今回は、工場や倉庫における防虫対策についてご紹介していきたいと思います。食品を取り扱う工場や倉庫では、万一、異物混入があった場合、企業の存続を揺るがすほどの問題に発展しかねないため、非常に厳しい品質管理・衛生管理体制が整えられているものです。しかし、21世紀になった現在でも食品への異物混入問題が完全になくなることはなく、『頻繁に』といって良いほど異物混入のニュースを耳にしている気がします。先日も、大手外食チェーンの一店舗で、提供された食事の中にゴキブリが混入していたことが問題となったのは記憶に新しいですね。
もちろん、製品への異物混入といっても混入する物質は様々な物があり、とりわけその中でも『虫の混入』に関しては心理的影響も加味されるため、大きな問題に発展しやすい傾向にあるように思えます。食品の製造現場や製品を保管する倉庫などでは、薬剤を使った防虫対策など、様々な手段で防虫対策が行われていると思います。しかし、1匹の虫の死骸から異物混入につながることもあるため、薬剤を使った科学的防除だけでは限界があるとも言われるのが工場や倉庫での防虫対策なのです。
そこで本稿では、『食の安全』を保つために、異物混入の原因となる虫の生態やその対策についてご紹介します。
Contents
異物混入の原因となる虫の種類や侵入経路について
それではまず、工場や倉庫において、異物混入の原因となりうる害虫の種類や「どのようにして施設内に侵入するのか?」という侵入経路について考えていきましょう。ひとくちに『虫』といっても、様々な虫がいますので、異物混入の原因となりやすい虫の生態を押さえておくことは、施設の防虫対策にとても大切な知識になると思います。
異物混入の原因となる害虫の種類
工場や倉庫において、異物混入の原因となる虫には様々な種類があります。東京都健康安全研究センターが発表した『食品に混入し苦情となった虫類の検査結果』では、鞘翅目(甲虫)・鱗翅目(チョウ・ガ)・双翅目(ハエ・カ)・膜翅目(ハチ・アリ)・網翅目(ゴキブリ)の昆虫が異物混入の8割以上をしめていたとの結果が出ています。つまり、様々な害虫の中でも、「これらの虫の侵入をどのようにして防ぐのか?」ということが非常に重要になります。
それぞれの生態を簡単にご紹介しておきましょう。
- 鞘翅目・・・カブトムシ、クワガタムシなど
昆虫界最大のグループで、体が堅い鞘で覆われている虫です。木材、衣類などの活力を失った動植物を食べるため、異物混入以外にも食害に注意が必要です。また、食菌性のものも多いため、カビの繁殖にも注意が必要です。 - 鱗翅目・・・チョウ・ガなど
異物混入で問題となるのは主に『ガ』ですが、チョウも含まれます。強い走光性(光に誘引される性質)を持っており、夏場のコンビニなどで窓に張り付いている姿を見ることも多いでしょう。これらは、飛来侵入が多いと思われがちですが、原料に紛れて侵入することの方が多いと言われています。 - 双翅目・・・ハエ・カなど
ハエ・カの異物混入も多いです。これは、飛来侵入と屋内発生両方を注意する必要があります。屋内発生の場合は、主に排水系が発生源となるため、排水溝を常に清潔に保つ必要があります。飛来侵入は、腐敗臭に誘引されるものも多く、ゴミの管理が重要です。 - 膜翅目・・・ハチ・アリなど
最近ではハチ目と呼ばれることが多いです。アリは食物を求めて外部から侵入すると考えられがちですが、原料に付着したものが工場内で繁殖する工場内発生も多いです。包装資材などもアリに汚染される危険性があるため、食品を取り扱っていないから安心とも言えません。 - 網翅目・・・ゴキブリなど
異物混入の際に最も心理的影響が大きいと言われるのがゴキブリです。これは、人為的侵入が最も多いと言われ、一部は歩行侵入します。なお、侵入・繁殖の有効な防止法が無く、殺虫剤に頼るしか有効な手段が無いとも言われます。
害虫の主な侵入経路について
異物混入の原因となる害虫の種類が分かったところで、次は主な侵入経路についてご紹介しましょう。虫がどのようにして施設内に侵入してくるのかを理解しておかなければ、有効な対策をたてるのは難しいです。
- 飛来侵入
言葉の通り、屋外から風に乗って侵入してくることを指します。ハエやガなどが該当し、考えられる経路の遮断や空気の流れを利用することによって侵入を防ぐことが可能になります。一度侵入を許せば、屋内で繁殖する可能性も出てきますので注意が必要です。 - 歩行侵入
床や壁をつたって屋外から侵入することを指します。アリやゴキブリの侵入経路として多いものです。歩行侵入を防ぐには、侵入経路を特定し、遮断することが有効です。 - 排水系発生侵入
排水設備の不備や放置された水たまりから侵入・発生するものです。排水設備に不備がある場合は、改良する必要がありますが、水たまりは比較的楽に管理することも可能です。 - 屋内発生
何らかの理由で外部から持ち込まれたことが起因となりますが、屋内で繁殖するものを指しています。薬剤などによる害虫の駆除はもちろんですが、発生源や育成環境の排除が非常に重要になります。 - 人為的な侵入
人が施設に出入りする際、衣服や原料に付着していることにより侵入するなど、人為的に持ち込まれるものを指します。害虫が屋内発生する場合の原因はほとんどこの持ち込みで、搬入経路での徹底したチェックやエアカーテンの導入などで持ち込みを防止する必要があります。
工場や倉庫における防虫対策について
それでは、工場や倉庫における防虫対策についていくつかの有効な方法をご紹介していきましょう。食品関連の取り扱いが無い場合でも、書籍や衣類に被害を及ぼす害虫もたくさんいますので、製品ごとに適した害虫への対策が必要です。
エアカーテンによる虫の遮断
工場や倉庫での防虫対策として、近年取り入れられることが多くなっているのがエアーシャワーやエアーカーテンです。エアーシャワーやエアーカーテンを出入り口に設置することで、人の出入りや原料の搬入の際に施設内に虫が侵入することを遮断することができます。
もちろん、飛来侵入してくる虫にも非常に有効な手法ですが、飛翔性昆虫の侵入を阻むには、それだけの風力や風向きをきちんと計算する必要がありますので、「ただ設置すればOK」という訳ではないと覚えておきましょう。なお、エアカーテンによる防虫対策は、大量の薬剤を使用して害虫駆除を行うことと比較すると、従業員や周辺環境、製品への悪影響を回避できるというメリットも期待できます。
ライトによる防虫対策
虫が光に誘引される性質を利用した『捕虫器(補虫器)』も有効な防虫対策になるでしょう。捕虫器は、誘引した虫を粘着テープなどで捕獲するものや、高電圧で殺虫するものなど、様々な種類が販売されています。ただし、非常に有効といわれる捕虫器ですが、その使用方法を間違ってしまうと、却って虫を増やしてしまう結果になるので注意が必要です。分かりやすい例で言えば、昔は出入り口の近くに捕虫器を設置しているコンビニが非常に多く見受けられましたが、これは間違った使用法の典型例と言えるでしょう。出入り口付近に虫が集まると入口の開閉時に店内に虫が侵入してしまうからです。
捕虫器は単独で効果を発揮するものではなく、他の対策と組み合わせて利用する必要があるものがほとんどで、使用環境によって必要とする捕虫器のタイプが異なります。この辺りは専門家と相談しながら導入する捕虫器を決めましょう。
まとめ
今回は、工場や倉庫における防虫対策に関してご紹介してきました。本稿でもご紹介したように、異物混入の原因となる昆虫には、様々な種類が存在しており、さらにその侵入経路も様々です。したがって、自社の工場や倉庫で防虫対策を進める場合には、取扱製品や従業員の出入り、原材料や製品の搬入経路などを総合的に分析し、どのような防虫対策が必要になるのかをしっかりと考える必要があるでしょう。
工場や倉庫に施す防虫対策は、設計段階において検討するのが最も良いと言われています。上述した捕虫器による防虫対策を成功に導くことを考えても、建物の構造や設備によって設置に最適な場所の選定が必要になるからです。したがって、そういった実績の多い建設会社に依頼するのが最もオススメです。
また、既存施設で虫に関する問題に悩まされている場合は、問題点の洗い出しをしっかりと行った上で専門家に相談してみることをオススメします。