今年も冬の終わりに近づき、天候も良く過ごしやすい気温の日が増えてきました。一般的に、花粉症を除けば1年の中で最も過ごしやすいと言える気候で、この時期は気分も前向きになれるという方が多いのではないでしょうか?
しかし、食品を取り扱う事業者からすると、気温の上昇とともに、O157をはじめとする食中毒の発生件数も増加すると考えられるため、春から夏にかけては特に厳しい衛生管理が必要になります。もちろん、食品を扱う飲食店や食品工場で食中毒が発生すれば、大変なことになってしまいます。したがって、そういったことを防ぐために大切な役割を担っているのが食品衛生責任者や管理者です。
食品衛生責任者と食品衛生管理者は、名称が非常に似ているため、混同されている方が非常に多く、それぞれの違いが分からないという方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、この2つの資格の違いとそれぞれの仕事内容についてご紹介します。
食品衛生責任者と食品衛生管理者について
日本では、食の安全を守るため『食品衛生法』が制定されています。この法律は、食品に使用しても良い添加物や包装容器、成分表の提示方法などが定められており、食品衛生責任者と食品衛生管理者の選任に関してもこの法律で定められています。街中にたくさんある飲食店や食品の製造・加工を行う食品工場は、この法律に沿って営業や操業を行わなくてはならず、違反した場合にはさまざまな罰則が適用されてしまいます。
しかし、いくら『食品衛生法』が制定されているとはいえ、その内容を工場や店舗の従業員個人が、全てを理解して守るというのはなかなか難しいものです。したがって、法律に沿った営業が行えるよう、食品衛生の責任者を選任することが定められているのです。
ここでは、食品衛生責任者と食品衛生管理者がどのような役割を持っているのかをご紹介します。
食品衛生責任者の役割
食品衛生責任者は、食品衛生責任者養成講習を受講した人で、かつ食品衛生責任者に選任された人のことです。この食品衛生責任者は、食品衛生法によって、食品衛生管理者を置く必要がない施設であっても、飲食店、食品の販売店、食品製造施設など、食品に携わる業務を行っている場合、施設一つにつき必ず一人選任する必要があると決められています。近年では、チェーン展開している飲食店なども多いですが、その場合でも、複数店舗を1人の責任者が兼任することはできず、お店ごとに選任する必要があります。
食品衛生責任者の主な役割は、施設の食品衛生上の管理・運営と法令の遵守となります。因みに、コンビニやスーパーなど、さまざまな商品を取り扱っている施設でも、食品の製造販売を行っている場所では選任が必要です。
食品衛生管理者の役割
食品衛生管理者は、食品衛生責任者と名前が非常に似ているため混同されがちですが、こちらは食品、又は添加物を製造・加工する施設で、製造や加工の過程で特に衛生上の考慮を必要とする食品を製造する工場にて配置が義務付けられているものです。食品衛生責任者は、上述の通り、講習を受ければ誰でもできるものとなるのですが、食品衛生管理者は国家資格を取得する必要があります。
厚生労働省のホームページで公表されている『食品衛生管理者の資格要件』をご紹介しておきましょう。
(1)医師、歯科医師、薬剤師、獣医師
(2)学校教育法に基づく大学、旧大学令に基づく大学又は旧専門学校令に基づく専門学校において医学、歯学、薬学、獣医学、畜産学、水産学、農芸化学の課程を修めて卒業した者(関連通知)
(3)都道府県知事の登録を受けた食品衛生管理者の養成施設において所定の課程を修了した者
(4)学校教育法に基づく高等学校若しくは中等教育学校若しくは旧中等学校令に基づく中等学校を卒業した者又は厚生労働省令の定めるところによりこれらの者と同等以上の学力があると認められる者で、食品衛生管理者を置かなければならない製造業又は加工業において食品又は添加物の製造又は加工の衛生管理の業務に3年以上従事し、かつ、都道府県知事の登録を受けた講習会の課程を修了した者
引用:厚生労働省 食品衛生管理者ページ
上記のように、食品衛生管理者の資格要件は非常に高いものです。また、食品衛生管理者に選任された人は、製造・加工において、衛生上の考慮を必要とする食材や添加物に関する衛生管理が主な仕事となります。
なお、食品衛生管理者の選任が必要な食品は、食品衛生法施行令第13条で定められている食品で、以下のものが対象となります。
- 全粉乳(その容量が1,400グラム以下である缶に収められるものに限る)
- 加糖粉乳
- 調整粉乳
- 食肉加工食品(ハムやベーコン)
- 魚肉ハム、魚肉ソーセージ
- マーガリンやショートニング
- 放射線照射食品
- 食用油脂(脱色又は脱臭の過程を経て製造されるものに限る)
- 添加物(食品衛生法第11条第1項の規定により規格が定められたものに限る)
一方、食品衛生責任者は、食に関わる施設であれば、ほとんどの場所で選任する必要があるものだと覚えておきましょう。食品衛生管理者がいれば食品衛生責任者を置く必要はありません。
食品衛生責任者と食品衛生管理者の職務について
それでは最後に、食品衛生責任者と食品衛生管理者の主な職務について簡単にご紹介しておきます。
- 食中毒の防止
食品衛生責任者と食品衛生管理者の最も重要な職務は『食中毒の防止』です。特に、一度に大量の食品を製造する食品工場で食中毒が発生した場合、被害は全国に及び、多数の犠牲者が出てしまうことなります。したがって、これを防止するための施設の衛生管理や従業員の教育が大きな役割となります。
なお、食中毒が発生した場合、保健所に連絡するのも大切な職務の一つとなります。 - 食品衛生法の遵守
食に携わる仕事をしているからと言って、従業員の全てが法律の細かな部分まで知っているわけではありません。したがって、食品衛生法の知識を持っている管理者や責任者が、法に沿った仕事をさせるため、従業員の教育や職場の管理を行うのです。
近年では、SNSの発展もあり、お店で何らかの問題があった場合、一瞬にして多くの人に情報が拡散されてしまう時代です。そのため、従業員が遊びで行った小さなことが、お店を廃業にまで追い込む事件に発展することも珍しくありません。これからも分かるように、食品衛生責任者や食品衛生管理者は、非常に重要な役割を持っているのだと理解しましょう。
まとめ
今回は、食品衛生責任者と食品衛生管理者の役割についてご紹介してきました。この2つは、非常に似通った名前をしているため、それぞれの違いや、どちらがどのような場所で必要になるのかなど、分からなくなっている方も少なくないのではないでしょうか。わかりやすい覚え方としては、食品衛生管理者は特定の製造・加工工場で必要、食品衛生責任者はそれ以外の飲食店などと理解しておくといいかもですね。
どちらにせよ、この2つの役職は、食中毒の防止や食品衛生法を従業員に遵守させることが役割となり、施設の食の安全を守るためにはとても重要な責務を担っているものです。