今回は、工場や倉庫の自動化のため、産業用ロボットを導入するときの流れについてご紹介します。製造現場や物流の拠点となる工場や倉庫へのロボット導入は、人手不足の解消や生産性の向上、人為的ミスの削減など山ほどメリットがあると言われています。そのため、近年では、大手企業だけに関わらず、中小企業の工場や倉庫でも業務に合わせた産業用ロボットの導入を検討している事業者が増加しています。
しかし、実際にロボットシステムを導入する場合には、大きなコストがかかってしまい、導入までのポイントをきちんと理解しておかなければ「多額の費用を払ってロボットを導入したのに、全く役に立たなかった…」となってしまう恐れもあります。実際に、せっかく導入したロボットをうまく活用できず、施設の隅でホコリをかぶっているロボットも少なくないと耳にします。それでは、自社の工場や倉庫へロボットシステムの導入を考えた場合、どういったステップを踏めばよいのでしょうか?
今回は、「産業用ロボットの導入に興味はあるけど、何から始めればよいか分からない…」という方のために、ロボット導入を検討するときにチェックしておくべきポイントを段階ごとにご紹介します。
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POINT1 『ロボット導入の目的』を明確にしよう
工場や倉庫に産業用ロボットの導入を考えた場合、そもそも「ロボットを導入する目的は何なのか?」ということを明確にしなければいけません。目的が違えば、必要になるロボットシステムの内容も違ってきます。
- 工場や倉庫において、人手不足を解消したい。
- 人為的ミスを削減し、製品品質の安定を目指したい。
- 生産効率を上げて、生産量を増やしたい。
- 過酷な作業、危険な作業を人ではなくロボットに任せたい。
産業用ロボットの導入を考えたとき、目的も決まらないまま「ロボットで何ができるのか?」ということをロボット商社やシステムインテグレーター(SIer)に問い合わせるという行動をとる方もいますが、これはあまりオススメとは言えません。例えば、家電量販店などで考えた際に、「何か良い家電はありませんか?」と聞いたとして、いくら家電の知識があるプロの販売員でも、顧客の要望がわからないのでは良い提案はできませんよね。こういった場合、「大容量の冷蔵庫が欲しい」「高画質でスポーツ観戦をしたい」など明確な目的を伝え、ニーズに合った商品を提案してもらうはずです。
これは、産業用ロボットの導入時にも同じことが言えるのです。特に産業用ロボットは、凡庸性が高く、幅広い用途に使えるものが多いため、「●●の目的を果たすため、この工程にロボットを導入したい!」との明確なイメージが必要です。ロボットで解決したい自社の課題が明確であればあるほど、ロボット商社やSIerからの提案もより具体的になり、自社のニーズに合致したものを提示してもらえるようになります。
したがって、産業用ロボットの導入を計画するのであれば、まずは「ロボットでどのような課題を解決したいのか?」ということを考える必要があります。もちろん、社内で考えてみたものの「明確な課題が思い浮かばない…」なんてこともあるかと思います。そういった場合、まずは産業用ロボットに関する情報収集から始めてみましょう。
POINT2 情報収集にはロボットの展示会を活用しましょう
近年では、さまざまな業界においてロボットの導入が進んでいますので、全国各地で産業用ロボットの展示会なども盛んに行われています。したがって「産業用ロボット導入に興味はあるけれど、そもそもどういったロボットがあるか分からない…」という人は、近くで開催されるロボット専門の展示会に足を運んでみるのはいかがでしょうか。
こういった場所では、ロボットが展示されているだけでなく、各メーカーが工夫を凝らしたロボットの使い方も提案しているため、自社の課題発見や解決のためのヒントになると思います。こういった展示会は、各業界で実際に運用されているロボットシステムが展示さていることも多いため、業界の最新情報の収集やロボット導入のための方向性を決めるためにも非常に有効な場所になると思います。
全国で開催されるロボットの展示会は、一般社団法人日本ロボット工業会のサイトで紹介されていますので、一度チェックしておきましょう。
POINT3 自社に合うシステムを考える
上記二つのポイントをおさえたら、いよいよ自社に適したロボットシステムの検討に入ります。とはいっても、そこまで難しく考える必要はないでしょう。具体的なロボットシステムの仕様は、専門家であるSIerなどと一緒に詰めれば良いので、導入企業側は必要なロボットシステムをざっくりとイメージする程度で構いません。
ポイント1・2で、ロボットを導入する目的などは明確になっていると思いますので、後は、どの工程にロボットを導入するのか?対象となる仕事はどういったものか?ロボットの設置場所は?求める生産性の水準は?などをより明確にしておけば良いでしょう。
ただし、ロボット導入時に注意が必要なのは、人の作業をそのままロボットに置き換えることが難しいケースもあるということです。産業用ロボットは、凡庸性があり非常に便利なものですが、万能という訳ではありません。したがって、施設内の作業内容によって、人に向く作業もあればロボットに向く作業もあるということを理解し、ロボットが作業しやすいように作業内容の切り分けが必要になります。
近年では、工場や倉庫の作業を全てロボットに任せ、完全に自動化することを目指す施設も増加していますが、その場合、ロボットシステムの導入に莫大な費用がかかってしまうことになります。上述したように、ロボットでも自動化が難しい作業がありますので、そういった作業は人の手で行うなど、ロボットと人の作業をうまく切り分けることがとても重要になります。
こういったシステムの詳細は、SIerが提案してくれるものですが、SIerからの提案が正しいのか判断するためには、ロボットに関する知識も必要になり、ポイント2で紹介した情報収集が重要になるのです。
POINT4 ロボット導入後の運用面のことも考えておく
ポイント1~3ができれば、いよいよロボットの導入フェーズとなります。ロボット商社やSIerによっては、コンサルティングに力を入れ、上記に紹介したようなポイントを全て丸投げできるような会社もあると思いますが、それでも最低限提案された内容を評価できるための知識は持っておかなければいけません。なお、ロボットシステムの導入にはロボットメーカーやロボット商社、SIerなど数多くの企業がありますので、初めてのロボット導入でも依頼先に困ることは特にないと思います。例えば、使いたいロボットにある程度目星がついているのであれば、メーカーに連絡すると、販売代理店や協力関係にあるSIerを紹介してもらえます。
しかし、ロボットの導入は、「導入したら終了!」という訳ではなく、その後の運用のことも考えておかなければいけません。ロボットは、適切に扱える人材がいて初めて効果的な運用ができるものなのです。したがって、ロボット導入が決定したら、日常的な点検や操作、ロボットの動作をプログラミングする「ティーチング」など行う運用メンバーを、なるべく早く選定するようにしましょう。そして運用メンバーは、メーカーやSIerの協力を得ながら、ロボットにまつわる知識や操作方法について学ぶ必要があります。
また、事業者側は、ロボットを扱う従業員に対して、労働安全衛生法に基づく安全教育や特別教育を受けさせることが義務付けられています。
まとめ
今回は、工場や倉庫などにおいて、産業用ロボットの導入を考えた場合、計画をスムーズに進めるために導入までの流れで注意しておきたいポイントをご紹介してきました。
近年では、さまざまな場所にロボットの導入が進んでいますが、実際にロボットの導入を考えた場合には、長い準備期間が必要で、初めてロボットを導入する場合には「何から始めれば良いのか分からない…」と不安に感じたり戸惑ったりすることも少なくないでしょう。したがってまずは、「ロボットの導入によって何を解決したいのか?」という目的から考えるのが良いと思います。自社の課題や目的を明確にしておけば、SIerなども的確な提案をしやすくなるので、ロボット導入後に「全く使えなくて無駄な経費になった…」ということも防げます。
ちなみに、ロボット導入には公的な補助金制度などもありますので、金銭的な負担を軽減するため、そういった制度のこともぜひ調べたうえで計画を進めましょう。