物流関係の仕事に携わっている方であれば『ラストワンマイル問題』という言葉を一度は耳にしたことがあるでしょう。ラストワンマイル問題は、配送の最終拠点から配送箇所(エンドユーザーの居住地など)までの区間(これがラストワンマイル)に生じるさまざまな問題のことを指しています。
例えば、EC市場が年々拡大することによって、宅配サービスの取扱量が激増しているにもかかわらず、ラストワンマイルの配送を担う人手が圧倒的に不足しており対応できない、また同業他社との競争力強化のため、各配送業者が行っている無料配送や再配達、当日配達など、サービスと配送料金のつり合いが取れなくなってきているといった事が代表的なラストワンマイル問題です。
コロナ禍の現在、巣ごもり需要の拡大などもあり、インターネット通販の利用者はさらに増加し、物流業界では、何とかこの問題の解決策を探している所だと言われています。そこでこの記事では、ラストワンマイル問題における課題や、解決のために取り入れられ始めた対策についてご紹介します。
Contents
ラストワンマイルにおける課題とは?
それではまず物流業界のラストワンマイルにおける課題を簡単にご紹介しておきます。インターネットでさまざまな物が購入できる現在では、スマートフォンやタブレットを利用すれば、どこにいても買い物ができる時代になっています。消費者からすれば非常に便利な時代になっていますが、それを支えている物流業界は配送サービスの多様化や再配達の増加などの問題から年々疲弊していっていると言われています。
ここでは、物流業界を悩ませているラストワンマイルの代表的な課題をご紹介しておきます。
送料無料が引き起こす問題
近年、多くのECサイトでは、競合他社との競争のため『送料無料』を施策として行っています。しかし、低価格帯の製品オーダーで行われる送料無料のサービスでは、ECサイト側の利益を残すために、配送コストの削減も同時に行われています。配送コストの削減については、運送会社への支払い削減がメインとなっており、運送会社の利益率は低下していっているという問題が起きています。
EC市場は、現在でも拡大を続けており、年々配送需要は高くなっているものの、送料無料合戦などが要因となり、配送会社の利益率は低下しています。最近では、コンビニ受け取りサービスなどが導入されるようになっていますが、高額マージンが発生することから、利益率はあまり改善されていないと考えられます。
再配達の増加
ラストワンマイルの非常に大きな課題になっているのが再配達です。国土交通省が公表したデータによると、2019年10月時点での再配達率の全国平均は約15%となっています。なお、2018年における宅配便の取扱量は、43億701万個だったそうですが、このうち再配達が発生した宅配便の数は約6億8,912万個もの数に上っています。
このように、宅配便の約2割弱が再配達になってしまうという現状は、配送業者に不要な労働コストがかかっているということで、生産性の低下や労働力不足などの問題を引き起こします。ちなみに、平成26年度に環境省(委託事業者:佐川急便㈱)が行った調査では、「宅配便配達の走行距離の内25%は再配達のために費やされている」という結果が出ています。
※コロナ問題以降、在宅率が高くなっていることから、2020年以降は再配達率が急減しています。ただし、この状況はコロナ問題解消以後どうなるかまだ分かりません。
参照データ:国土交通省「宅配便の再配達率サンプル調査」
参照資料:国道交通省「宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について」
ドライバー不足
これは厳密には物流業界全体の課題とされているのですが、ラストワンマイルの部分では特に顕著なので簡単に触れておきます。EC市場の拡大により、年々配送需要は高くなっているものの、配送会社の中には「トラックドライバーを確保できない」ということが原因で倒産してしまう企業が増えていると言われています。さまざまな業界で人手不足が深刻化していますが、以下のような理由からも物流業界のドライバー不足が加速していると言われています。
- ドライバーの待遇の問題
一つ目は、送料無料合戦などからくる配送コストの削減のせいで、ドライバーに十分な賃金が支払われていないというケースがあると言われています。この問題は、日本の物流業界で習慣化している『多重請け』も大きな要因と言われています。多重請けとは、配送依頼が、孫請け、ひ孫請けと言った感じに、より下請けの業者に流れている業態のことを指します。このような習慣から、中間マージンを差し引かれることで、ラストワンマイル部分を担うドライバーの配送単価が安くなってしまうという問題が起きています。 - ドライバーの待遇の問題②
これも待遇の問題の一つですが、トラックドライバーの長時間労働も問題視されています。荷物の受け取りや納品にかかる待ち時間など、いわゆる荷待ち時間や上述したような再配達など、非効率な作業に多大な時間がとられてしまうことから、業務時間が増加してしまいます。このような待遇の悪さから、トラックドライバーのなり手が少なくなっていると言われています。 - 宅配需要の増加
国土交通省の発表によれば、2020年度の宅配便取扱個数は前年度比11.9%増の48億3647万個と6年連続で過去最多を更新し、年々増え続けています。 - 労働人口の減少
少子高齢化の進む日本では、労働人口の減少が社会問題になっています。さまざまな業界で人手不足が深刻化していると言われている中、物流業界でもドライバー不足を感じている企業が約6割に達していると言われています。
参考:国土交通省「令和2年度宅配便取扱実績について」
参考:国土交通省「物流を取り巻く現状について」
ラストワンマイル問題解決のための対策とは?
それでは、ラストワンマイル問題解決のために導入され始めた対策についても簡単にご紹介していきましょう。
Uber(ウーバー)の配達版サービス
ドライバー不足の対策として期待されているのが、配達版のギグ・エコノミーサービスです。新型コロナウイルス問題を経験した現在では、ウーバーイーツを始めとしたフードデリバリーサービスが急速に普及しています。
そして物流業界でも、これと似たようなサービスが登場しています。簡単に言うと、配達業務のアウトソーシングをアプリなどを利用して一般人に募り、依頼するというものです。分かりやすい例を挙げると、『Amazon Flex』などがこれに該当します。
ロボットやドローンの活用
ロボットやドローンを使用したラストワンマイルソリューションも多く出てきています。
日本国内では、通販大手の楽天市場が、ドローンを利用した物資配送検証や自動配送ロボットが公道を走行してスーパーの商品を地域住民に配送するといった実証実験を既に開始しています。
まとめ
今回は、物流業界におけるラストワンマイル問題について解説してきました。ECサイトを利用して物品を購入するだけの消費者からすれば、「配達するものが増えているのだから配送会社も儲かっている!」と考えている方が非常に多いと思います。
しかし、現実には、大手ECサイトのほとんどが『送料無料』を打ち出し顧客の囲い込みを行っていることから、配送需要の増大が物流業界の首を絞めているという不思議な状況になっていると言われています。実際に、帝国データバンクが公表した「2013~2019年の過去7年間の業種別累計倒産件数上位出所」では、道路貨物運送業が第二位の木造建築工事業を2倍近く離して圧倒的な一位となっています。
物流におけるラストワンマイル問題は、再配達の増加が非常に大きな要因になっていますので、一般消費者側が「一度で受け取るようにする」という意識を強く持つことも大きな対策になるのではないかと思います。