今回は、産業用ロボットの導入を検討している工場や倉庫の担当者が、知っておくべき法律や規則について簡単にご紹介していきます。製造業界や物流業界では、従業員の高齢化や人手不足の深刻化など、さまざまな課題を抱えており、その課題解決のために注目されているのが産業用ロボットです。産業用ロボットは、これまで人間が行っていた作業をロボットに行わせることができるようになるため、現場の省人化や省力化を考えた場合、大きなメリットが存在します。さらに、ロボットによる作業は、どれほど過酷な作業現場でも作業効率を落とすことがありませんし、機械的な作業となるため、人為的ミスの心配もなく生産性の向上まで期待できるため、今後も普及が進んでいくと考えられます。
しかし、工場や倉庫などに産業用ロボットの導入が進んできた現在では、年々ロボットに関わる事故件数が増加していると言われています。産業用ロボットは、上手に活用することで現場の省人化や生産性向上に役立つものであることは間違いないのですが、作業員の産業用ロボットに対する知識不足などもあり、現場責任者のリスクアセスメントが課題となっているのです。
そこでこの記事では、産業用ロボットの導入や使用に際して、現場で働く従業員の安全を守りつつ高い生産性を発揮するためにおさえておかなければならない産業用ロボットにまつわる法律や規則についてご紹介します。
まずは「労働安全衛生法」について
工場や倉庫などに関わらず、全ての労働者の安全を守るための基本となる法律は「労働安全衛生法」です。この法律には、産業用ロボットの使用方法について定めた条文はないのですが、従業員の安全を考えた場合、最も基本となる法律となりますので、事業者・労働者ともに理解しておかなければいけないでしょう。
労働安全衛生法は、働くすべての人が遵守しなければならない法律で、記載事項を守らなければ罰則も設けられています。労働安全衛生法で定められていることは、大きく以下の3つの管理となりますので、ぜひ覚えておきましょう。
- 作業環境管理
作業環境中の有害因子の状態を把握して、できる限り良好な状態で管理していくこと - 作業管理
作業時間・作業量・作業方法・作業姿勢などを適正化したり、保護具を着用して作業者への負荷を少なくすること - 健康管理
作業者の健康状態を健康診断で把握して、その結果に基づいて適切な措置や保健指導などを実施し、作業者の健康障害を未然に防ぐこと
ロボット利用時の安全基準「労働安全衛生規則」
「労働安全衛生規則」は、労働安全衛生法で定められた措置をより詳細な事項に落とし込んだものとなります。産業用ロボットについては、「第二編 第一章 第九節」で以下の4つに分けて記載されています。
- 第百五十条の三 ⇒ 教示等
- 第百五十条の四 ⇒ 運転中の危険の防止
- 第百五十条の五 ⇒ 検査等
- 第百五十一条 ⇒ 点検
労働安全衛生規則では、産業用ロボットの導入による事故リスクを減らすため、上記のようなことが定められているのです。例えば、産業用ロボットの中には、出力が大きなロボットも存在しており、万一このようなロボットと人間が接触してしまった場合には、作業員の死亡事故に発展してしまう可能性があるのです。したがって、「労働安全衛生規則 第百五十条の四」で以下のように定められています。
(運転中の危険の防止)
第百五十条の四 事業者は、産業用ロボツトを運転する場合(教示等のために産業用ロボツトを運転する場合及び産業用ロボツトの運転中に次条に規定する作業を行わなければならない場合において産業用ロボツトを運転するときを除く。)において、当該産業用ロボツトに接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのあるときは、さく又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない。
引用:中央労働災害防止センター「労働安全衛生規則 第二編」
このように、産業用ロボットによっては、柵や囲い、センサーを設けるなど、労働者の事故リスクを減らして、安全運転するためのルールを策定しなければいけません。
80W規制の緩和
産業用ロボットの技術進化や製造業へのロボット導入促進を背景として、平成25年の12月24日、第百五十条の四が一部改正されました。この規則改定によって、一定の条件を満たして安全性が保たれているロボットに限り、作業員と安全柵などで分ける必要がなくなったのです。ちなみに安全性の証明に際して重要視されるのは以下のようなポイントになります。
- 産業用ロボットのマニプレータ等の力及び運動エネルギー
- 産業用ロボットのマニプレータ等と周辺構造物に拘束される可能性
- マニプレータ等の形状や作業の状況(突起のあるマニプレータ等が眼などに激突するおそれが ある場合、マニプレータ等の一部が鋭利である場合、関節のある産業用ロボットのマニプレータ 間にはさまれる可能性がある場合など)
産業用ロボットの事故は誰が責任を取る?
それでは最後に、産業用ロボットの導入後、万一事故が発生してしまった場合の責任の所在についてご紹介しておきましょう。上述したように、産業用ロボットを運用する場合には、労働安全衛生法や労働安全衛生規則などによりさまざまなルールが設けられています。しかし、それらを遵守していたとしても、現場での事故リスクを完全になくすことはできません。例えば、ロボットを取り扱う作業員によるミスや、何の不備が無くても偶発的に発生してしまう事故は考えられるでしょう。
それでは、こうした事故が発生してしまった際には、誰が責任を負わなければいけないのでしょうか?
答えから言ってしまうと「法律やルールを守っていない人」となるでしょう。例えば、工場などで産業用ロボットを使用する場合、事業者はロボット作業に携わる従業員全員に特別教育を施す必要があります。しかし、この教育を怠っていて、教育を受けていない作業員が事故を起こしてしまった時には、事業主が責任を負うことになります。一方で、事業者側は作業員全員に教育を行い、適切なルールを定めているのにかかわらず、作業員がそのルールを無視して事故を起こしてしまった…という場合には、作業員自身が責任を問われることになるでしょう。
まとめ
今回は、産業用ロボットの導入を検討している方に最低限知っておいていただきたい法律知識をご紹介してきました。近年では、生産性向上や労働環境の改善を目的に、産業用ロボットの導入を進める工場や倉庫が非常に多くなっています。しかし、産業用ロボットに関する法律や規則について何も調べずに理解不足のまま導入したのでは、思わぬ事故で大きな問題に発展してしまう危険性があるのです。
産業用ロボットを上手に活用すれば、現場の省人化や省力化だけでなく、生産性向上などの大きなメリットも得られるのは間違いないと思います。そのためには、まずロボット導入の前段階となる法律や規則の理解からスタートしてみるのが大切だと思います。