「改正高年齢者雇用安定法」が施行されたけど、企業は何を変えなければならない?

2020年3月に改正法が可決・成立した「高年齢者雇用安定法」ですが、2021年4月からいよいよ施行されました。今回の法改正では、”70歳までの就労機会の確保を企業の努力義務とする”ということが中心になっていますが、これまでの「65歳までの雇用確保」とは具体的に何が変わったのでしょうか?

今回は、少子高齢化が進む中、さまざまな業界で人手不足が深刻化している日本で、今後の企業の存続にも重要な影響を与えると考えられる改正高年齢者雇用安定法の内容について解説します。

そもそも「高年齢者雇用安定法」が制定された背景とは?

それではまず、「高年齢者雇用安定法」が必要とされた背景部分から簡単にご紹介しましょう。この法律は、その名称からイメージできるように、高年齢者の「安定した雇用」を確保することが目的となっています。もともとは、1971年に制定された「中高年齢者等の雇用の促進に関する特別措置法」が始まりで、以後、何度か改称や改正を重ねられて今日に至っており、最新の改正が2020年3月に行われたものです。ちなみに、このひとつ前の改正は2012年(施行は2013年)に行われたもので、以下の2つが主眼となっていました。

2012年に行われた高年齢者雇用安定法の改正ポイント
  • 定年を60歳未満にすることを禁止
  • 65歳までの雇用確保措置として、以下の3つの内いずれかを事業主に義務付ける
    1.定年を65歳に引き上げる
    2.65歳までの継続雇用制度を導入する
    3.定年制度の廃止

少子化が進み、高齢者が増えている日本では、労働人口の減少が深刻な社会問題となっています。政府の資料によると、2019年の日本の総人口1億2,617万人のうち、65歳以上の人口は3,589万人になっており、なんと総人口の約3割を占めるようになっているのです。「高年齢者雇用安定法」には、人手不足に悩む日本社会で、高齢者を長期雇用することで労働力を確保しようという狙いがあると考えられます。

また、年々進む少子高齢化により、公的年金制度が危機的な状況に陥っていると言われています。最近では、テレビのニュースなどでも盛んに特集されており、皆さんも耳にしたことがあると思うのですが、かつて現役世代10人で65歳以上の高齢者一人を支えていたものが、2015年には現役世代2.3人で高齢者一人を支える…と言った状況になっています。さらに、2065年には高齢者一人に対して現役世代が1.3人という比率になると予想されており、現役世代の負担が大きすぎる…という状況になっています。

こういった状況から、現役世代の負担軽減と財源確保を目的に、公的年金の受給開始年齢の段階的引き上げが行われたのは皆さんもご存知だと思います。しかし、これまでは60歳の定年と同時に年金の受給が開始されていたのに、「定年は60歳だけど、年金の受給は65歳から」となると、5年間もの空白期間ができてしまいます。そのため、こういった空白期間を生じさせないためにも、定年の引き上げや65歳までの継続雇用制度を高年齢者雇用安定法に盛り込み、年金をもらえるようになる65歳までは働くという社会を作ろうとしたわけです。

そもそも、健康年齢が伸びている昨今では、労働意欲を持っている高齢者は多いと言われており、2019年に行われた内閣府の調査では、60歳以上で働いている人の中で、「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答した方は36.7%もいるというデータがあります。さらに、「70歳くらいまで」が23.4%、「75歳くらいまで」が19.3%というデータも出ており、なんと9割近い(87%)人が70歳以上まで働きたいと回答しています。企業としても、高齢者が持っている経験や卓越した技術などは、失いたくないリソースだと言えますので、「働き続けたい!」という高齢者と「働き続けてほしい」という社会をつなぐための重要な法律といえるでしょう。

参考データ:令和2年版高齢社会白書

2021年4月から具体的に何が変わるの?

それでは、2021年4月から施行された「改正高年齢者雇用安定法」の具体的な変更点をご紹介しておきましょう。上述したように、2012年の改正では「65歳」がキーワードだったのですが、これが「70歳」に引き上げられるというのがポイントです。以下で具体的な変更点についてまとめておきましょう。

対象となる事業主
  • 定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主
  • 65歳までの継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く。)を導入している事業主
対象となる措置
以下のいずれかの措置を講ずる努力義務が新設されました。
  1. 70歳までの定年引き上げ
  2. 定年制の廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む)
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    a.事業主が自ら実施する社会貢献事業
    b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

今回の法改正では、上記のような措置を講じるように努めることが必要とされています。
なお、「定年の70歳への引上げ」などを義務付けるものではなく、あくまでも努力義務となっています。「改正高年齢者雇用安定法」の概要については、厚生労働省の資料で詳しく解説されていますので、まだ確認していない方は、ぜひ以下の資料を確認してください。

資料:高年齢者雇用安定法改正の概要(詳細版)

まとめ

今回は、2021年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」について、どこが変更されたのかについてご紹介しました。従来は「65歳まで」というのがキーワードだったものが、今回の法改正によって「70歳まで」となったのが大きな特徴だと言えるでしょう。

今回の法改正についてはあくまでも『努力義務』となっていますので、今すぐに何らかの対策を行わなければ罰則を受けるということではありません。しかし、少子高齢化や労働人口の減少は絶対的な事実ですので、企業が安定して事業を進めていくことを考えると、「高年齢者の雇用安定」は避けて通ることができない大命題になってくると考えられます。さらに、今回の改正では”努力義務”だったものが、いずれ義務になるということは十分に考えられることですので、「そのうち対応すれば良いか」と考えるのではなく、いち早く準備を進めていくと良いのではないでしょうか。

なお、改正高年齢者雇用安定法への対応に関する『よくある質問』が厚生労働省の公式サイト内で紹介されていますので、ぜひそちらも確認してみましょう。

参考:高年齢者雇用安定法Q&A

働き方改革高年齢者雇用安定法