危険物の「運搬」と「移送」の違いを押さえておきましょう!

今回は、危険物を取り扱う場合に、ぜひ知っておきたい『運搬』と『移送』の違いについてご紹介します。
「危険物とは何か?」というと、これは、消防法に定められた火災や中毒など、災害を発生させる危険がある物質の総称です。私たちの身近にあるものでは、ガソリンや灯油、軽油などが危険物に指定されています。
こういった危険物は、取り扱いを一つ間違えただけで、大きな事故を発生させる危険性があるため、保管方法や取り扱いに関する基準が法律や地方自治体の条例によって厳しく定められています。さらに、危険物の移送や運送方法に関しても、保管方法などと同じく決まりがあります。
そこで本稿では、危険物の移送や運搬がどのようなものなのかついてご紹介していきます。

危険物の移送と運搬について

危険物と聞けば、毒物や劇物、ドラッグなどをイメージする人が多いかもしれませんが、本稿で紹介する『危険物』とは消防法に定められた火災の原因となりやすい物質の総称です。こういった危険物は、そのもの自体が引火したり発火したりする可燃物と、酸素供給源となって物質の燃焼を助ける支燃物(しねんぶつ)があり、現在のところ液体と固体のみが危険物に指定されています。天然ガスなども、火災の危険性がある物質が多いですが、こちらは『高圧ガス保安法』という法律で規制されるため、危険物には指定されていません。
上記のような危険物は、製造場所からその危険物を使用する他の場所に移動させる手法によって『運搬』と『移送』に区別されます。それぞれの移動方法の違いは、以下のようになります。

  • 危険物の運搬
    法律で決められた専用の運搬容器に収納した危険物を、タンクローリー以外のトラックなどでAからBの場所へ運ぶこと。
  • 危険物の移送
    タンクローリー(消防法では「移動タンク貯蔵所」と表現されます)によって危険物を運ぶこと。パイプラインによって危険物の移送を行う移送取扱所もあります。

危険物を運ぶ場合には、上記のようにその手法によって呼び名が変わります。なお、『運搬』と『移送』では、運搬の方が危険度が高くなるため、指定数量未満の場合でも消防法が適用されます。移送の場合は、運搬に比べ安全性は高いのですが、指定数量未満の危険物を運ぶことはほとんどないため、必ず危険物取扱者の有資格者を同乗させることとなります。
以下で、『運搬』と『移送』の違いをもう少し詳しくご紹介します。

危険物の『運搬』について

それではまず、危険物の『運搬』に関する基本知識からご紹介します。危険物を運搬する場合には、「運搬容器に関する基準」「積載方法に関する基準」「運搬方法に関する基準」と、3つの基準があります。それぞれをしっかりと把握しておきましょう。

運搬容器に関する基準

危険物を運搬する場合には、鋼板、アルミニウム、ブリキ、ガラスなど、危険物に反応しない専用の容器を使用しなければならないという基準があります。もちろん、危険物を収納する容器は、堅固な構造で容易に破損する恐れがなく、収納された危険物が運搬の途中で漏れるおそれのないものでなければいけません。

積載方法に関する基準

次は、危険物の積載方法についてです。まず、危険物を収納する容器には、以下の内容を表面に記載しなければいけません。

  • 危険物の品名
  • 危険等級
  • 化学品名
  • 第4類危険物で水溶性のものは「水溶性」
  • 危険物の数量
  • 収納する危険物に応じた注意事項
『危険物等級』は、その言葉通り、収納される危険物の危険度で、1~3に分けられた等級を記載します。ちなみに、最も危険度が高いものが1と設定されています。
危険物は、温度変化によって膨張するものも多く、固体の危険物は「内容積の95%以下」、液体の危険物は「内容積の98%以下」の収納率と定められています。また、危険物温度が55℃になり、体積が増えた場合でも容器から漏れ出さないよう、十分な空間容積を確保する必要があります。
そのうえで、以下のような積載基準を守る必要があります。

  • 危険物が転落したり、危険物を収納した運搬容器が落下や転倒、破損をしないように積載する
  • 運搬容器の収納口を上に向けた状態で積載する
  • 運搬容器を積み重ねて積載する場合には、積み重ねた高さが3m以下になるようにする
  • 紫外線や水が厳禁な危険物を積載する場合は、遮光性や防水性のほろで容器を覆う必要がある
  • 危険物の種類によっては、違う類の危険物と混載しない
  • 災害を発生させるおそれのある物品と混載しない

危険物の積載基準に関しては、上記のように決められています。ちなみに、混載可能な危険物の組み合わせに関しては、以下に紹介する参考資料の5ページでご確認ください。

参考資料:全日本トラック協会『危険物輸送の基本』より

運搬方法に関する基準

指定数量以上の危険物を運搬する際は、消防法に定められている以下の事項を遵守しなければなりません。

  • 運搬中に危険物を収納した容器が、著しく摩擦、動揺を起こさないようにして運搬する
  • 危険物に適応する消火設備を備える
  • 積替、休憩、故障などのため、車両を一時停止させる場合には、安全な場所を選び、かつ運搬する危険物の保安に注意する
  • 運搬中に危険物が著しく漏れるなど、災害発生のおそれがある場合は、災害防止のための応急措置を講ずるとともに、消防機関その他の関係機関に通報する
  • 車両の前後の見えやすい箇所に、0.3×0.3mの地が黒色の板に黄色の反射性材料で『危』と表示した標識を掲げなければならない

参考資料:全日本トラック協会『危険物輸送の基本』より

危険物の『移送』について

次は、危険物の『移送』について詳しく解説します。危険物の移送は、上述したようにタンクローリーによって危険物を運ぶ行為を指しています。
危険物の移送を行う場合は、事前にタンクや底弁、その他の弁、マンホールや消火器などを十分に点検する必要があります。また、連続運転時間が4時間を超える場合や、1日の運転時間が9時間を超える場合、運転手を2名以上確保しなければならないと定められています。他にも以下のことが定められていますので覚えておきましょう。

  • 車両の前後の見えやすい箇所に、0.3~0.4mの地が黒色の板に黄色の反射性材料で『危』と表示した標識を掲げなければならない
  • 休憩、故障などのため、車両を一時停止させる場合には、安全な場所を選ぶ
  • タンクローリーから危険物が著しく漏れるなど、災害発生のおそれがある場合は、災害防止のための応急措置を講ずるとともに、消防機関その他の関係機関に通報する
  • アルキルアルミニウム等、空気に触れると爆発する危険がある危険物を移送する場合、移送ルートなどを記載した書面を関係消防機関に送付し、書面の写しを携帯して記載内容に従う必要がある
  • 完成検査済証、定期点検記録、譲渡・引渡届出書、品名等変更届出書の原本を載せておく。また危険物取扱者は必ず免許を持参しておく。どちらもコピーは認められません。
参考資料:全日本トラック協会『危険物輸送の基本』より

まとめ

今回は、危険物を運ぶ手段である『運搬』と『移送』について、その詳細をご紹介しました。この二つの違いは、『運搬』は専用の容器に収納した危険物をトラックで運ぶことで、『移送』は移動タンク貯蔵所と呼ばれるタンクローリーで運ぶことですので、根本的に運ぶ手段が違うと覚えておきましょう。
どちらにしても、危険物を運ぶ際には、何か一つでも不備があれば、大きな災害にまで発展しかねない非常に危険な作業をしていると認識し、事故のないように安全に注意しましょう。