2016年に成立した『自転車活用推進法』は、2017年5月より施工されています。この法律は、国策として自転車の利用を後押しするもので、近年では自転車専用レーンの充実やシェアサイクルの整備、有料駐輪場の整備に合わせて、安全運転教育の推進が進められるようになっています。
自転車を活用することは、健康促進のメリットがあるだけでなく、自動車などとは異なり排気ガスを生じない移動手段となるため、環境負荷の低減も期待できるなどという利点が存在します。さらに、コロナ禍の現在では、『密』を避ける移動手段となるため、感染症予防の面でも大きな期待が寄せられるようになっています。
しかし、新型コロナウイルス問題以後は、食品宅配サービスに自転車が活用されることが多くなり、業務中の自転車による交通事故(2020年1~9月)が前年同期比で8.9%増の958件も発生しています。特に、歩行者との衝突事故に関しては、同59.1%増と急激に増えています。
そこでこの記事では、物流業界のトラックドライバーの方がおさえておきたい、自転車事故が増加している理由について簡単に考えてみたいと思います。
データ参考:日本経済新聞記事より
Contents
コロナ禍で自転車利用者が増えている?
日本国内でも緊急事態宣言が出されるなど、新型コロナウイルスは私たちの社会生活を一変させたと言っても過言ではありません。「三密の防止」や「人との接触を減らす」ということが求められるようになってから、テレワークや在宅勤務といった働き方が急速に普及しています。さらに、従来の通勤形態も大幅に見直されるようになっています。以下のグラフは、株式会社Works Human Intelligenceが行ったアンケート調査なのですが、企業の自転車通勤への認識がコロナ問題後に大きく変わっているのがわかります。
上記のグラフは「青:全社で対応、水色:一部で対応、緑:検討中、赤:検討していない」という回答の割合になるのですが、コロナ問題以後は6割を超える企業が自転車通勤への対応を行うようになっています。公共交通機関を利用した通勤であれば、どうしても『三密』を回避することができません。しかし、それを避けて自転車通勤に切り替えることで、通勤時の感染の危険性がかなり低減できると考えられているのだと思います。特に、人が密集する都市部では自転車通勤の注目度が非常に高くなっていると言われています。
しかしこのような状況の中、自転車の危険性についてさまざまな問題がクローズアップされるようになっています。冒頭でご紹介したように、歩行者との衝突事故が急増している他、自動車を運転するドライバーにとっても危険を感じてしまうケースが増加していると言われています。自転車は、非常に利便性が高い乗り物なのですが、特に免許の取得などを必要としませんし、安全教育を受ける必要もありません。また、道路交通法上の制約なども少なく、運転者は法律の意識すらせずに運転しているという場合の方が多いのではないかと思えるほどです。
こういった状況もあり、自動車を運転するドライバーにとっては、自転車が不安を煽る存在になりつつあると言えるでしょう。
注意しておきたい自転車の特徴
それでは、物流を担うトラックドライバーの方など、自動車を運転する方が注意しておきたい自転車の危険性についてご紹介していきましょう。
①自転車は思った以上にスピードが出る
一口に自転車といっても、最近ではさまざまな種類が存在しています。一昔前までであれば「ママチャリ」などと呼ばれるファミリータイプの自転車が多かったのですが、最近では電動アシスト付き自転車や「ロードバイク」などと呼ばれるスポーツサイクルを利用する方が増えています。
このどちらのタイプも、従来の自転車と比較すればかなりスピードがでますので、自動車のドライバーは注意しておかなければいけません。「所詮自転車でしょ…」などと甘く考えてしまう方も多いのですが、スポーツサイクルになると、自動車とあまり変わらないレベルのスピードで車道を走っていることも珍しくありません。さらに、電動アシスト付自転車の場合、踏み始めの加速をアシストしてくれますので、従来の自転車よりもかなりスムーズにスピードアップします。そのため、横断歩道などで不用意に右折などをしてしまうと、自転車ユーザーの動きが予想以上に早く、接触事故に発展してしまう…などという危険があります。
②自転車も急には止まれない
①にも少し関連していますが、自転車は大したスピードは出ないし、いざという時はすぐに停止できると考えている方も多いです。しかし、この認識自体が少し間違っており、実際には自動車ほどスムーズに止まることができない…という特徴があります。
自転車は自動車と異なり、2つのタイヤしかありませんので、そもそも「不安定な乗り物」です。人が乗って走っている時は普通に安定していますが、停車時はスタンドが無ければ独立して立っていることもできないほどバランスが悪い乗り物だということを忘れてはいけません。特に停車時にはこのバランスが崩れてしまいやすく、急ブレーキをかけた時にはバランスを崩して転倒してしまう…という危険が非常に高い乗り物です。
上述したように、スポーツバイクなどは自動車とあまり変わらない速度がでますので、「自転車は簡単に停まれる」とは考えない方が良いです。
③自転車ユーザーは想像以上に道路交通法に疎い
これは、普段自動車の運転を良くする方にも言えるのですが、道路交通関係の法律を知っていたとしても、自転車に乗る時にはあまり意識していない…という方が非常に多いように思えます。例えば、2019年12月から、自動車と原動機付き自動車を対象にスマホのながら運転が厳罰化されました。これは、スマホのながら運転が非常に危険なためなのですが、それが分かっていても、スマホを片手に自転車を運転している方は現在でもよく見かけます。ちなみに、道路交通法上、自転車は軽車両に分類されますので、法的にはさまざまな安全義務が課されており、それに違反した場合、罰金などの処分を受けることがあります。しかし、その辺りを認識せずに自転車の運転をする方は非常に多いのが現状です。
そもそも自転車は、交差点で右折する場合、原付バイクと同様に二段階右折が必要ですし、一時停止の標識にも従わなければいけません。しかし、こういった法律をきちんと守っている運転者の方が少ないのが現状で、自動車のドライバーにとっては非常に危険な相手だと考えておかなければいけません。
まとめ
今回は、物流を担う自動車のドライバーにとって非常に危険な存在となりつつある、自転車についてご紹介してきました。日本政府では、健康促進や環境負荷低減などを目的に、自転車の接触利用の促進を数年前から進めています。そして、今回の新型コロナウイルス問題発生以後、通勤や食品の宅配サービスが拡大したことにより、街中を走る自転車が急増しているように思えます。
もちろん、マナーを守って自転車の運転を行う方もいますが、中には道路交通法を全く無視して縦横無尽に自転車で走っているという方も少なくありません。万一、自動車と自転車の衝突事故などが発生した場合、現在の道路交通環境では、自転車が交通弱者とみなされてしまい、事故の過失責任は自動車ユーザーが負わなければならない可能性が非常に高いです。
したがって、この記事でご紹介したように、自転車の危険性を自動車ドライバー側もしっかりと認識して、普段から注意しておくようにしましょう。