工場で働くなら取得しておくと有利?消防設備士と危険物取扱者の基礎知識について

今回は、工場で働くことを考えた場合、取得しておくと待遇面で有利に働くと言われる消防設備士と危険物取扱者についてご紹介したいと思います。消防設備士と危険物取扱者という資格は、国家資格となりますが、一般生活の中ではあまり馴染みのある資格ではないため、興味はあるけれど「資格を取得してどのようなことに役立つのか?」や「どっちを取得したほうが仕事に有利になるのか?」などと、疑問を持っている人が多いのではないでしょうか?また、企業側から見ると、業務内容によっては消防設備士や危険物取扱者の有資格者を配置しなければならない場合もあり、採用担当者はこの二つの資格についてそれぞれの違いぐらいは押えておかなければならないでしょう。
ちなみに、この二つの資格は、どちらも消防試験研究センターで試験が行われ、同時に受験することも可能です。そのため、「似たような内容になる?」などと思われがちです。しかし、実際には取得している資格によって職場や仕事内容が異なる可能性が高いものなのです。そこで今回は、それぞれの資格の詳細や、有資格者がどのような業務を行えるのかについてご紹介します。

消防設備士の詳細について

まずは消防設備士の基本情報についてご紹介します。
街中にあるオフィスビルや工場、デパートやホテルなどの建物は、その用途や規模、収容人員に応じて屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、自動火災報知設備などの消防用設備や特殊消防用設備等を設置することが法律によって義務付けられています。これらの消防設備は、万一のトラブル時に正常に動作しなければならないものですので、経年劣化などで不具合が出ていないか?など定期的な点検・整備も必要になります。
消防設備士の資格は、こういった消防設備に関わる工事や整備などを行う場合に必要になります。

消防設備士の業務

消防設備士には、甲種と乙種の2つの種類があります。そして、この種類の違いによって行える業務が異なります。

  • 甲種消防設備士
    甲種消防設備士は、消防用設備の工事、整備、点検に至るまで、幅広い仕事を行うことが可能です。特殊消防用設備に関しては甲種特類の取得が必要です。
  • 乙種消防設備士
    乙種消防設備士は、消防用設備の点検や整備することを可能とした資格で、工事を行うことはできません。

消防設備士は、上記のように大きく2種類に分かれています。さらに、取り扱うことができる設備も細かく分類されており、工事、整備、点検のできる消防用設備は免状に記載されている種類となります。設備ごとの分類は以下のようになっています。

取り扱う設備の分類
  • 甲種特類 ⇒ 特殊消防用設備等
  • 第1類 ⇒ 消火栓やスプリンクラーなどの水系消防設備
  • 第2類 ⇒ 泡消火設備
  • 第3類 ⇒ 二酸化炭素や窒素などのガスや、粉末を用いる消火設備
  • 第4類 ⇒ 火災報知設備
  • 第5類 ⇒ はしごなど、避難するときに使用する避難器具
  • 第6類 ⇒ 消火器(甲種がなく、乙種のみ)
  • 第7類 ⇒ 漏電火災警報器(甲種がなく、乙種のみ)

※甲種特類は、「甲種1類~甲種3類までのいずれか1つ」、甲種4類、甲種5類、合わせて3種類以上の資格を取得しなければ受験できません。

消防設備士を詳しくみてみると、上記のように細かく分類されています。そして、消防設備は身の回りの、あらゆる建物に設置されているものですので、それらの工事・点検・整備を行う消防設備士という資格は、非常に需要が高いと言えるでしょう。
特に、工場などの大きな施設はさまざまな設備が備わっていることから、消防設備も大規模なものになりがちです。そのため、大手企業の工場などでは消防設備士を常駐させ、さまざまな設備の運転管理や修繕をさせていることも多く、有資格者は優遇されることも期待できるでしょう。

危険物取扱者の詳細について

危険物取扱者は、その名称からも分かるように、法律で定められている危険物を取り扱う場合に必要になる資格です。危険物とは、私たちの普段の生活の中でも非常に馴染みのあるガソリンも含まれるのですが、『一定量以上』の危険物を貯蔵、または取り扱う場合には必ず危険物取扱者を配置しなければならないと定められているのです。代表的な施設で言えば、化学工場やガソリンスタンド、石油貯蔵タンク、タンクローリーなどです。

危険物取扱者の業務

危険物取扱者も消防設備士同様、行える業務によって分類されています。危険物取扱者の分類は、甲種・乙種・丙種の3種類となります。それぞれの違いを以下でご紹介しましょう。

  • 甲種危険物取扱者
    甲種危険物取扱者は、第1〜第6類まで、消防法で定められている全ての危険物が取り扱いの対象となります。3種類の中でも最も対応範囲が広く、実務経験が6カ月以上になると危険物保安監督者になることもできます。
  • 乙種危険物取扱者
    乙種危険物取扱者は、第1〜第6類までの危険物の中で、資格を取得できた指定の類の危険物が取り扱いの対象となります。乙種の免許取得後、2年以上の実務経験で甲種の受験資格が得られます。
  • 丙種危険物取扱者
    丙種危険物取扱者は、第4類の危険物の中でも、特定の危険物だけ(ガソリン、灯油、軽油、重油など)が取り扱い対象となります。甲種・乙種に比べると、取り扱える危険物の幅が狭いですが、第4類を取り扱う工場などでは有利です。
危険物取扱者の分類は上記のように定められています。危険物と聞くと、ドラッグや毒物をイメージする方が多いかもしれませんが、これは消防法で定められた以下のようなものを指しています。

危険物の分類
  • 第一類 酸化性固体
    他の物質を強く酸化させる性質があり、可燃性と混合したときに、『熱・衝撃・摩擦』により、きわめて激しい燃焼を起こさせる。
    (1) 塩素酸塩類、(2) 過塩素酸塩類、(3) 無機過酸化物、(4) 亜塩素酸塩類、(5) 臭素酸塩類、(6) 硝酸塩類、(7) よう素酸塩類、(8) 過マンガン酸塩類、(9) 重クロム酸塩類…など
  • 第2類 可燃性固体
    それ自体が燃えやすい、もしくは40度未満などの低温でも引火しやすい性質がある。
    (1) 硫化りん、(2) 赤りん、(3) 硫黄、(4) 鉄粉、(5) 金属粉、(6) マグネシウム…など
  • 第3類 自然発火性物質および禁水性物質
    空気、水に触れることで発火もしくは可燃性のガスを発生させる性質がある。
    (1) カリウム、(2) ナトリウム、(3) アルキルアルミニウム、(4) アルキルリチウム、(5) 黄りん…など
  • 第4類 引火性液体
    燃えやすい液体のこと。
    (1) 特殊引火物、(2) 第一石油類、(3) アルコール類、(4) 第二石油類、(5) 第三石油類、(6) 第四石油類、(7) 動植物油類…など
  • 第5類 自己反応性物質
    加熱分解などによって爆発の恐れがある固体や液体。通常、物が燃焼するには酸素が必要ですが、このカテゴリーの物質は分子内に酸素を含んでおり、空気に触れなくても燃焼が進む。
    (1) 有機過酸化物、(2) 硝酸エステル類、(3) ニトロ化合物、(4) ニトロソ化合物、(5) アゾ化合物、(6) ジアゾ化合物…など
  • 第6類 酸化性液体
    第一類と同様に、他の物質の燃焼を促進させる性質をもつ。刺激臭を有する物質が多い。
    (1) 過塩素酸、(2) 過酸化水素、(3) 硝酸…など
参考資料:消 防 法 令 抜 粋(消防法上の危険物の定義、試験方法など)

危険物取扱者は、取得する種類によって取り扱える危険物が大きく異なります。この資格は、ガソリンスタンドなどの身近な施設はもちろん、特殊な危険物を取り扱う工場などでは非常に重宝される資格になること間違いないでしょう。

まとめ

今回は、消防設備士と危険物取扱者の基礎知識についてご紹介しました。本稿でご紹介したように、消防設備士と危険物取扱者は、似たような資格に思えるかもしれませんが、実際は全く異なるものを取り扱うための資格となります。
消防設備士は、身近にある建物のいたるところに設置されている消防設備の点検、保全が主な業務内容で、危険物取扱者は法律で定められている危険物を取扱う際に必要な資格なのです。もちろん、どちらの資格も工場や倉庫などの大規模施設では必要とされることが多いので、就職先に多少の違いはあれど、資格を取得することは有利に働くと思います。
なお、消防設備士と危険物取扱者は国家資格になるのですが、他の国家資格に比べると合格率は高い傾向にあります。したがって、自社の従業員のキャリアアップのため、積極的に資格取得の支援を行っている企業もあるようです。