結による食品を売りとしているレストランなども登場しており、その料理の美味しさに顧客が皆驚いているなどといった話もあるのです。特に、クリスマスケーキやおせち料理など、季節ものの食品に関しては、食品の無駄を大きく減らすことができるプロトン凍結が非常に役立つと言われています。
まとめ
今回は、私たちの生活には欠かすことができない「食品の凍結技術」についてご紹介しました。一昔前であれば、一度凍結した食品は、どうしても味が落ちる…ということが言われていましたが、本稿でご紹介したように、現在では凍結技術の著しい進化により、味や品質を保ったまま食卓に食べ物を届けてもらえる時代になっているのです。
こういった技術は、私たちの生活を豊かにしてくれるだけでなく、実は食品ロスなど、世界中で社会問題となっている「食べられるのに捨てられる食品」減らすことにも役立つと考えられているのです。一般の人には、あまり馴染みのない話だったかもしれませんが、現在ではこういった凍結技術なしでは人間の生活が成り立たないのかもしれませんね。
また、冷結技術や冷凍・冷蔵の倉庫などを使用する際は、結露を発生させないための管理が必要となります。下記のページにて結露を発生させない方法について解説しておりますので、ぜひあわせてご覧ください。
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