中小企業におけるHACCPの現状とHACCP支援法について

この記事では、リテール業など、中小企業におけるHACCP(ハサップ)の現状についてご紹介します。2018年6月に食品衛生法が改正されたことにより、今まで中小企業などでは導入率が低かったHACCPの導入が制度化されることとなりました。このサイト内でも何度かご紹介していますので、HACCPの制度化に関しては皆さんもご存知かと思います。
この法改正は、原則として2021年6月までに『全ての食品等事業者』が関わることとなるのですが、家族で運営している小規模な飲食店や中小企業などでは、HACCP導入のための準備にかかるコストなどで頭を抱えている方も少なくないのではないでしょうか。大手企業などの食品工場であれば、既にHACCPの導入を完了している場合も少なくないでしょう。しかし、中小企業におけるHACCPの導入はまだまだ伸び悩んでいると言われています。
そこで今回は、農林水産省が実施した調査をもとに、中小企業におけるHACCPの現状と、HACCPの導入を支援してくれる制度についてご紹介します。

HACCP制度化が可決したけど…結局、今後はどうすればいいの?

中小企業におけるHACCPの現状

それではまず、農林水産省が発表した平成29年度HACCP導入状況をご紹介しましょう。食品製造業において、従業員数4人以下の企業を含めたHACCPの導入状況は以下のようになっています。

  • HACCPを導入済み:21.3%
  • HACCPを導入している途中:6.4%
  • HACCPの導入を検討している:15.4%

この資料によると、約半数近くの企業が前向きにHACCPの導入に向けてさまざまな取り組みを行っているのがわかります。しかし、事業規模ごとのHACCP導入状況データを見てみると、また違った見方ができるのです。以下でもう少し詳しくみていきましょう。

事業規模別に見たHACCP導入状況

ここでは、事業規模別のHACCP導入率をいくつかご紹介していきます。

100億円以上
  • 導入済み:89.9%
  • 導入途中:8.1%
  • 導入検討:2.0%

食品販売規模が100億円以上となると、既に90%近くの企業がHACCPの導入が完了しています。導入途中を含めると、なんと98%というデータとなります。

10億円~50億円未満
  • 導入済み:57.7%
  • 導入途中:17.0%
  • 導入検討:17.4%

食品販売規模が10億円~50億円未満でも、90%以上の企業がHACCP導入に前向きな姿勢を示しています。

5,000万円未満
  • 導入済み:11.4%
  • 導入途中:2.0%
  • 導入検討:9.9%

食品販売規模5,000万円未満では、現状約1割の企業でしか導入されておらず、導入途中や導入検討中を含めても2割強と、驚くほど導入率が下がっています。

上記のように、HACCP導入に関しては、事業規模が大きいほど導入が進んでいることがわかります。逆に言えば、事業規模が小さい企業では、HACCP導入が全く進んでいないといって良いような状況になっており、2021年6月に向けて対応を急がなければならない状況と言えるでしょう。

参考資料:農林水産省『食品製造業におけるHACCPの導入状況実態調査結果

中小企業でHACCP導入が伸び悩む理由とその対策

それでは、中小企業においてHACCP導入がここまで伸び悩む理由とは何なのでしょうか?HACCP制度化が決定されたものの、導入すら未定と答えている企業が挙げている問題点をご紹介しましょう。

  • 施設・設備の整備(初期投資)に係る資金がネック:78.1%
  • HACCP導入までにかかる費用(コンサルタントや認証手数料などコスト):60.7%
  • HACCP導入後にかかるモニタリングや記録管理コスト:46.4%
  • 従業員に研修を受けさせる金銭的余裕がない:26.6%
  • HACCP導入手続きの金銭以外のコスト:40.6%

HACCP導入に躊躇してしまう理由は、上記以外にもあるようですが、やはり多くの企業が金銭的なコストを問題視して導入を踏みとどまっているようです。実際に、小規模な飲食店などでHACCPの導入を考えた場合でも、50~100万円程度の費用が必要になると言われており、さらに、HACCP認証を更新する場合にも10~20万円程度のコストが必要になってしまいます。こういったコストの問題は、中小企業の経営に大きな負担となりうるため、中小企業のHACCP導入が思うように進まないと言われています。

HACCP導入には『HACCP支援法』を活用しよう

HACCP導入のネックとなる金銭的負担を軽減し、導入の推進を目的として『HACCP支援法』という法律が制定されています。

⾷品製造事業者が、HACCP導⼊の前段階の衛⽣・品質管理の基盤の整備(⾼度化基盤整備)⼜はHACCPを導⼊するための施設・設備の整備を⾏う際、指定認定機関に「⾼度化基盤整備計画」⼜は「⾼度化計画」を提出し、認定を受けると、(株)⽇本政策⾦融公庫の⻑期低利融資を受けることができます。
引用:農林水産省HACCP支援法資料より

HACCP支援法は、HACCP(危害分析・重要管理点)の導入による食品の製造過程の管理高度化を進めることが目的で、導入に必要となる施設・設備の整備に対する金融支援を講ずるものとなっています。具体的な内容を簡潔にまとめると以下のような支援を受けることが可能です。

対象 食品の製造または加工の事業を行う中小企業者(資本金3億円以下または従業員300人以下等)
対象事業 建物の整備、衛生管理設備の設置、監視制御システムのための機械・設備の設置
限度額 事業費の80%以内または20億円のいずれか低い額

※食品産業品質管理高度化促進(HACCP)資金の詳細はコチラをご確認ください。

これは、HACCP導入の際に、多くの中小企業でネックとなる施設や設備の整備にかかる費用を、日本政策金融公庫から低金利で融資してもらうことができる制度となっています。資金面がネックとなり、HACCP導入に躊躇しているという中小企業は、ぜひこの制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。

まとめ

今回は、中小企業におけるHACCP導入の現状と、導入の手助けとなる制度についてご紹介しました。改正食品衛生法によって、全ての食品等事業者への導入が制度化されたHACCPですが、その導入速度は事業規模によって大きく異なることがわかっています。特に、食品販売規模が5,000万円未満の中小企業となると、極端にHACCP導入率が低くなっています。中小企業では、そもそもHACCPに詳しい人間がいないなど人材的な問題もあるのでしょうが、最も大きなネックとなっているのが導入にかかるコストが大きな負担になるということです。
上述していますが、HACCPの導入は小規模な飲食店だとしても100万円程度かかることも珍しくないため、導入したくてもなかなか余裕ができない…という面もあるのでしょう。コスト面がネックとなりHACCP導入に二の足を踏んでいるというのであれば、本稿でご紹介したような支援制度などを利用することも検討してみてはいかがでしょうか。

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