少子高齢化が進む日本では、さまざまな業界で労働力不足が深刻化しています。企業の人事を担う方の中には、新たに優秀な人材を確保するため、新卒採用の戦略に頭を悩ませている…という場合も多いのではないでしょうか?近年では、他社との差別化のため、従業員がより働きやすくなる社内環境を目指して、ユニークな福利厚生を導入する企業も多くなっているなど、年々企業間の採用競争は激化していると言われています。
しかし、企業が労働力不足に陥ってしまう原因の中でも「高い離職率」に関しては見落とされがちな傾向にあると考えています。本来、企業の『離職率』は、応募数や採用数と並んでとても気になる数字になると思うのですが、「どのようにしたら応募者数が増えるのか?」ということは気にするのに、「入社後のサポート」や「新入社員の教育」が万全に整っていると言える企業は少ないのではないでしょうか?
求職者の目を引くため「ユニークな社内制度を作る」など、人材獲得までの段階にどれだけ力を入れたとしても、入社した方がその後辞めてしまう『離職率』が高止まりしているのであれば、いつまでたっても労働力不足を解消することができないでしょう。
そこで今回は、企業の採用に携わる方ならぜひ知っておきたい離職率の現状や、高い離職率を改善するにはどのような対策が考えられるのかなどをご紹介します。
Contents
離職率の現状は?
それではまず、日本国内の離職率の現状から簡単にご紹介しましょう。離職率の意味は、
ある時点で仕事に就いていた労働者のうち、一定の期間(たとえば、ひと月、ないし、1年なり3年)のうちに、どれくらいがその仕事を離れたかを比率として表わす指標。
引用:wikipedia
となっています。ただし、この離職率については、厳密な定義はありません。一般的には、期初から期末までの1年間における人の割合で算出することが多いのですが、入社後1年間、入社後3年間などと期間を決めて離職率を算出するケースもあるなど、離職率を算出する目的によって算出期間は変わるようです。
参考までに厚生労働省の離職率の定義と算出方法は以下のページからご確認いただけます。
全産業の離職率は?
厚生労働省が公表した「平成30年雇用動向調査」によると、2018年における全産業の離職率は『14.6%』となっています。同じ期間の入職率に関しては15.4%となっており、前年離職率と比較しても0.3%の減少がみられますので、全体の傾向としては入職超過の状態にあり、売り手市場が続いていると考えられます。
しかし、労働者の背景別に見てみると、離職率に大きなバラツキがあります。例えば男女別の離職率では、依然として男性よりも女性の方が離職する割合が高くなっています。これは結婚や出産・育児を理由として離職する女性がまだまだ多い証拠であり、人材不足解消のため期待されている『女性活躍』関係の対策がなかなか機能していないのが現実と言えるのではないでしょうか。
参考資料:厚生労働省「入職と離職の推移」より
新卒の3年以内離職率は30%を超える!
それでは、新卒の3年以内離職率についても簡単にご紹介しておきましょう。
上のグラフは、厚生労働省が公表した大学を卒業・就職した人の3年以内離職率の推移です。これによると、平成27年3月大学卒業者が3年以内に就職した会社を離職した人の割合は31.8%となっています。3年以内離職率は、新卒入社の従業員がどれだけ会社に定着しているのかを示す重要な指標となっていますが、残念なことにせっかく採用した人員でも3人に1人は3年以内に辞めてしまっているのです。
ただし、グラフから分かるように、近年になって突然新卒の『3年以内離職率』が高くなっているわけではありません。いつの時代も「最近の若者はすぐ辞めてしまう」などと言ったイメージを持つ先輩社員が多いものですが、調査が開始された昭和62年以降、およそ25~35%程度の数字は常に保たれているのです。
しかし「昔から3年以内離職率はそこまで変わっていないのだ!」と安心はしない方が良いでしょう。近年では、求職者の間で離職率の高さをホワイト企業とブラック企業を見分けるための指標としている人も多く「離職率が低い=ホワイト企業」と判断する人は非常に多いのです。したがって、人材不足が叫ばれる現在、より優秀な若手人材を確保しようと思えば、離職率の改善が必要不可欠になると思います。
離職率を改善するためには?
ここまでは、厚生労働省が公表している現在の離職率の基礎知識についてご紹介してきました。もちろん、新卒採用の3人に1人が離職してしまう…というデータになっていますが、何らかの対策を行い平均的な離職率よりも圧倒的に低い離職率を実現している企業も数多く存在しています。
それでは、離職率を改善し定着率を上げていくためにはどのような対策を取れば良いのでしょうか?ここでは、高い離職率を改善するためのポイントを簡単にご紹介します。
まずは自社の離職率を把握しましょう
離職率の改善を考える場合、まず自社の離職率を把握しなければいけません。離職率が把握できてもいないのに、「どのような対策を行えばいいのか?」と考えてもあまり意味はないでしょう。
自社の離職率を算出するためには、以下の計算式を参考にしてください。
起算日に関してはそれぞれの企業で設定してください。
離職原因の追究
離職率の算出を行い、自社の離職率が高いと判断できた場合、次は従業員が「なぜ退職・転職を決意したのか?」という離職の原因を追究することが重要です。企業によっては、「辞めていく人間なんか勝手にしろ…」といった具合に、引継ぎ以外は無視してしまうなんてことをする場合がありますが、これでは原因の追究ができません。辞めていくメンバーとの話し合いはお互いに気まずいかもしれませんが、自社に潜む課題を放置しないためにもしっかりと本音をヒアリングしましょう。
その上で、複数の退職者が同じ理由を挙げるようであれば、その原因を優先的に改善していくことが重要です。参考として独立行政法人労働政策研究・研修機構が公表した新卒3年以内離職者の離職理由割合をご紹介しておきます。
離職者は、それぞれの企業に対する不満を持っていると思いますので、改善できるものから対策を行っていくと良いでしょう。特に、給与や労働時間、健康への影響などを理由に離職する人が多い場合、現在残っている従業員も同じような不満を持っている可能性が高いと言えます。したがって、「業務効率化による残業時間の削減」や「給与改定、福利厚生の充実」などの対策が必要になると考えられます。他にも、女性従業員の離職に関して、「産休・育休制度の充実」「リモートワークなど勤務形態の多様化」「社内保育所の設置」などの対策が有効でしょう。
参考サイト:三和建設の社内制度「ひとづくり寮」
まとめ
今回は、企業の離職率の基礎知識や、どのようにして離職率の改善を行っていけばよいのかについてご紹介してきました。少子高齢化が進む日本では、年々企業同士の採用競争が激化しており、どうやって優秀な若手人材を確保すれば良いのか…と、日々頭を悩ませている人事担当者は多いのではないでしょうか?
しかし、採用競争が激化する中では、「せっかく採用した人材をどのようにして定着させ、育てていくのか…」ということが見落とされがちになっています。この記事でもご紹介しましたが、企業の新卒3年以内離職率は、調査スタートから毎年30%前後を推移しており、一向に改善される様子はありません。もちろん、「優秀な人材を確保するためには?」という視点も重要ですが、企業活動を行っていく上では「今いる従業員がどれだけ働きやすいか?」ということもとても重要になると思います。