いよいよ東京オリンピック開催まで1年を切りました。最近では、東京オリンピックで開催される各種目の代表選手決定のニュースも増えてきており、徐々に本格的な盛り上がりを見せています。しかし、街中の飲食店など、食品関連の企業に勤めている方であれば、東京オリンピック開催に向けて楽しみな気持ちばかりではないかもしれませんね。というのも、2020年に行われる東京オリンピック・パラリンピックと時期を同じくして、HACCP(ハサップ)の制度化が決定されたからです。これは、日本の徹底した衛生管理を国内外に示すことを目的にしているとも言われています。
HACCPの制度化は、2018年6月の改正食品衛生法の可決により決定されたのですが、制度化が決まってから1年を経過した現在でもHACCP制度化までのスケジュールなどがいまいちわかっていない…という人も多いようです。特にHACCPの制度化には猶予期間なども設定されているため、「結局はいつまでに導入する必要があるの?」と不安に思っている方も多いことだと思います。
そこで今回は、HACCP制度化までのスケジュールについて簡単にご紹介しておきます。
Contents
そもそも食品衛生法の何が改正された?
それではまず、2018年6月に可決された『改正食品衛生法』で何が変わったのかを押さえておきましょう。『改正食品衛生法』では、食品の製造・加工・調理・販売などを行う、全ての食品関連事業者を原則対象として、HACCPによる衛生管理の導入を制度化すると決定しています。この法案の概要は以下の通りです。
1.広域的な食中毒事案への対策強化
国や都道府県等が、広域的な食中毒事案の発生や拡大防止等のため、相互に連携や協力を行うこととするとともに、厚生労働大臣が、関係者で構成する広域連携協議会を設置し、緊急を要する場合には、当該協議会を活用し、対応に努めることとする。
2.HACCP(ハサップ)*に沿った衛生管理の制度化
原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める。ただし、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とする。
* 事業者が食中毒菌汚染等の危害要因を把握した上で、原材料の入荷から製品出荷までの全工程の中で、危害要因を除去低減させるために特に重要な工程を管理し、安全性を確保する衛生管理手法。先進国を中心に義務化が進められている。
3.特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集
健康被害の発生を未然に防止する見地から、特別の注意を必要とする成分等を含む食品について、事業者から行政への健康被害情報の届出を求める。
4.国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備
食品用器具・容器包装について、安全性を評価した物質のみ使用可能とするポジティブリスト制度の導入等を行う。
5.営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設
実態に応じた営業許可業種への見直しや、現行の営業許可業種(政令で定める34業種)以外の事業者の届出制の創設を行う。
6.食品リコール情報の報告制度の創設
営業者が自主回収を行う場合に、自治体へ報告する仕組みの構築を行う。
7.その他(乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化、自治体等の食品輸出関係事務に係る規定の創設等)
施行期日
公布の日から起算して2年を超えない範囲内において政令で定める日(ただし、1.は1年、5.及び6.は3年)
引用:厚生労働省『食品衛生法等の一部を改正する法律(平成30年6月13日公布)の概要』より
この法案は、法案公布後の2年後となる2020年6月から施行されるのですが、1年間の猶予期間というものが設けられています。したがって、全ての食品関連事業者は、遅くとも2021年6月にはHACCPによる衛生管理を導入しなければならないのです。
HACCP制度化のスケジュールは?
それでは、HACCP制度化の流れを具体的に見ていきましょう。そもそも法律というものは、法案が可決されたからと即日に施行されるわけではありません。当然、法律のあおりを受ける業者側の準備なども必要になるわけですので、「はい、明日からHACCPに沿って衛生管理をしてください!」と言われても困ります。
この記事で紹介している改正食品衛生法は、2018年6月に可決されたものですが、その施行は2年にわたって行われることになっており、スケジュールも決まっているのです。特に、HACCP制度化ばかりが注目されていますが、その為だけに法律が改正されたわけでもなく、他にもいろいろな内容が含まれているのです。改正食品衛生法の施行スケジュールは、厚生労働省が発表していますので、以下の図を参照しましょう。
それでは、上図からHACCP制度化に関する重要ポイントをピックアップしておきます。
HACCP制度化の決定⇒2018年6月
上述しているように、改正食品衛生法は2018年6月に可決されました。なお、可決から2年以内に順次施行されていくこともこの時点で決定しています。
HACCPに沿った衛生管理の制度化(改正食品衛生法第50条の2)⇒2020年6月
広域連携に関しては、2019年中に施行されることになっているのですが、HACCPに沿った衛生管理の制度化(改正食品衛生法第50条の2)は、2020年6月に施行することとなっています。ただし、2020年6月に施行されることが決まっているのですが、経過措置として1年間の猶予期間が設けられているため、この時点で完全に制度化されるわけではありません。
猶予期間の終了⇒2021年6月
上述の通り、2020年6月に施行されるのですが、1年間の猶予期間が設けられています。したがって、食品関連事業者すべてがHACCPに沿った衛生管理が必要になるのは2021年6月からです。ちなみに、この時点でHACCPによる衛生管理を導入していない場合には、食品衛生法違反となってしまい指導の対象となります。
さらに、食品関連の事業をする場合には、保健所に営業許可の届出をする必要があり、この営業許可の取得・更新などのタイミングで「HACCPによる管理がなされているか?」といったことをチェックされる可能性が高いでしょう。したがって、いつまでもHACCPの制度化を無視して営業できるとは考えない方が良いでしょう。
まとめ
今回は、2018年6月に決定されたHACCP制度化までの実施スケジュールについてご紹介してきました。改正食品衛生法でHACCP制度化が決定されたことは、2020年に開催される東京オリンピックで国外からの旅行者が大量に増えるというのが大きな理由とも言われています。そもそもHACCPによる衛生管理手法は1970年代からスタートしているもので、諸外国では既に導入されている場合が多いです。そのため、食品の輸出を行っている大手企業などでは、制度化が決まる前から積極的に導入が進んでいたという事実もあるのです。
今後、日本国内の衛生管理手法も諸外国の標準に合わせ、より安全な『食』を守っていくためには必要なことでしょう。もちろん、HACCPの導入にはそれなりのコストがかかってしまいますので、躊躇しているという方も多いことでしょう。まずは、HACCPによる衛生管理がどのようなものなのかを知るため、全国で開催されている講習会などに参加してみることから始めてはいかがでしょうか。制度化はもうすぐそこまで来ていますので、基礎知識ぐらいはおさえておかなければいけないでしょう。