最近では、近所のスーパーや飲食店などでも、輸入物の食品を簡単に口にすることが出来るようになりました。それどころか、現在の日本人の食生活においては、輸入物の食品は欠かすことのできない存在となっています。しかし、輸入物の食品は、国内で生産される食品と比較すると、出荷してから消費者の口に届くまでに非常に長い時間がかかる事も多く、食品の衛生状態の管理は非常に重要なポイントです。
このような食品の衛生管理において、アメリカやEU諸国ではかねてより『HACCP(ハサップ)』と呼ばれる方式が重視されていたのですが、近年日本においても『HACCP(ハサップ)』の導入が議論の的となっていたのです。そして、世界中の流れに沿って日本でも、2018年6月に『HACCP(ハサップ)』の制度化が盛り込まれた改正食品衛生法案が衆院で可決されました。改正食品衛生法案については、食品の製造・加工・調理・販売等を行う幅広い業者に対して適用されるものですので、このような業界で働く方であれば、このニュースについていち早く情報を得た方も多いことでしょう。
このような状況下で、「改正食品衛生法案によって『HACCP(ハサップ)』が制度化された後は、具体的にどのようなことをすればいいのだろう?」この辺りの疑問を持っている方は非常に多いのではないでしょうか?
そこで今回は、『HACCP(ハサップ)』が制度化されたことによって、今後業界がどのようになっていくのか、また、どのようなことを行わなければならないのか、についてご紹介していきたいと思います。
HACCPとその安全管理体制について
近年世界中で義務化の流れとなっている『HACCP(ハサップ)』ですが、これは「Hazard Analysis Critical Control Point」の頭文字をとったものであり、直訳すると「危害分析重要管理点」と訳せます。このHACCPという管理手法は、元々アメリカのNASAにおいて宇宙食の安全性を確保するために作られたもので、日本国内におけるHACCP導入は、平成7年の食品衛生法改正の際、HACCPの考えに基づいた「総合衛生管理製造過程」と呼ばれる承認制度がスタートです。
このHACCPは、世界中の食品流通が活発になった現在、様々な場所で発生する環境汚染や微生物による食品の安全性低下が懸念されていることを発端として大注目となっているのです。したがって、多くの国々で、食品の安全性を確保するための安全管理体制の強化が急務とされ、今日においてHACCPが国際的な衛生管理手法として採用・順守されるようになっているのです。
注意が必要なのは、HACCP認証を管理するのは特定の1つの団体というわけではないという事です。日本において考えれば、厚生労働省や地方自治体、民間審査機関等と、いろいろな機関で取得できるようになっており、食品を取り扱う際の管理でHACCPを活用するときには、近隣にこれらの団体があるのかも探してみる必要があるのです。
HACCP導入後の安全管理体制はどう変わる?
それではHACCP導入前後で、食品の安全管理体制にどのような違いが出るのかを、食品の製造工場における一例で簡単にご紹介しましょう。
HACCP前の従来の食品製造業における安全管理は、一般的に「製造した製品の中からランダムにピックアップした製品を検査し、安全性と品質のチェックを行う。」といった体制で安全性の維持に努めています。このような検査は、定期的に行われることになっており、万が一何らかの異常が確認された場合、その前後の製品は全て破棄されることとなります。このような安全管理体制を作り、消費者に異常のある製品がいきわたらないようにしているのです。
その一方で、HACCP導入後には、完成された製品のみを検査するのではなく、調理される原材料が最終的に袋詰めされる工程において様々なポイントで検査が行われます。特に異常が発生しやすいと思われるポイントで検査を行うため、HACCP導入前と比較してもより異常を発見しやすく消費者の安全性を確保できるわけです。さらに、HACCPの基準に沿った安全管理の場合、異常が確認できた時点で製造を中止することが出来るので、従来の方法のように製品の大量廃棄などの問題も防止できるため、生産者側にとっても大きなメリットとなるのです。
改正食品衛生法案
それでは、2018年6月に可決された『食品衛生法等の一部を改正する法律』の主な内容についてご紹介しておきましょう。法案の主な内容は以下のようなものとなっています。
- 広域的な食中毒事案への対策強化
- HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化
- 特別の注意を必要とする成分等を含む食品による健康被害情報の収集
- 国際整合的な食品用器具・容器包装の衛生規制の整備
- 営業許可制度の見直し、営業届出制度の創設
- 食品リコール情報の報告制度の創設
- その他(乳製品・水産食品の衛生証明書の添付等の輸入要件化、自治体等の食品輸出関係事務に係る規定の創設等)
この改正法の中で、HACCPの制度化に関する部分は②の「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理の制度化」の部分です。この改正法では、
原則として、すべての食品等事業者に、一般衛生管理に加え、HACCPに沿った衛生管理の実施を求める。ただし、規模や業種等を考慮した一定の営業者については、取り扱う食品の特性等に応じた衛生管理とする。
引用元:厚生労働省発表の資料より
上記のように規定されています。これにより、国際的な食の安全意識に沿ったHACCPが当たり前の時代となるのですが、新しい検査システム導入にかかる費用は、中小の零細企業にとって死活問題となる場合もあるでしょう。その為、きたるHACCP制度化の前に、今のうちから準備を実行していくことが重要となります。
HACCP導入に必要な事
ここまでは、6月に可決された『食品衛生法等の一部を改正する法律』によるHACCPの制度化についてご紹介してきました。それでは、具体的に何が必要なのか考えてみましょう。HACCP制度化後の食品衛生の安全性確保には、まずHACCP導入のための『7原則12手順』の実施が必要不可欠となります。その為、食品等事業者に関しては、HACCP管理体制の確立からスタートしなければいけません。
HACCP導入のための7原則12手順は、厚生労働省の資料が非常にわかりやすいのでぜひ参考にしてみてください。
HACCPは、上図の10までの手順と12を実施することで導入が確定するわけです。こう聞くと簡単なように思えますが、実際に実行しようと思えば相応の労力とコストが必要となります。したがって、「いざ制度化スタート!」となった時にバタバタしなくても良いよう、事前に準備を進めていく事が非常に重要です。その中で、自社だけでは実施が難しそうな部分は専門家に委任するなどの方法も見えてきますので、時代の流れに乗り遅れないよう、出来るだけ早く準備を整えましょう。
まとめ
今回は、日本国内でも2020年から制度化されることになったHACCPについて、その詳細と今後業界で必要になることについてご紹介してきました。HACCP制度化については、2020年東京オリンピックが開催される事が念頭に置かれているという事も大きいものですが、現在世界中で制度化の方向に向かっているものですので、食の安全性の確保の為にも日本も遅れをとるわけにはいかないわけです。制度化により、新しい管理体制の確立が必要になり、中小企業にとっては負担になることは間違いありません。しかし、近年では、食品安全が担保されない事業者とは、取引しないという方針の広がりもあり、制度化以前の問題にもなっているという現実もあるのです。
どちらにせよ、HACCP制度化は決定してしまったものですので、今のうちから制度化に向けた準備を進めていく方が良いでしょう。