工場の人材育成を成功に導くには?よく聞くOJTの基礎知識をご紹介!

少子高齢化による労働人口の減少で、さまざまな業界で人材不足が問題となっています。特に、工場などの製造業界では、古くから「きつい」「汚い」「危険」の頭文字を取った『3K』と呼ばれるネガティブなイメージが定着していることもあり、若手人材の採用活動に苦戦している企業が多いと言われています。

こういった状況もあり、近年では採用した若手人材の教育に力を入れる企業が増加しています。以前、別の記事でご紹介したように、中小企業などでも社内人材の育成に力を入れるため『社内大学』を設立する企業が増えているなど、採用した新入社員をいち早く戦力に育てるための対策に力を入れている企業が多いのです。
こういった企業が行う新入社員教育の手法としては『OJT』と呼ばれる手段が現在最もメジャーな方法となっています。実際に、この記事を読んでいただいている方の会社でも『OJT』を採用しているのではないかと考えられます。しかし、有効な新入社員教育の手法と言われている『OJT』ですが、「OJTとは本来どういったものなのか?」ということを教育する社員側が理解していなければ、思ったような効果を出すことができないとも言われているのです。

そこでこの記事では、社内人材の育成を成功に導くため、教育者側がおさえておきたい『OJT』の基礎知識をご紹介していきます。

今話題の『社内大学』とは?その特徴やメリットをご紹介します。

OJTの基礎知識

それでは新入社員教育の最もメジャーな手法と言われている『OJT』の基礎知識から簡単にご紹介していきましょう。

OJTは「On-The-Job Training」の頭文字を取った略語で、新入社員に実務を通じて業務を教える育成方法となります。OJTが注目されたのは、研修終了後には新入社員が即戦力になることが期待できるなど、さまざまな効果を望めるためだと言われています。方法論としてはそこまで複雑なものではなく、通常業務の中で部下が職務を遂行する上で必要になる知識やノウハウを、上司や先輩社員などが指導担当者となり、随時与えていくという人材育成方法となっています。

現在では、多くの企業で新入社員研修や社員教育の一環として『OJT』を積極的に活用しています。非常に手軽に導入できる育成方法ですが、職務訓練の手段として導入する場合には、単発的にアドバイスを与えるのではなく、業務マニュアルや評価軸をきちんと設定し、計画的に教育を実施していくことが重要とされています。
ちなみに、OJTの歴史は非常に古く、第一次大戦中のアメリカでチャールズ・R・アレン氏が開発した職業指導方法である「4段階職業指導法」が基礎になっていると言われています。

4段階職業指導法
「Show(やってみせる)」「Tell(説明する)」「Do(やらせてみる)」「Check(評価・追加指導する)」の4段階からなる指導方法です。現在でもこれがOJTの基本ステップとして知られています。

OJTを取り入れるメリット

それでは、実際にOJTを取り入れた場合に得られるメリットをご紹介していきましょう。通常業務を通じて、上司や先輩社員が指導担当者となるOJTは、教えられる側だけでなく教える側や企業にとってもさまざまなメリットがあると言われているのです。

メリット① 個人に合わせた指導ができる

OJTによる教育では、上司や先輩社員など、指導担当者からマンツーマンで指導をしてもらえる機会が多くあります。そのため、教えてもらう側の理解度に応じて、研修内容やスピードを柔軟に変えることが可能なのです。学校教育でも、「個人による理解度の違い」はよく問題視されていますが、OJTでは最初は何も分からない状態の新入社員に対して、それぞれに最適なペースで研修を進めることができ、不安や疑問を解消してあげることができるのです。

メリット② 教える側のスキルアップも見込める

OJTは、何も分からない新入社員に対してわかりやすく教えることが非常に重要な要素となります。したがって、指導担当者となる上司や先輩社員は、どのように説明すれば相手が理解してくれるのかを考えながら研修を実施していくことになるのです。そのため、新入社員への教育を通して、教える側となる社員も業務への理解度や指導力などの向上が見込め、スキルアップにつながると言われています。

メリット③ 即戦力になるのを期待できる

OJTでは、通常業務を通して職務を遂行していく上で必要になる知識やノウハウを提供していきます。したがって、研修内容は本来の仕事とのズレが非常に少なく、OJT終了後は即戦力として活躍できる人員になることが期待できるのです。

メリット④ 職場での人間関係を作りやすい

円滑に業務を進めていくためには、社員同士のコミュニケーションが必要不可欠です。また、新入社員の早期退職を防ぐためにも、職場内での良好な人間関係の構築が非常に重要です。OJTでは、実務を通して上司や先輩社員から新入社員への知識の伝達が行われるものですので、必然的に教わる側と教える側の間に協調性や信頼関係を結ぶことができるのです。研修の過程では、部下が上司や先輩に分からないことを質問したり、教える側が分からないことが無いか確認を取るといったコミュニケーションが頻繁に行われますので、職場内での人間関係の構築もしやすくなるのです。

メリット⑤ 教育にかかるコストを抑えられる

OJTでは、上司や先輩社員が指導担当者になるため、人材育成に要するコストが抑えられるというメリットもあります。例えば、『OFFJT』では、講師や研修を外注することになりますので、人材教育のためにそれなりのコストがかかってしまいます。また、通常業務外の時間に研修を実施することになりますので、残業代や手当などのコストが必要になります。OJTは、あくまでも業務の中で研修が行われますので、特別なコストが発生せず、低コストで人材育成が可能なのです。

OJTの注意点について

それでは最後に、OJTを取り入れる場合の注意点についてもご紹介しておきましょう。上述したように、さまざまなメリットがある一方で、いくつかの課題も指摘されていますので、実際にOJTを進める場合には、以下の点に注意しましょう。

注意点① 指導体制が整わないと、単なる放置に…

OJTは、会社全体で指導体制を整えたうえで進めなければいけません。指導担当者となる既存社員は、通常業務に加えて「新人教育」をしなければならないため、負担は少なく無いのです。そのため、指導体制が整っていない企業では、教える側の負担が大きすぎて教わる側が放置されてしまうなど、OJTが上手く運用することができない場合も多いのです。
OJTは、現場に教育を任せる手法ですが、現場に任せすぎるのではなく、きちんと実態を把握しながら会社側もフォローしなければいけません。

注意点② 教える側のスキルにより習熟度に格差が…

OJTは、教える側のスキルによって、その成否が決定するという側面があります。どういうことかというと、OJTでは上司や先輩社員が指導担当者となり教育するのですが、それぞれが持つ専門的なスキルは格差がありますし、そもそも『教える』能力も人それぞれ異なってしまいます。そのため、OJTを導入したとしても、教える側のスキル差によって、研修内容に差が出てしまう…という懸念があるのです。したがって、こういった問題を防ぐためにも、教える側も研修が必要になると考えておきましょう。

注意点③ 業務が滞ってしまう危険が…

OJTでは、指導担当者になった人員が、通常業務とは別に指導のための時間を設け、教わる側の習熟度に合わせて業務を進めたりする必要があります。したがって、教える側にとっては、時間的にも精神的にも負担が大きくなりやすく、場合によっては通常業務に支障をきたしてしまうことが懸念されるのです。教育と実務を両立させるためには、現場に全て丸投げするのではなく、会社側が指導担当者をサポートすることが求められます。

まとめ

今回は、新入社員教育の手法として、最もメジャーな方法と言われている『OJT』の基礎知識についてご紹介してきました。さまざまな業界で人材不足が問題視されている近年では、社内人員の教育が非常に重要になります。そのため、新たな教育方法として社内大学の設立なども注目されているのですが、OJTによる新入社員教育は今後もその重要性が高くなっていくと予想できます。

しかし、現場の上司や先輩社員が指導担当者となり、通常業務の中で教育を施していくという手法となりますので、実際に教育担当者になった人員の負担は非常に大きなものとなるのです。したがって、「現場に教育を任せたのだから」などと、会社側が現場に丸投げするのでは、OJTの運用はなかなか効果的なものにならないと考えられます。まだ始めていない企業は、まず会社全体で指導体制を整えることからスタートしてみてはいかがでしょうか。