アスベストは、人体に悪影響を与える物質であると、テレビなどでも盛んに報じられたこともあり、皆さまもその危険性はご存知かと思います。
しかし、数十年前までの建築現場では、アスベストが欠かせない建材として日常的に使用されており、外壁や屋根材などにも含有されているのが一般的なことでした。したがって、築年数が数十年を経過している工場や倉庫では、現在でも現役でアスベスト含有の建材が利用されていることも多く、そういった建物からのアスベスト飛散が社会問題ともなっています。
もちろん、外壁や屋根材などに含まれるアスベストは、建材に定着している状態であれば、飛散する危険性は少ないのですが、古い工場や倉庫であれば、建物の老朽化もあり、対応を急がなければならない場合もあります。しかし、アスベストが利用されている建物は、解体工事の際にアスベストが飛散してしまう可能性もありますし、さらにアスベストを適正に廃棄する場合には多額な費用がかかってしまうため、企業に負担の大きな工事になってしまいます。
そこで今回は、アスベストが含有されているかもしれない古い工場や倉庫の所有者が、最低限おさえておくべきアスベストの基礎知識をご紹介します。
Contents
アスベストの危険性について
引用:厚生労働省資料より
それではまず、アスベストがどのような物質なのかについて簡単にご紹介しておきましょう。アスベストとは、「石綿(せきめん)」とも呼ばれ、細長い形状をした天然鉱物繊維です。このアスベストは、もともと安価で万能な建築工業材料として非常に重宝され、20世紀までは日本だけではなく、世界中いろいろな建物で使用されていました。特に、耐火材や断熱材、絶縁体として非常に効果的な物質のため、屋根や天井、壁にまで多く使用されています。
しかし、このアスベストは、繊維が非常に細いため、周囲に飛散していたとしても、人が目視で確認することは難しく、気付かずに吸い込むことにより人体にさまざまな悪影響を及ぼすことが近年わかってきました。アスベストによる人体への悪影響は、以下のようのものがあげられます。
アスベストによる人体への影響
建材に含まれているアスベストは、老朽化などが原因となり周囲に飛散してしまうことがあります。そして、そのアスベストの粉塵は、非常に細かく目視できないため、人が吸い込むことによりいつの間にか体内に蓄積され、人体に悪影響を及ぼすのです。
人が吸い込んでしまったアスベストは、肺に蓄積され、さらに一度体内に入ったアスベストは除去されることなく、蓄積されたままとなります。また、アスベストによる影響は、潜伏期間が非常に長く、その間は無症状のため、アスベストを吸い込んだことすら気づくことができないという人がほとんどです。
アスベストによる人体への影響は、咳や呼吸困難に始まり、以下のような人命に関わる症状が出る場合もあります。
- 石綿肺(肺が繊維化する病気の一種)
- 肺がん
- 悪性中皮腫(胸膜・腹膜・心膜にできる悪性の腫瘍)
上記のように、近年アスベストが非常に危険な物とわかり、現在ではアスベストが含まれる建材の製造は禁止されています。さらに、アスベスト含有の製品が使用された建物に関して、それらの解体・改修を行う場合には、さまざまな規制に基づいて、各種届け出をすることが必要になっています。
アスベスト含有の可能性がある建築物について
アスベストの危険性がわかったところで、気になるのは「自社の工場(倉庫)にアスベストは使われているのか?」ということでしょう。それでは、建物のアスベスト含有の可能性は、どのように確認すれば良いのでしょうか?
自社の工場や倉庫に、「アスベストが利用されているのか?」を判断する材料として、まず確認したいのが築年数です。アスベストは上述のように、昔は広く利用されていた建材ですが、徐々に規制が強まってきたのです。
- 1975年 ⇒ アスベストの含有量が5%を超えるものの吹き付け作業の禁止
- 1995年 ⇒ 含有量が1%を超えるものの吹き付け作業の禁止
- 2004年 ⇒ 含有量が全体の重量の1%を満たさないクリソタイル(白石綿)以外の製造、輸入、提供、譲渡、使用の禁止
- 2006年 ⇒ アスベストの含有量が重量の0.1%を超えるものの製造、輸入、提供、譲渡、使用が禁止
上記のように、徐々に規制が強化され、建材にアスベストが使用されることはなくなっていったのです。つまり、築年数が古い建物であればあるほど、アスベストが使用されている可能性は高くなるということです。
アスベストが利用されている可能性が高い箇所について
次は、建物の中で、「どのような場所にアスベストが利用されているか?」についてです。アスベストは、建材として非常に優秀な特徴を持っていますが、建物の全てにまんべんなく利用されているわけではありません。以下で、一般的にアスベストが利用されている可能性が高い箇所をご紹介します。
- 屋根
古い工場や倉庫の屋根は、波形ストレートと呼ばれる屋根材が良く利用されています。この屋根材には、セメントに混ぜる形でアスベストが含まれている可能性があります。 - 外壁
古いサイディング材(外装材を貼るタイプの外壁)や波板には、屋根材同様アスベストが含まれている可能性があります。 - 内装材
ケイ酸カルシウム板やパーライト板などにもアスベストが含まれていることがあります。 - 断熱材
配管やダクトに巻かれる断熱材には、保温性に優れるアスベストが使用されていることが多いです。 - 吹付け材
耐火材として利用された吹き付け材も、アスベストの特性上、利用されていることが多いです。
アスベストは、1970年~90年の間は、非常に優秀な建材としてさまざまな箇所に利用されています。ご自身が所有する建物で、アスベストが利用されているかどうかを確認する場合には、まずは竣工年数などを参考にしましょう。そのうえで、図面などで使用されている建材の商品名を確認すると良いでしょう。国土交通省・経済産業省や日本石綿協会などでは、アスベスト含有建材の商品名が公表されていますので、それらと照らし合わせることで、アスベストの利用が確認できると思います。
アスベストの対処法について
それでは最後に、アスベストが利用されているとわかった場合、どのような対処法があるのかをご紹介しておきましょう。「どうせ老朽化しているし…」などと考え、建て替えを行うのが最も安心かもしれませんが、その場合、多額のコストがかかってしまいます。アスベストの対処は、建て替え以外にもいくつかの工法があるため、アスベストが利用されている箇所や改修工事にかかるコストをよく考えて、以下のような対処を行いましょう。
- アスベストの除去工法
専用の薬剤や道具を利用してアスベストを除去する対処法です。建物の解体前にも行われます。除去工法の場合には、作業中にアスベストが飛散してしまい、近隣に悪影響が及ばないよう、建物をシートで養生するなど、細心の注意を払う必要があります。 - アスベストの封じ込め工法
吹き付けられているアスベストはそのままに、上から薬剤を塗っていく対処法です。アスベストは、「飛散し、人が吸い込む」ことで人体に影響を及ぼすものですので、固化してアスベストの飛散を防ぐという考えです。 - アスベストの囲い込み工法
既存屋根の上に新たな屋根材を施工するカバー工法のように、露出しているアスベストを他の建材で塞ぎ、飛散防止を行う工法です。
アスベストによる被害を出さないための対処法は、上記のような方法があります。この中でも、封じ込め工法や囲い込み工法であれば、工期も短く比較的低コストでアスベストへの対処が可能です。
まとめ
今回は、古い工場や倉庫の所有者がぜひ知っておきたいアスベストの基礎知識についてご紹介しました。
本稿でもご紹介したように、築年数が古い建物であれば、アスベストが利用されている可能性が高く、さらに適正にアスベストが処理されていない場合、そこで働く従業員だけでなく、近隣住民にも深刻な影響を与えてしまう可能性があるのです。したがって、少しでもアスベストの含有が考えられる建物であれば、一度きちんと検査するなど、早めに適切な対処を行うことが必要だと思います。