近年では、少子高齢化などの影響により、さまざまな業界で人手不足が深刻化していると言われています。特に、製造業界では、熟練工の高齢化が進んでいるものの、新たな人材の確保が困難になっており、熟練工が持つ高度な技術を下の世代に受け継いでいくことがどんどん難しくなっていると言われています。
このような状況の中、製造現場では、人手不足の解消や業務効率の向上を目的に、工作機械の自動化に目を向ける企業が多くなっています。従来の製造現場では、作業員のハンドル操作によって加工がおこなわれていたのですが、この方法では熟練度による品質のばらつきや操作ミスによる損失の可能性も考えられます。
このような状況の中、作業員の技量に左右されることなく、安定した品質と短納期に対応できる設備として注目されているのが『NC工作機械』です。多くの企業が導入を始めた『NC工作機械』ですが、実際にどういった機械なのか、導入によるデメリットはあるのかなど、不安に感じてしまうこともあると思いますので、この記事で簡単に解説したいと思います。
そもそもNC工作機械とは?
それではまず、NC工作機械がどういったものなのかを簡単に解説します。
NC工作機械は、数値制御(数値によってコントロール)装置が備わっている工作機械のことを指しています。ちなみに、NC工作機械の『NC』は数値制御を意味する「Numerical Control」の頭文字をとった略称となります。「数値制御」の意味が良く分からない…と言う方も多いと思いますが、これはJIS(日本規格協会)によって以下のように定義されています。
数値制御
工作物に対する工具経路 , 加工に必要な作業の工程などを,それに対応する数値情報で指令する制御
引用:産業オートメーションシステム− 機械の数値制御−用語より
NC工作機械は、従来は作業員がハンドル操作で行っていた加工を、数値情報で指令を出すことができるようになるため、加工が自動化できるようになるわけです。NC工作機械は、旋削、平削り、穴あけ、フライス削りなどと言った加工が可能です。一般的に、NC工作機械内では、加工内容(工具の経路、主軸の回転数、加工条件など)を記憶させ、サーボ機構※1を作動させて工具などの動作を制御しながら加工が行われます。
物体の位置、方位、姿勢などを制御量として、目標値に追従するように自動で作動する仕組み。
このNC技術については、1950年代にアメリカで開発されたと言われています。その後、日本国内で応用開発が進み、現在ではほぼすべての工作機械にNC装置が備え付けられるようになっています。なお、近年では、コンピューターによる数値制御機能を備えるようになっているため『CNC工作機械』と呼ばれる場合もあります。
NC工作機械のメリット・デメリット
それでは、NC工作機械を導入する場合に考えられるメリットとデメリットも考えてみましょう。熟練工の高齢化や人材不足が問題となっている製造現場では、作業員の熟練度に左右されず高精度な加工や短納期に対応するため、NC工作機械の導入を検討する企業が多いと言われています。しかし、NC工作機械を導入したからと言って、すぐに高精度な加工や生産性の向上に結び付くかと言うとそうではない場合もあると言われています。特に、間違った設備の導入は、かえって企業の収益を圧迫することにつながりますので、慎重に比較しなければいけません。
NC工作機械のメリット
NC工作機械には、以下のようなメリットがあると言われています。
- 品質面のメリット
まずは、安定した品質がメリットです。従来の汎用工作機械では、作業員がハンドル操作で作業を行いますので、熟練度や人為的ミスなどにより品質にばらつきが生じる可能性があります。しかし、NC工作機械の場合、数値情報に基づいて自動制御で加工を行いますので、熟練度などに関係なく加工精度が安定します。また、作業の主体が人間から機械に移りますので、疲労による作業効率の低下や人為的ミスの心配などもなくなります。 - 量産化やコスト低減
従来の方法であれば、作業員が一つずつ手動で加工を行います。しかし、NC工作機械の場合、加工条件をプログラムに入力しておくだけで、無駄な動きなどなく機械の能力ギリギリまで加工が行えます。そのため、製品一個当たりの加工時間が短くなり量産化が期待できます。また、作業員は機械を監視するだけですので、一人の作業員で複数の機械を操作することも可能になり、生産性の向上・人件費の削減も期待できます。 - 安全性が高い
NC工作機械では、作業員が直接操作を行うことがなくなりますので、作業員が機械に巻き込まれる…刃物で怪我をする…などと言う労働災害の危険性を低くすることができます。NC工作機械の加工動作部分は、強固なカバーで囲われているため、作業員の安全を確保して加工が進められます。
NC工作機械のデメリット
上記のように、さまざまなメリットがあるNC工作機械ですが、非常に高価な設備で、導入には多額のイニシャルコストがかかってしまうため、その点がデメリットと感じられる方が多いようです。NC工作機械は、従来の工作機械部分に加えて、制御を行うためのNC制御装置やソフトウェアなど、さまざまな周辺設備が必要になるため、導入コストが高額になってしまいます。
さらに、NC工作機械での加工は、NCプログラムの開発が必要となります。したがって、作業員がプログラム知識を習得する必要があり、加工前の段取り作業の時間や労力が増えてしまうなど、汎用工作機械と比較すると、一つの加工に対する準備の時間と労力がかかる点もデメリットと言われています。
他にも、従来の機械にはない制御部分の装置などが増えますので、その分故障してしまう箇所が増加してしまう可能性も考えられます。つまり、イニシャルコスト、ランニングコストが高くなってしまう可能性も考えられますので、その資金を回収できるだけの生産性や売上高が見込めるのか?という点をしっかりと検討する必要があります。
まとめ
今回は、NC工作機械の基礎知識についてご紹介してきました。人材不足や熟練工の高齢化が問題となっている製造業界では、作業員の熟練度に左右されることなく、安定した品質を保つことができるNC工作機械への注目度が非常に高くなっています。
しかし、実際に導入を検討した場合には、多額のイニシャルコストがかかる事や、汎用工作機械と比較すると段取り作業の時間や労力がかかってしまうなど、いくつかのデメリットがあることも忘れてはいけません。実際に導入を検討する際には、上記のメリット・デメリットを慎重に考慮することをおススメします。