近年話題を集めている『フードバンク』とは何か?

皆さんは、『フードバンク』という言葉を耳にしたことがあるでしょうか?日本語に直訳すると「食料銀行」を意味する社会福祉活動のことなのですが、世界中で食品ロスが問題となっている昨今、その活動が注目を集めるようになっています。この『フードバンク』は、簡単に言うと、「まだ食べられる食品なのに、さまざまな理由で破棄されてしまう食品を集め、それを食べることに困っている人や施設に届ける活動」の事です。これだけを聞くと、「なんてすばらしい活動なんだろう!」と感動を覚える人もいるかもしれませんが、そもそも「また食べられる食品が何らかの理由で破棄される」という点はいただけません。

そこで今回は、近年その活動が注目されている『フードバンク』とは何なのか?ということや、どのような背景をもとにこの活動が始められたのかという点にスポットを当ててみたいと思います。

フードバンクとは何だ?

それではまず、「フードバンクとは何だ?」という基礎知識についてご紹介していきましょう。

フードバンクは、冒頭でご紹介したように、まだ安全に食べられるのに、包装の破損や過剰在庫、印字ミスなどを理由に、市場に流通させることができない食品を企業などから集め(寄贈してもらう)、食べ物を必要としている団体や施設、貧困世帯などに無償で提供する社会福祉活動のことです。このフードバンクは、1967年にアメリカでスタートし、現在では200団体を超えるフードバンクがアメリカでは活動していると言われています。また、フランスでも、1984年からスタートしており、現在では100団体近くのフードバンクが活動しています。他にも、イギリスやカナダ、オーストラリアなど、世界中さまざまな国でフードバンク活動が行われています。

アメリカで生まれたフードバンク。日本では?

アメリカではかなり昔からフードバンク活動が盛んに行われていました。それでは、日本国内のフードバンク事情はどうなっているのでしょうか?近年では大手メディアなどでも耳にする機会が増えてきましたが、日本でも2000年以降「食品ロスの問題」や「貧困問題」を背景に、フードバンクの設立が始まっています。しかし、食品ロス問題や貧困問題への認識がまだ浸透していないこともあり、上記の各国と比較すると、フードバンク活動が十分に認知されていないのが実情です。
フードバンクは、さまざまな社会問題の解決の糸口になるとも言われていますので、活動を浸透させるのが急務と言われています。

フードバンク誕生の背景は『食品ロス問題』や『貧困問題』?

フードバンク誕生の背景は、大きく分けて2つの問題があると言われています。1つ目は、このサイト内でも何度かご紹介している『食品ロス問題』です。食品ロスとは、まだ安全に食べられるのに、何らかの理由で捨てられてしまう食品のことで、世界中で作られる食品の約1/3は、食べられずに捨てられていると言われているのです。もう一つは、貧困問題です。最近テレビなどでも『貧困』に関する特集が増えているような気がしますが、近年では日本の相対的貧困率は、調査以来最悪の数字をたたき出していると言われているのです。
フードバンクは、この二つの社会問題を同時に解決することが可能な活動だと注目されています。ここでは、食品ロス問題についてもう少し深くご紹介しておきます。

相対的貧困率とは
国民全体の所得の「中央値」に対して、その半分に満たない所得の世帯人数の割合を示す数値。所得格差の大きさを表す数値と言われています。

毎日お茶碗1杯分のご飯が捨てられている!


引用:農林水産省資料より

一般の人からすれば、ほとんど意識することがありませんが、日本では年間約1,970万トンの食品廃棄物が排出されています。そして、その中には、まだ十分に食べられるにも関わらず廃棄されてしまう食品、いわゆる『食品ロス』が多く含まれているのです。上の図を見ていただければわかりますが、日本国内では、食品関連事業者からは約352万トン、一般家庭からは約291万トン、合計で年間約643万トンもの食品が、まだ安全に食べられるのにも関わらず捨てられているのです。
ちなみに、日本国内で廃棄される食品の量は、なんと国連が世界全体に食料援助としておくる一年間の量の約2倍に匹敵する量となっているのです。それでは、なぜこれほどの食品ロスが排出されるのでしょうか?これにはさまざまな原因があると言われていますが、日本の食品流通業界の商習慣もその一つと言われています。

食品流通業界の『3分の1ルール』

引用:農林水産省『食品ロスの削減とリサイクルの推進 ~食べものに、もったいないを、もういちど。P33』より

食品業界で働いている方であれば『3分の1ルール』という言葉を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか?これは、食品メーカーから卸売業者を通じて小売業者に納入されるまでの期間を、製造日から賞味期限までの『1/3』の期間までとするルールです。また販売期限は、製造日から賞味期限までの『2/3』の期間までとされ、その期限を過ぎてしまうと、賞味期限内の食品であっても店頭から撤去され、返品や廃棄処理とされるのです。諸外国でも、こういった納品期限などが設けられているのですが、日本はそれらと比較しても特に期限が短く、多くの食品ロスを排出する要因となっていると言われます。

また、日本では、こういった『3分の1ルール』だけでなく、消費者の「安全性を求める声」を過剰に意識してしまう傾向にあり、以下のような理由で大量の食品ロスを排出するケースがあるのです。

  • 包装破損
    食品の流通過程や販売段階などで、何らかの過失により包装が破損した場合、その商品は販売が難しいと判断され廃棄される。
  • 印字ミス
    印字に誤りがあったり、不明瞭な印字になっている、法的に必要な記載事項が不足しているなど、印字ミスにより店頭に出すことができなく廃棄される。
  • 過剰在庫
    季節性の高い商品(うなぎなど)や、需要の見誤りによって食品を過剰に仕入れてしまった…在庫として抱えても販売が困難と判断され廃棄される。
  • 規格外品
    生鮮食品などで、形が悪い、大きさが足りないなどを理由に規格外品として廃棄される。

上記のように、印字ミスや少し形が悪い…など、食べても何の問題もないような食品でも廃棄されるケースがあるのです。フードバンクは、こういった食品を集め、必要としている人に無償提供することで、食品ロスの削減にも大きく貢献することができるのです。

フードバンクにはさまざまなメリットがある!

それでは最後に、フードバンクにどのようなメリットがあるのか?について簡単に触れておきましょう。

ここまでの説明で分かるように、フードバンクは「寄付者と受益者を繋ぐ」という役割を持っています。簡単に言うと「余っている食品を必要な人に渡すための仲介人」というのがフードバンクの役割です。ここで言う寄付者には、一般人をはじめとして、食品製造会社、スーパーなどの小売業者、卸売り業者などとなり、受益者は、貧困にあえぐ個人や児童養護施設などの各種福祉施設などになります。
それではこの両者にとってのメリットはどのようなことになるのでしょうか?受益者に関しては、何より安価(無料)で、生きていくために必要な食品が手に入るという点で、時には普段では食べられないようなものが手に入るなど、食に対する体験が増えるということも大きなメリットになるでしょう。食品を提供する寄付者からしても、食品の廃棄にかかるコストを大幅に削減できることがまずあげられますし、その他にも、環境負荷の削減など、社会貢献活動の一環として見られ、企業イメージのアップにも繋がることでしょう。
さらに、フードバンクは、行政側にも大きなメリットがあると言われており、世界中で問題となっている食品ロス削減対策の一環になるのは当然として、行政サービスだけでは手の届かない場所へ食糧の提供が出来るなどもメリットと言えるでしょう。

まとめ

今回は、近年日本国内でも注目されるようになってきた『フードバンク』についてご紹介してきました。フードバンクは、「食料を必要とする人に無償提供する」といった単純なボランティア活動のように考えていた人も多いかと思いますが、地球環境を取り巻くさまざまな社会問題解決の糸口になる活動ともとらえられているのです。実際に、現在の日本では、まだ食べられるはずの食品が大量に捨てられているという事実があり、そういった食品が本当に食べ物を必要とする人の手に届くようになれば、貧困問題の解決に大きく役立つことになるでしょう。さらにそれだけでなく、「捨てられていたはずの食品」がきちんと誰かに食べてもらえるということは『食品ロス削減』にも大きなメリットがあるのです。
現在、日本国内には約70団体程度のフードバンクがあり、個人でも食品の寄付をすることが可能です。もちろん、受付してもらえる食品などの規定は、各団体によって異なりますので、今回の記事でフードバンクに興味を持っていただけた方は各団体の公式サイトを確認してみてください。

公益財団法人 日本フードバンク連盟の公式サイトはコチラ