工場などの製造業においては、不注意やちょっとした人為的ミスなどにより不良品を検出できないまま製品が市場に流れてしまうと、企業の信頼やブランドが失われてしまうことになります。さらに、製品の種類によっては、人命にかかわるような事態を引き起こしてしまう可能性がありますので、どの企業でも「不良品が発生する可能性を限りなく少なくする」ための対策が行われています。
そして、こういった不良品を防止するための仕組みが『ポカヨケ』と呼ばれているのですが、具体的にどのような対策が行われているのかを、イメージできないという方も多いと思います。そこでこの記事では、製造業における『ポカヨケ』の基礎知識をご紹介していきたいと思います。
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ポカヨケとは?
それではまず、一般の方はあまり聞き馴染みのない『ポカヨケ』という言葉について、これが何を意味しているのかを簡単にご紹介しておきましょう。ポカヨケは、工場などの製造ラインにおいて、作業工程内に発生する作業ミスを物理的に防止する仕組みや装置の事を指しています。『ポカヨケ』という言葉は、作業員の「ミス(ポカ)」を「回避する(よける)」という意味で使われています。具体的には、規格外品や異品がある場合、その製品は次工程へ流さない、もしくはアラートで知らせる、位置ずれなどが生じている場合はスイッチを押しても機械が起動しない…などのような仕組みがポカヨケに当たります。
製造業における主な『ポカ』要因は、伝票や作業指示書の見間違い、異物の混入、部品の組み忘れや検査漏れ、落下による破損など、ヒューマンエラーによって生じてしまうものです。これらのヒューマンエラーは、どれだけ作業をマニュアル化し、従業員の教育を充実させたとしても、100%回避することは不可能だと言えます。したがって、作業を構成する人以外の要素に対して、ヒューマンエラーを削減できる仕組みを作るのがポカヨケになります。
ちなみに、ポカヨケは、人以外の要素に対する仕組みですので、導入前後で作業員の負担は変わることなく品質の向上がはかれるという特徴があります。ポカヨケがない場合であれば、ライン内の製品を全数検査をしなければならないですし、人的コストや時間の無駄が生じてしまいます。ポカヨケの仕組みがあれば、こういった無駄を削減し、品質向上効果を持続的に得ることができます。
工程別のポカヨケについて
ポカヨケは、製品の不良を発見する仕組みとご紹介しましたが、「どのタイミングで対策をするのか?」という時系列で分類することができます。ここでは、不良が発生する前、発生した時、発生した後の3つに分けて、どういったポカヨケが行われるのかをご紹介しておきます。
不良が発生する前
製造ラインにおいて、不良が発生し得るリスクをあらかじめ評価・検討を行ったり、製造技術上の原理を利用して、事前に不良の発生を防ぐタイプのポカヨケです。
例えば、位置ずれなど作業員のミスが発生した時点で、次の工程に進めなくなるなど、フールプルーフ設計※1が該当します。
作業者が誤った操作をしても安全を確保できるよう、あらかじめ対策を講じておくという考え方
不良の発生時
製造ライン上において、不良が発生した瞬間、もしくは工程の中で不良の検知や防止を行うタイプです。
このタイプは、製造ライン内において、画像認識や光学センサなどによって不良を検知する仕組みを組み込み、不良を検知した場合にはブザーやランプなどで通知するというものが該当します。また、何らかの異常を検知した際に、機械を停止したり操作盤をロックするなどのタイプも存在します。
不良が発生した後
最後は、製造ラインなどでの不良の発生は許し、後工程で検査することで、不良品の出荷を防止するタイプです。
このタイプは、製品の包装や出荷ラインにおいて、形状などに問題がある場合は、自動的にその不良品を弾くような仕組みになっているものが該当します。
ポカヨケの具体例について
それでは最後に、近年の製造業界で導入されているポカヨケについてご紹介しておきましょう。現在では、IT、IoT、ICTなどのデジタルテクノロジーが急速に進化しており、最新テクノロジーを活用したポカヨケがたくさん導入されるようになっています。
ARと音声でヒューマンエラーを防止
製造工程の中には、複雑な作業や危険が伴う作業も多いのですが、こういった作業は正確さが求められるため、作業員の経験やスキルに依存してしまうことがあります。
しかし現在では、タブレット端末とARガイダンス、音声ガイダンスを組み合わせたナビゲーションを導入することで、経験やスキルに頼らなくても正確な作業が可能になっています。作業手順を、映像と音声で確認しながら進めることができるため、ヒューマンエラーを防止することができます。
ICタグやバーコードを活用
ICタグやバーコードを活用することで、製品や部品を電子的に識別することが可能になります。また、製造工程における加工履歴なども保存・管理することができるようになるため、生産管理システムなどと連携させておけば、不良の発生を大幅に削減することが期待できます。
例えば、製品が特定の工程を終えるたびに、バーコードなどを読み取り、作業状況を更新していれば、作業員のミスで何らかの工程の作業漏れが生じた場合、ラインを停止し、作業漏れのある製品を排除できるようになります。
ポカヨケ機能付き工具
現在では、トルクレンチやプライヤーレンチなど、作業員が使用する工具のIoT化が進んでいます。例えば、工具にポカヨケ用の送受信機を取り付けることで、誤組み付けの防止ができるような工具が存在します。また、空打ち防止のためにロックがかかる工具や締め付け忘れを防止する工具など、作業員のヒューマンエラーを防止する仕組みが工具自体に取り付けられるようになっています。
まとめ
今回は、製造現場における『ポカヨケ』の基礎知識についてご紹介してきました。『ポカヨケ』という言葉については、もともと囲碁や将棋の世界で、「考えられないような悪い手(ポカ)を回避する(よける)こと」が語源になっていると言われていると言われています。製造業における『ポカ』の要因は、ヒューマンエラーにより生じてしまうミスの事で、これを防止するための仕組みが『ポカヨケ』と呼ばれています。
特に現在では、さまざまな最新テクノロジーの進化があり、人間がミスをした場合、自動的に製造ラインをストップして、不良品が市場に流れることを防いでくれるような仕組みがたくさん存在するようになっています。どれだけ経験豊富な作業員でも、100%ミスを回避できる…なんてことはありませんし、「ミスは発生するもの」として、ミスによる不良をどのようにして検出していくのかが大切になります。
現場ごとに、必要なポカヨケの仕組みは変わってしまうと思いますので、まずは、どのような仕組みが存在するのかを調べてみることからスタートすると良いのではないでしょうか。